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10  胸の内

グルグル巻になっているアザミを抱きかかえていた自分。

一体何する気だったんだろうか、僕の中のあの人は......。

気怠さが残る身体でちょっとした記憶喪失とくれば、百パーセント間違いなくあの人の仕業だ。

あの人の出現率これからますます上がってくるんじゃ...?

気づけば体が奪われていたってことになるのも時間の問題?

乗っ取られた後、僕は何処に行くんだろうか?

違うな、普段あの人は何処にいるんだろうか?

もうね、敗北宣言しちゃってるから立場的には弱いけど諦めるには僕はまだやりたいことを遣り熟していない。僕には、ずっと想いを寄せている女の子がいて、無事に元居た世界に戻ったら気持ちを伝えることまで決めた矢先にだよ?何故か、周りに集まってくるのは女ばかりでタイプは違えどもかなりの美人揃いだ。嫌でも、って言いかたは失礼かもしれないけど、目に入ってくるし気にならない方がおかしい。男としておかしい。腕組み、抱きつき、ちょっとしたボディータッチは当たり前のなか、頑なに守ってきたってわけじゃないけどファーストキスだって奪われて(僕が気づく前に実際は奪われていたらしいけど)、そんなこんなで急に意識しはじめたのかも知れない。今なんて鞭で身動きできない女性を膝の上で抱え込んでいるってどんな状況なんだっ!?おまけに暴れる度に食い込んでいく鞭に身体のラインが露わになっていくのを間近で見せられて、見ないようにしようって目を逸らせば、膝から落ちそうになるし。その場にはみんなが居たからよかったけど、こんな場面でふたりきりっだったりしたら.......。あらぬ方向に行ってしまった思考を慌てて元に戻した。そんな邪な思いを張り巡らせていた僕をじっと見つめていたらしい。ストックと目が合った。


「シュンノスケってさ、カッコイイね!」


キラキラ輝く純粋な瞳が今の僕には眩しすぎた。

また、あの人の信者が増えているみたいだった。僕だって馬鹿じゃない、一見僕に向けられる、周りのちやほやされた空気は全部あの人に向けられているものだって気づいてはいるんだ。でも、ここまで揃いも揃って僕を通してあの人を見ているのだと思うとふて腐れてしまいたくなる。僕が応えずにそっぽを向いていると何かに押し倒されていた。


「だーかーらー。助けてってー!」


アザミだった。

僕が妄想している間に落としていたらしい彼女は恨めしげに僕を睨んでいた。


「あ、ごめん...」


にしても、なんでこの人は今の今までグルグル巻になっているんだ?

いつもならお節介な性分の彼女がとっくに開放していいはずなのに。そういえばエリカ、ムスカリの姿が無い。辺りを見回す僕に気の利くストックが彼女たちは休憩場所を探しに行ったよ、と教えてくれた。


とりあえずこのまま見動きひとつ取れないのは酷なのでアザミを自由にしてあげることにした。僕とストックは横になっているアザミを囲むように座り、いざ鞭に手を掛ける。


「痛っ」


爪が当たってしまったのか手を引っ込める。そして近くにあった鞭をむんずと掴み引っ張ると同時にアザミが顔を歪めた。


「ありゃ、舜そっちは締めてるって...」


やや呆れ気味のストックの声。こういう細かい作業は得意じゃないんだよね...。かといって大雑把な作業が得意って訳でもない。僕の担当部分だけ余計にこんがらがっているのは気のせいでは無いはずだ...。


「じゃあ、こっちか」


「そ、そこっ、...あっ!」


な、なんか色っぽくないか?顔を赤らめ身体を反り返すアザミをまじまじと見つめた。僕は貢献しているのか?いやいやいや、全くしていない。それどころか間違いなく状況を悪化させている...。ここは器用そうなストックに任せよう。ストックの鮮やかな手さばきに感心し手を休めていたらアザミから「助けないつもり?」と恨めしげな視線が送られてきた。


「分かったよ。やるって!う〜んと、じゃあ、これだ!」

「ちょっ...。そこ、も...っ....!」

「ええっ!?じゃ、じゃあ」

「はぁっ.......、ダ、メっ...!」

「え?どうしたらいいんだっ!?」

「は、ぁ.......んっ!」


アザミが身を捩って悶える。

ただでさえ目のやり場に困る展開なのに白い薄地の衣服が鞭で引っ張られて褐色の肌が透けてしまっている。見るな見るなと思えば思うほど視線は誘われるように透けている柔らかい膨らみに向かっていってしまう.......。


あああああああー、耐えるんだ!耐えろー!耐えてくれっ!!

