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未探査洞窟 2




 依然として内部は暗く、姉の光の魔法とハンドライトの頼りない光源だけ。



 種族特徴として暗視を持つエルフのアステリナと、同じく暗視持ち魔物のモモにだけは見えてるのが羨ましい。闇はあるだけで精神を削る。



 まぁ、以前は松明の明かりだけだったんだから贅沢ってもんか。



 大事なのは感覚を鈍らせない事、警戒体制を続けながら三又路まで戻り15分程の休憩を挟んで件の生臭い道に侵入する。



 相変わらず通路は狭く、おまけに不潔な生き物の出す様な饐えた匂いが強くなって来て、少なからず全員が吐き気と格闘さながらの移動になった。



 そんな最悪な道を暫く歩くと小さな広場から左と真ん中の道に別れた分岐に出た。



 左は緩やかにカーブしていて先は見通せないけど、酷い臭いは確実にこちらから流れて来ている。あぁ、もう!今すぐ塞いでしまいたいわ、この穴。この臭い、私は生理的に無理!腐臭とはまた違う粘つき感がなんとも苦手。



 けど、生き残りが居るならこの奥が今の所一番怪しいのはわかってるけどね。



 もう1つの正面の扉は重そうな鉱石で出来ていて、古代語の文字が円盤状に彫られ、溝に沿って動く出っ張りが3本……、角みたいに突き出ている。その文字は掠れていて読み難い。多分、仕掛け鍵だろうけど解除には時間がかかりそうだからパス。もし先に入った調査員に生き残りが居るなら時間は有限だもんね。



「仕方無いわ、皆。気が進まないけど横道を行きましょう……。素直に考えて調査員の生き残りが居るならこの辺からが怪しいと思うの」



 言う私の考えと凡そ同じなのか……皆一様に嫌なんだろう、悪態を吐きながらも頷き歩き出す。



「この臭い、可能性が高いのはゴブリンかオークマンだと思う。下手したらレッサーオーガクラスも出るかもしれないから警戒を怠るな?」アステリナが補足してくれた可能性。



 ゴブリンは下級魔族で半分植物な魔物で身長は大人の腰位の高さだけど生命力が強くしぶとい。


 オークマンは性に狂った人間と魔物の子孫で異常な生殖本能を持つ、<狂化>の種族スキルを持っているので戦闘が長引くと厄介だ。<狂化>の起きた魔物の腕力は元の2倍は降らない。



 もう一つ、レッサーオーガは野生に還った戦鬼族の末裔で力にしか興味が無く魔物と大差無い、あまり群れないが1体でも曲者だ。



 どれも強敵であるのは違いないので全員で警戒系の魔法と自動発動スキルを起動、その後ゆっくりと前進。よくわからない残骸やゴミを避けつつ、無駄に生活感のある通路を奥へ奥へと進んで行く。




 蛇行する道がいつの間にか広くなり、臭いも殺人的になってきた。私は既に耐えられ無くなってるけど先頭を歩いてる手前、皆みたいに布で口と鼻を押さえ

てもいられない。




 酷い臭いに変わらない風景、不審な残骸……。





 この小さな違和感に私達は気づくべきだった。




 感覚頼りだけど、疲労の度合いから言って、この洞窟に入ってからと同じ位の時間が経過してるんじゃないだろうか?いきなり壁の材質がヌルつく何かになり脆い感覚を右手に伝えてくる。



 咄嗟に短い悲鳴を上げて、軽くバランスを崩した私の腰をベクセルが笑いながら支えてくれたけど癪なので「いつまで触ってるのかしら?」と小突いておく。


 片手を付いて歩いていた私は真っ先に触ってしまったヌメりを急いで水で流す、毒では無い様子。残り香から、ここに充満する臭いの正体がこれだとわかったけど、もう一度触る気にはなれず先を急いだ。



 壁の様子が変わってから更に数刻の時間歩いた所で空気の流れに違いが生じた、私の求めに姉が探査をかけ直して先を探ると広い空間に何かが複数動いているのがわかると言う。


「いよいよ、敵さんのお出ましって訳ね」



 いい加減うんざりしていた私達にも気合いが戻ってくる。



 それぞれに武器を抜き油断無く突撃。



 目が眩めば行幸とカルタによる捨て『閃光』を発動させてから姉とベクセルが先行、私とアステリナが遅れて突入。追加で『持続光』のカルタを投げ掛けた室内には異様な光景が広がっていた。




