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漂流の騎士  作者: 1346
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目覚め

 思っていたよりも遥かに、悪い方へ状況が傾きつつある。ループトンが死に、指導者を失った軍がどう出るか。割り込んできた侵入者たちは何が目的で、どうやって動くか。私も流石に、全てを読むことなどできるはずもないのだから。

 だが、それ以上の問題がある。

 退避を余儀なくされ、敵の足止めに掛かったあの騎士はいまもまだ、戻ってきていない。

「聖女様、いかがいたしましょう……。他の信徒の殆んどが、既に国の外へ逃亡し、私達からの連絡を待っています。計画が失敗したのであれば、私達も外へ出ねば危険が及びます」

 心配そうに聞いてくるのは、私が聖女として束ねる黒の教徒の一人だ。彼女が言ったように、既に多くは周辺国へと協力を申し出る為、長い時間をかけて用意した隠し通路から、国外へ逃亡しているのだ。私が経済提携国――鎖国状態とはいえ、最低限の外交がなければ国は成り立たない――へと遣いとして向かったのとはわけが違う、本当の罪人になってしまっている。

 例え私が罪人として処刑されても、教徒達自身が法を犯したわけではなければどうとでも言い訳が効くが、こうして明確に逃亡の罪を負ってしまった以上、もう完全にループトンの独裁体制が消えるまで、国に近づけない。

 かといって中で問題を片づけようにも、場の状況は読めず、あまつさえ戦力は足りない。

 戦いが始まって既に半日がたった今、傾いていた陽は静かに沈んでゆく。町外れの寂れた教会で、待っていられる時間もそろそろ限界近い。

「陽が落ちたら、国から出ます。非常事態ですから、それを伝えて武力制圧の流れを作るしかありません」

 そう彼女に伝え、教会の中へと戻る。

 だが、突然の闖入者達の手には、比較的使用何度の低い呪具が握られていた。アレを持ち出せなければ、武力制圧できる規模の国ではない――この黒の国は腐っても、巨大国家なのだ。

 唯一の救いは、回収できたフルートという少年の手に、ゼノの飾り刃という刺突剣が握られていたこと。その刃は圧し折れてしまっているが、使いようはある。

「腐った国……変えなければ……」

「……聖女様」

 ぶつぶつと独り言をつぶやいていると、背後から不意に声をかけられる。

 先程まで意識を失い、気絶していた筈の彼が、そこに亡者のような瞳をして立っていた。

「……宝物庫で、人が死んでいました」

 唐突にそんなことを言いだすフルートは、その光景を思い出したのか、前髪をぐしゃりと握り潰す。

 わなわなと震える彼を見て、私は苦笑いを浮かべながらも、諭すように言う。

「強烈な呪いが、盗賊達を殺してしまう。世の中にはそう言う武具が、溢れるほど眠っているのです。己の強欲に身を食われるのは、自業自得――」

「子供が!」

 途端に大声を出した彼は、今にも泣き出しそうな顔で詰め寄ってくる。

「沢山、山になって! どの子も、死んで―――まるで、人じゃないみたいに………ッ!」

 言葉にならないような呻き声を上げる少年は、握り拳を壁に叩きつけた。

 ぼたぼたと涙を流す彼の前で、私はようやくからくりを知る。

 恐らく、ループトンは廃止されたはずの奴隷制などを隠して裏で活用し、即戦力を作り出すために魔具に触れさせていたのだろう。適合できなければ即死すると分からないはずはないのに、余程の狂気がなければとてもできないことだ。

 だが、あの男は無能でもなかった。軍事指揮並びに単騎戦なら恐ろしい戦闘力を誇る将軍だったエヴァンスを蹴落とした彼が、暴走するかもしれない魔具の適合者に何も細工をしないはずがない。あの侵入者の内二人の子供はそういうことなのだろう。

 幾ら暴走状態とはいえ、まるで自我がないように叫び続けるはずはない。あれは言わば、命令待ちの状態だったのだ。

 だが、だとしたら唯一異彩を放っていた、あの女性は一体。

 そんな思考を遮るように、またしてもフルートは叫ぶ。

「何で皆戦争をしたがるんだ! ましてこれは! 食べる為とか、生きる為とかじゃないんでしょう!? あんなに沢山死んでしまう前に、止められなかったんですかッ!!!」

 まるで自己の抑制ができていない――そう思うと同時に、これが当然の反応なのだろうと知った。

 彼はまだ幼く、戦争の黒さを知らない。薄暗さに気付いていない。もちろんいけないことだとは考えていても、それが何故なのか、理由を幾つも並べられるわけではなかったのだろう。

 あの騎士が、わざわざ首を突っ込んできた理由も分ろうというものだ。

 この少年はまだ、余りに脆い。これから成長していくうち、彼も打算や策を巡らし、非情になって何かを切り捨てなければならない時がくる。これはきっとその大きな、第一歩となるのだろう。

 それと同時に私も、少し思い出した。

 人として当たり前の、心というものを。

「………ごめんなさい。私では、役不足だったのかもしれません」

 思わず口を衝いて出た言葉に、フルートははっと顔を上げる。

 深く被ったフードの下で、瞳が不覚にも潤んだその時だった。

 何かとてつもない音が、空から落ちてくる。

 見上げた先で、教会の屋根を突き破った一人の少年が、黄土色の戦斧を手に、唸り声を上げた。

更新鈍化、お許しください。


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