叫びたい衝動を抑え頭を抱えていた時、冷静な声が響いた。


「あのさー」


冷ややかな視線をアザミに向けている。

僕に向けられたものじゃなくて内心ホッとしていたりする。


「さっきからさ、態とやってるでしょ?」


続けて、舜が純情なのをいいことに、と付け加えている。

ストックの僕に対しての態度が明らかに変わっている。呼び方もはじめは余所余所しく「お兄さん」とか言われていたのにいつの間にか呼び捨てだ。距離感がググっと近づき、嬉しいことに好感度というものもググっと上がってくれたように思える。これも、あの人のお蔭なのかと思うと複雑な気持ちもする。そういえば、態とって?あれが演技だとしたらアザミにとって何の得があるのだろうか.......。


「あはは。バレた?」


悪びれもせずアザミはペロッと舌を出した。


「えええええええぇー!」


僕は今までの努力を思い出し、脱力した。


「女って、怖いんだよ。覚えておきなよ!」


ストックに無垢な笑顔で肩を叩かれた。子供に諭されるなんて......僕の心は急降下した。アザミはすくっと立ち上がるとクルクルっと器用に鞭を巻き始め懐に収めた。


「だってさ、ボクは舜が好きなの!」


ビシッと指をつきたて、宣言された。

その気持は僕に向けられているものじゃないよね、きっと。


「ええと、シュンノスケと僕は別ものだよ?」


とりあえず教えといてあげなきゃ。同一視してたら大変だもんね。


「当たり前でしょ!?アンタは舜じゃん」

「うん。外見だって全然違うしさ、わからないほうが馬鹿だと思うけど?」


嬉しい誤算というか、予想外の応えが返ってきた。だったら言わなきゃいけないことがある。アザミの鳶色の瞳をゆっくり見つめる。


「その気持はとても嬉しいんだけど、僕には好きな子がいるからアザミの気持ちには応えてあげられないんだ。ごめんね.......」


可哀想なことしたかな?でも出会って間もないしその分傷も軽いよね。とか、勝手に決め込んでこっそりアザミを見るときょとんとしている。僕に拍手を送っているストックに思わず苦笑する。


「それで?」


ビックリな回答だ。僕の言い方がマズかったのか?アザミを見返す。


「その想い人は、ここに居ないし会いたくても会えないんだよ?それに舜が居たっていう世界の子でしょ?ここはボク達の世界だよ。よって、ボクには関係ないっ!一切関係ないっ!!」


力説してガバっと抱きついてきた。


「エ?え?えええええええぇー!」


なに、この展開?

救いを求めストックを見たが両手を上げ、お手上げのポーズを取っている。どんな時も大人びた子供だ...。押し倒されそうなった身体を支えてくれた手があった。


「はぁいっ!そこまでぇっー!!」

パチパチと手を叩きながらエリカが参入してきた。


「異世界の想い人なんて関係ありませんから。当初より気にしてませんし。うふふ〜」

妖艶な笑みを浮かべてムスカリは僕を支えている両手を一旦離し、今度は後ろから抱きしめてきた。なに、この展開っ!?「私は舜サマもシュンノスケ様と同じくらい好きですから忘れないで下さいね」耳元で囁かれ「ぎゃあっ!」と飛び上がってしまった。



「そろそろ、いいかしら?」


只ならぬ殺気を纏ったエリカが腕を組んで周囲に睨みを利かせている。シュンノスケ降臨後、睡眠が必須になってしまう僕のために地下洞窟を見つけてくれたらしい。

これはいい、聞くだけで快眠できそうだ。

なんて思ったのが悪かったのか急に眠気に襲われた。





晴れ晴れした、清々しい気持ちだ。

ジリジリ肌を焼きつくような激しい暑さもなく、この場所は風が吹かないがひんやりしていて気持ちがいい。地面は馴染みのある砂だったが、壁は岩ではなく木製だった。薄い板を幾重にも重ねて頑丈に造られている。人がここで生活していたのは間違いないようだ、藁と紐を編みこんで作られたハンモックのようなものに僕が身を委ねていたから。


「度々、ごめんね」


不本意ながら本日二度目の休憩になってしまった。ブルーシの街を出た初日からどうした、僕っ!ストックにしてみれば焦れったい時間なんだろうに...。薄暗いところからランプの明かりに照らされた空間に移動したためか、眩しくて目がしばらく開けることが出来なかった。明るさに慣れた頃、僕は瞳に翳していた右手を外した。あ、いつもと違う。見易いというか視野が広いかな?なんでか分からないけどすごい違和感を感じる。