 不幸中の幸いか、探していた人間達はそこに居たけれど、一目で助からない状態である事が明白だった。



 全員が血色の悪い顔で唇や目玉等の粘膜はカラカラに乾燥してひび割れている。



 腰の脊髄の辺りに太い赤色の管が刺さり、犠牲者の体は3メートル位の位置に吊り上げられている。



 その下は不定形のナメクジの様な物が這っていて蠢いた道に赤色を垂れ流していた。



 しかも、犠牲者は生きているらしく、時々痙攣しながらも呻き声や悪態、泣き言が漏れ聞こえてくる。




「酷い……」




 誰が言ったのかわからないけど皆、同じ感想だと思う。






「おやおや。これは、これは……。新しいお客さんか……、私の部屋にようこそ」



 いっそ優雅と言う程の動作で悠長な挨拶を述べる人影。



 空間の奥にある魔法陣の上に悠然と浮かぶ、高そうなローブ姿。風に煽られ外れたフードの下は左に残る血走った目玉と空洞の骸骨、空の瞳の奥には鬼火が青い炎を上げていた。



 かって、闇に身を浸した私には奴がわかる。



「リッチとはまた厄介ね」



「リッチ?」いち早く立ち直ったアステリナが聞き返す。



「そう、リッチ。魔術だけでは飽きたらずに外法に手を染めた魔術師の最終系よ」



「おや、解説付きかい?少しは学のあるのが居るか……。面倒だからやってしまえよ可愛い憐れな者共よ」リッチが乾いた指を鳴らすと蠢いていたナメクジがワラワラと襲い来る。



「うお、早い!!」ナメクジの予想外の素早さにベクセルが振り抜いた刀、を……受け止める犠牲者の剣。



「はぁ!?」驚愕に固まる事無く、身を引いたベクセルの胴前をもう1体のナメクジの犠牲者が槍を突く。



「こいつら操られてるのか?」呻くベクセル。



「なら、斬るしか無いでしょ! やぁ!」



 姉が切り裂こうとした管はぶよぶよしてるのに硬いらしく、深いけど小さな傷を付け血が漏れだす、追加の影法師の攻撃でのダメージは無い。



「おがぁぁぁあぁ!」



 斬られた犠牲者の悲鳴が耳を打つ。管への攻撃は犠牲者に強烈な痛みを与えたしまうらしい。



「おやまぁ、酷い事をする娘だな、そら」リッチの杖に陣が浮かび管の穴が塞がってしまう。



「修復術も使うのか、クソ!」アステリナも鞭を振るうけれどあまりダメージが通らない。



 私の脳裏に敗北の二文字が過る。





「皆、時間を稼いで!私が大技をやってみる!」

 



 言うや姉が大剣を床に突き立て、背に負っていた弓を取り出しバチンと乾いた音と共に両翼を広げる。



 以前、エバン君に作って貰ったと言う弓だ。今の筋力に合わせて強化も済んでいる。



 長い精神集中。



『蓄積されし祈りの想い 曽は闇にして闇に有らず 陽の光たる想い 覇道成す道となれ』




 祝詞が進むにつれ、姉の体が光を帯び燐光が浮遊。



「おのれ!あの女、光の使途か!」気付いたリッチも戦闘に加わり陰気を詰め込んだ闇玉を幾つも打ち出してくる。




 私は先頭に踊り出て動けない姉の前に立ち、カルタを発動。



『精神盾』を呼び出す事で攻撃を相殺して盾が砕け散る。



 その欠片を飛び越し、ナメクジ2体の間……やや後方にベクセルが着地。回転しながら立ち上がり黒く透き通る刀で管の細い部分を螺旋に切り飛ばし上がる絶叫。



 支えを無くした犠牲者はそのまま崩れ落ち、忌まわしい生を終える。




 一旦引いたリッチが2枚の陣を打ち出し連鎖展開、巨大な竜巻が襲い掛かる。



 私が更に『緑盾』を張ろうとするのをアステリナが止め、自らの『劫火球』のカルタを解放。



 巨大な竜巻を逆手に取り、呑み込んだ竜巻が火勢高め、灼熱の海をリッチ側にぶちまけた。



 巻き込まれたナメクジは次々に燃え上がり異臭と煙を上げる、リッチは属性盾で防いだ様だけど熱でダメージを受けている様子。




『栄光の刻印 勇姿を称え 鮮烈なる聖別を授けよ! 聖なる女神の乱舞《ダンス オブ ゴッデス》』



 限界まで引き絞られた弓に光の矢が番われ、姉が長い時間祈った成果が神気となって女神に捧げられる。




 清浄な矢は真っ直ぐリッチへと突き立ち、視界一杯を光で埋め尽くした。




 ナメクジ達は形を崩し浄化されたが犠牲者は脊髄に空いた穴から血液を大量に零し地面を赤く濡らす。



 まだ虚空にあるリッチは既に禍々しい気配は無かったが骨の屑を零しながらも口を開く。



「まだ……俺は負けていない。俺の命も使い、現れよ……! 卑劣な者よ!!」





 瞬間、掲げた杖から粉微塵に砕け散るリッチ。



 その穢れた魂が地面の途切れかけた魔方陣に吸い込まれ、陣が明滅を始めた。




 どうやら、まだ惨劇は終わらないらしい。





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