断裂
身体を包んでいた光が掃け、足元に広がっていた四重の魔法陣が消える。淡い白の輝きの奥に見えたのは、あの古惚けた教会だった――何やら、天井板が見事に崩落させられているように見えたが。
さては何かあったかと勘繰っていると、後ろから不意に肩を叩かれる。
「……戻ったか」
振り向くと、そこにはフードを深く被った修道士、エヴァンスが立っていた。その手には大きめのシャベルがあり、修道服は泥と血で汚れている。
何をしていたのか、聞く必要はなかった。三人を相手に立ちまわった際、私は一人だけ、黄土色の戦斧をもった少年を取り逃している。彼は恐らく魔力の残滓を頼りにここに向かったはずだ。
殺したのだろう。あの少年少女は、既に肉体的に限界を迎えていた。不意打ちを食らいさえしなければ、エヴァンスほどの腕があれば撃退に難はないだろう。
「フルートは?」
「知らん。大声で喚いてどこぞへ逃げた。俺が面倒をみる義理も無い」
鼻を鳴らして教会の中へと戻ってゆくその背をしばらく眺めた後、ふと城の方へと視線を向ける。
この国の者達がどう動くのか、私にも把握はし切れない。だが、軍の総統があっさりと死んだ今、歯止めのきかなくなった国軍はどう出るか。頭領――確かクラナブスといったか――の戻った国政側はどう割り込んでくるのだろう。何より、人員の大部分を既に国外に逃亡させてしまった宗教側は、この後どういう手を打つのか。
潮時か。
この純白の鎧を着て、あまり黒の国の国政に介入はできない。
フルートを連れ、早めにこの国を出よう。恐らくこの2、3日の経験は、彼の精神面を大きく変えた筈だ。今の結果は、それで十分。
そう、思った矢先のことだった。
背に殺気を感じ、振り向く。
眼前に差し迫った青い衝撃波を受け止めた左腕の甲が、弾け飛んだ。
「ねぇ? 本当だったでしょう?」
誰かに語りかけるような女の声が、教会を囲む木々の奥から響く。
蒼い魔力の粒子が風に乗って払われ、見えた先には、一組の男女が立っていた。
「せ、先生……」
喉をつまらせる一人の青年の肩に、女性がもたれ掛かるようにして寄り添う。
「よく見て、あれは人じゃないの」
先程叩きのめしたばかりのはずの、ロマーナの剣の使い手と、私の唯一の弟子。
「あれは、呪われた鎧と剣」
その言葉の通り。
腕甲だけが綺麗に斬り飛ばされたそこには、生身の腕の姿はなく。
不自然に浮かぶ手甲が、巨剣を引き出す魔法陣を宙に描き出し始めていた。
まだ空気が仄かに冷たいですね。インフルエンザに気をつけなくては。
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