「気にしないで〜。今日はここで一泊することにしたからぁ」


どうやら食事中だったらしい、テーブルには具沢山のスープとフランスパンみたいな細長いパンがテーブルに置かれていた。何処から調達したのだろうか?木製の食器やカトラリー一式諸々揃っているんですが.......。

それらは、ムスカリが取ってきたに違いないが。以前も骨付きの肉の塊を持ってきて驚かされた経験がある。それも調理済みの、だ。とっても嫌な予感がして「もうやめてくれ!」って頼んだ事があったけど。あの時一緒に止めたはずのエリカまで今回は美味しそうにパンにぱくりと齧り付いている。...まあ、いいか!もう食べちゃっているしね。これからスゴイのと戦う予定だしね。


「ありがとうね」


僕はお礼を言ってから空いている椅子に腰掛けた。スープの香りが食欲をそそる。美味そうだ!迷わずスープをスプーンで掬い口に入れようとしたところで、いくつかの向けられている視線に気づいた。


「え、えっと...。何かあった?」


アザミとストックの食い入るような視線が居た堪れない。

何か気に触ることでもしてしまったっけ?寝起きだし、頭が働かない。


「朱、かったんだ.......」

「それで、コレ付けていたのか。目が見えないわけじゃなかったのか」


ストックの手には僕の眼帯があった。倒れた時に外れてしまったらしい。こちらの世界では常にどんな時でも、寝る時ですら身に着けていたものだった。さっきからの落ち着かないような違和感はこれだったのか。眼帯を受け取り着けたら、なるほど落ち着く。心のモヤモヤがすっきり解決したのでお預け状態だったスープを飲もうとして、また邪魔が。


「外してよ!そのほうがカッコイイし」


何でかキラキラした瞳で向かいに座っていたアザミが僕の眼帯を外そうと手を伸ばしてきた。


「着けていたほうが落ち着くから、取りたくないんだけど...」

「やだっ!」


強引に眼帯を取ろうと襲いかかってくる手を弾いたつもりが、手元にあった熱々のスープが入った器を弾いてしまい見事にアザミ目掛けて跳んでいった。


「うわっ!ごめん!大丈夫!?」

「熱っ!熱っつーい!」


言い終えるなり、アザミはバサッと勢いよくスープ塗れの衣服を脱ぎだした。この世界にも下着というものが存在しているはずなのに、全裸になっていた。運がよく?テーブルで下の方は見えなかったけど。


「.......」


「ちょっ、ちょっとぉ〜。向こうで着替えてよねっ!」


エリカに背中を押されながら強制退場させられていく。

固まっている僕に隣に座っていたストックは、「あんなの慣れだよ、慣れ!」と小声でつぶやいた後、美味しそうにスープの具を頬張った。そのまたストックの隣に座っているムスカリは平然とパンをひと囓りしていた。僕の視線に気づいたのか、「ふふっ」って笑みを浮かべている。

慣れ、なのか?

果たして僕は慣れることが出来るのだろうか...?

再度テーブルに用意されたスープを眺めながら僕は考えた。




「ただいまー!」


本当に着替えてきたの?って聞きたくなるくらい全く同じ服装でアザミが帰ってきた。そして何事もなかったかのように食事を取りはじめた。

ああ、そうだった!


「聞きそびれてたけど、今回あの人は何しに出てきたの?戦ってはいなかったよね?」


「俺の足を治してくれたんだ。もうさ、全速力で走れるんだよー!」


いつもの大人びた仕草からは想像できない年相応な少年の顔になっていた。


「あの人、本当に何でも出来るんだね.......」


『癒やし』って特殊な力なはずだし。エリカが出来なかったところまで治してったということになる。


「ほんとよねぇ...」


エリカの悔しそうな声が響いた。


「あとさ。アザミにも何かしてなかった?」


「それがさー」


ストックの問いにアザミはスプーンを置いてから、ゆっくり僕を見た。


「ボクは会ってないんだよね...」


「.......おかしくない?僕に代わった時、膝の上に居たよね?」



どうやら、アザミは「キュウキ」に暗示を掛けられていたらしい。とは、ムスカリが言ったことだけど。何の暗示かというと、「シュンノスケに攻撃せよ」だとか。周りから納得の声があがったが僕には現実味のない話だった。それで、あの人は治したり解きに来たりしたのか。


「キュウキが、シュンノスケの存在を知っているならさ。存在場所も知っていることになる?」

「ええ、恐らくは」

「そっかー」

「アザミは態と泳がされていたことになりますね」

「だよねー」

「この場所はまだ見つかっていませんが、もう時期見つかるでしょうね」

「そうなるよねー」


いつの間に仲良くなったのか、ムスカリとストックの会話である。

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