その男、孤児につき自由人。
あの後、正気に戻った私は周囲の野次馬と化してる人々に頭を下げまくって、密度の少ない方に全力逃走。
やったねサーナちゃん、黒歴史が増えたね。
あはは、暫くあの辺をまともに歩けないわね……、大人の男を引き摺って歩いてる今の図もよっぽど壮絶だったみたいだけど、知るのは後日。
そして予想通りの場所に居た、ウァラマリア姉さんと合流して家の庭まで逃げて来ました。 ←今ここ。
引いてるシャツが首根っこ絞めてたせいで気絶した男を放り出し、汲み置きの水をぶっかけると程無く男が弱々しく意識を取り戻す。勿論、武装解除と拘束済み。
「なんでこんな事になっているか判るかしら?」私が言い放つと、
ブルブルと頭を振って否定する男の顎をわし掴みでお説教開始。メイスを使い出して腕力も上がっているから本気で握れば顎くらい砕けるかも?
まあ、ありとあらゆる手段で、たっぷり2時間も聞かせたら理解してくれたみたい。
エヘ♪
……落ち着いたら、目の前の奴の名前も知らない事に気が付くいた。
別に命名・野良でも良いんだけど、「あまりに不憫なんだが」と呆れ気味に姉が言うから自己紹介くらいはさせてあげる事にした。
「名はベクセルー、戦鬼族っすー」
根を上げたみたいな返事で力無く呟く。
もう一回躾が必要かしら?
笑顔でお願いしたら、わかってくれたみたいで何よりね……手間かけさせないで欲しいわ。
んー、ふざけるのもこの位にして、予想通りやっぱり魔族だったみたいね~、彼。
年齢が私と変わらないのには引いたけど、戦鬼族ならわかるかな。頭脳よりも力な種族の筆頭なのよね、彼等。
地底では見掛けない種族だし地上に多い種族だったと思う。
んで、親の事は覚えてないそう。
基本的に身一つで生きて来たらしいから大人になりきれてないのかもね。
なんとなく悪気が無かったのが分かったから、暴れない・襲わない・無闇に殺さないって約束で拘束を解いてやったけど、問答無用で刀3本には『誓約』の魔法をかけさせて貰った。
施術は姉。
制約内容は自衛にしか使わない事、破ると罰があるのでやらない事と言い聞かせて渡した。
さて、この後どうするか?
手助けするといった手前、ただで放り出すのも心情的には嫌だ。
「あんた今、幾ら持ってるの? 売れるもんある?」
「無一文っす」
無表情で刀を見つめる私達。
「これはダメっす。技使うのに必要なんすよーマジ勘弁して下さい」
また泣きが入りそうだったから落ち着かせて、少しお金貸したげるから宿を取ってと言ったら即効、拒否られた。
ここが良いらしい……。
でっかいお子様再び……、か。
あぅ、姉さんが盛大に引いてる。
でも、家に入れるのは嫌だわ、どうしよう。
「あんた、庭でテント張って寝るなら良いわよ?」私の苦肉の策、っつか失言?に凄い良い笑顔で答えるベクセル。
冗談で言ってみたら、もの凄い嬉しそうに手をあげて「はいっ!!」て言われてしまった。
罪悪感なんて無いんだからね!?
でも、姉さんごめんなさい。
ふぅ。
□閑話休題□
曲がりなりにも住み処が決まったから次は食事ね。
これは簡単かな、個人で出禁なら私の依頼に協力者として連れて行くなり、ベクセルが何か作れる様にするなりすれば良い。
……やりたくないは許さないわ。
働かざる者食うべからずって言うじゃない?
睨みを利かせてやったら壊れた玩具見みたいにガクガク頷くベクセル。
姉 「さしあたって、今夜は持ち寄り晩餐会だから無料で食べれるわよ」
ベクセル 「マジすか!?人族パネェっす。見直したぜ!」
姉 「一品出せばな?」
サーナ&ベクセル 「「えぇ!?」」 予想外の答えに私まで一緒に驚いちゃった。
「嘘!? 私何にも用意して無い!」悶える私。
「わいも用意せなあかんのか?」暢気なモモ。
「俺、料理苦手っす」ある意味予想通りなベクセル。
三者三様の答えに姉の溜め息。
「わかった、私が教えるから皆で一緒に作りましょ」家中に戻って数分で姉がざっと必要な道具を纏めて持ってくる。
私の我が儘に付き合って外で料理してくれるみたいだ。
ごめんなさい、再び。
幸い、まだ開場まで時間があるから丁寧にを心がけて作りましょうという方向性で、作業を分担する事に。
何を作るか、それはこれ<ハンマーハミング>と言う食べ物らしい。
頭蓋骨が変形してこぶの様な形に進化している中型鳥の丸焼きに、香草と穀物を詰めた料理だって……、なんかいきなりレベル高くない?
どうやら今朝起きたら、家に姉が居なかったのはこれを狩ってたかららしい。
あ……頭が上がらないっす。
それは置いといて、首はもう落とされて下処理は済んでるから肛門を抜き、そこから腹側を開き丁寧に洗浄、使わない部位も切ってあるので薬味と調味料を漬けておく、担当はウァラマリア姉さん。
私は中に詰める穀物を水で炊き、香草を加えて味を整え水分を飛ばしておく迄を担当。
中々飛ばない水気に苦労やら困惑やらしたけど何とかこなして姉と二人して腹に詰めた後、開いた所を太糸で縫い直し棒を通してじっくり回し焼き。
私達はお茶を飲みつつ休憩しながらベクセルに指示を出す。
少し遅くなったけど何とか焼けたのでそのまま戸締まりして会場へ移動して係りの人に預けた。意外と良い出来で「これは皆も喜ぶだろう」と係りの人も太鼓判を押してくれた。
何だか作っただけでお腹一杯な気もしてたけど着いてしまえば話は別らしい、なんて自由なんだ私のお腹よ。
乱痴気騒ぎの結果から言うと、おおいに飲み食いして盛大に飲んじゃいましたって事。
ストレスかしら?
飲み比べで大男を負かしたり、踊り狂ったりした私は別人……だと思いたい。
また頭痛のする頭で現実逃避ー。
「暫く、禁酒ね?」
翌朝、姉さんにしっかり釘を刺されました。
返す言葉もありませんね、トホー。