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野生の女王様現る




 遅く起きた朝。



 家の外は既に活動している人族で一杯らしく、ざわざわと人いきれが満ちているのを感じる、本祭りの朝。



「皆、活動が早いわね~」



 まだ布団に潜って居たいけど意を決して寝台から飛び起き、雨戸石を外して真下にある窪みに嵌め落とし窓を全開、明るさを取り込むと心なしか気分も上向きになる。



「お嬢が遅起きだっただけちゃうのん?」



 毛布の海から這い出しながらモモが正論を言うけど気にしない、気にならない。



 昨夜は些か痛飲しちゃったから頭も痛いもの、っと酒のせいにしてしまう。




 近くまで転がってきたモモを拾い上げ、階下へ降りると姉の書き置きと作り置きのごはんが置いてあった。



 今日のメニューはスライスされた焼きパンに肉と野菜がサンドされた物に同じく厚めにスライスされたチーズが二枚。



 書き置きには後で合流しましょう的な内容とチーズは焼いて食べてねーとの追記、ゴチっす。




 手慣れた動作でキッチンに火を入れ、炙られて肉厚のチーズがゆるゆると溶け出していくのを眺める至福。



 角が無くなり、うっすらと焦げがつく、あっという間に艶が出て蕩けそうになる寸前、下受けにパンを差し出しサンド。




 私はこの瞬間が堪らなく好き。



 これなら頭痛くても平気とか言っとくわ。


「わしもちょっとくらい食ってみたいねんけどなー」とモモ。


 


 贅沢な蜘蛛ね。


 


 ほんとは器に居る契約獣に飲食は不要……と言うか、意識も鈍るから食欲なんて無くなるからこの子は不思議なのよね……なんて思いつつ、焼いたチーズを与えてみる。



 途端に、爆発する様な歓喜。



「ウマー!!」と叫び出すモモ、ちょっと出た本体の脚をワキワキさせて喜ぶモモ。



 うふ、気に入ったみたいね。



 そんな一人と一匹の食事は和やかに過ぎ、頭痛も魔法で治癒して全快。



 晴れやかな気分で町に繰り出した……のに、なんであんたみたいのが居んのよ。




 目前、数メートル先から無駄に目をキラキラさせてこっちに駆け出してくる妖しい男は盗賊時代の名前すら覚えてない元部下A。



 確かサイラーが草として派遣していたのが幾らか居たかと思うけど管轄外。




 直接には面識も無いのに大声で、皆見てるのに、無駄に最敬礼で再会を祝うのは止めなさいよね!



 ちなみに、ここは市の近くの主要道路で迷惑この上無い。



「姫魔女様、決戦の時は戻れず申し訳ありませーん。次は負けないからクビは堪忍っすー!!」


「と言うか助けて?」


 最後は首を傾げてなついてきた。



 は……恥ずかしぃ~い、こんな往来でなんなのよ!



 我慢出来なくなった私は奴を掴まえると即、狭い路地に引き込んだ、身の危険は考えてない。




「ちょっと、その呼び方はもうやめて! もう私は組織の人間じゃ無いの。 しかも、敬礼の仕方も知らないならしないの、無駄に声だってでかいし、真面目かと思ったら報告はチャラいし、なんなのよ、もう!?」



 まんま黒歴史全開は勘弁して。




 きょとんとしている彼に沸点を越えた私は言い募ると。



「くはー、上司見つけて嬉しかったのに酷いっす」と不貞腐れる彼。


 あんたは子供か!!



 ふと、まだ服を掴んだままだったのを思いだし、拘束を解きながら観察する彼は、なるほど正しく子供なのかもしれない。




 見た目は十代の後半くらいに見え、身長は流石に私より大きいけど全体的に肉付は良くない。


 背中に3本の剣と腰にも剣を吊っているのが印象的……髪は長めでズボラさが透けて見える。


 首からは的の様な三つの円からなる神の聖印を提げているけど、どの神様かは特定出来なかった。


 耳の後ろに小さな角が一対、後ろ向きに生えてるので魔族かな?って思ったくらい。




 観察する事で少し落ち着いてきたので溜め息を吐きつつ事情を聞くに、諜報活動(と言っても私には観光にしか感じられなかった)を終えてアジトに戻ったら誰も居らず、廃墟が有るだけだったので途方に暮れた事。


 食い繋ぐ為に条件の厳しい裏の仕事ばかりしてやさぐれてたら私に会ったらしい事を聞き出す。



 そんなになる前に冒険者なり、住み込みのギルド員なりすれば良いのにと言えば、既に出禁でクエストを受けられないと小石を蹴飛ばしている。



 ……ダメ男過ぎる。



 話してる内に、こいつの印象が段々思い出されてきた。



 あの当時、すぐに喧嘩するわ・サボるわで反省室の常連だった少年。


 けど、サイラーはやたら強いと殺さなかったのだ。



 なんと言う皮肉、あの陰険魔術師のザラでさえ手を焼いていた問題児か……。



 事情も聞いてしまったけど正直、手に余る。



 面倒は見れないとキッパリ言ったら大泣きされた。




 おいおい、体は大人の子が全力で泣かないの!!



 やだ、もー逃げ出したい、なんなのよもー。



 私の方が泣きたいわ。



 うわ! しかも人が集まって来た~。



 こうなったら根比べね。



 ……。

 

 ………。

 



 ………。



 もう、無理・豆腐メンタル舐めんな。



 有らん限りの我が儘さで泣き喚く、大きい子供に耐えられないよ。



「クッ……わかったわ、野垂れ死にしない程度までは助けてあげる、けど家には入れないからね!?」と言い放つ。



 完全に妥協である、有り難うこざいました。



 ヤケクソでの私の弁に、直ぐ様復活し奴が小躍りしながらなついてくる。



 ……ウザ。




「なら、こんな人間臭いとこからおさらばしよ? お宝奪ってさ!」男が言い放った言葉が理解出来ない。



 は? 何言ってんの、こいつ?



『神匠に請う 付毒大海嘯!』




 いつの間にか抜かれていた背中の剣。


 多分、刀とか言う武器かな?


 刀身がエメラルド色で向こう側が透けて見える。



 地下である筈なのに風が男目掛けて集まっていくのが見えるみたいな錯覚。




「いけない」


 私の直感が警鐘を鳴らす。




 エメラルドの刀身を通過して纏う風が毒々しい。



 私は効果範囲に入ってないみたいだけど、苦痛に顔をしかめた人垣に混じった冒険者達がマテリアルカルタや魔法で対抗しようと技を編んでいるのが眼の端に入る。



 

 そんな男の術が発動する間際、私は無意識に全力で頬を張り倒した。



 術を強制的に解かれ唖然とする男、唸る豪腕は小気味良い音でそいつを張り倒した。




 沢山の対抗術が空発動する気配を感じながら、久しぶりにマジ切れした私が無表情で躾を行う姿は鬼気迫り怖かったと、後に知り合いや友人に言われ恥ずかしい想いをするのはまた後の話。



「私に・助けを求めるなら・金輪際、勝手に変な事はするな!」


 ヒールで踏みにじった男は何故か恍惚としていて更にムカついた。



 ので、もう一発踏みつけてやった……、これからの事を考えるとまた頭が痛くなってきたわ。



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