越冬祭 2
歩けば歩いただけ飾り付けられた家々。
子供達の団体が走り抜けるのを気弱そうな青年が危なっかしく追いかけていたり、仲睦まじい男女が手を繋いで歩き、あちらこちらで威勢の良い掛け声を売り子が張り上げる。
居並ぶ屋台や外売り用の小窓のある店からはお腹の空く良い匂いと調理の湯気が上がり、岩の通路の温度も同時に上がって家に籠るのは勿体無いぞと言わんばかり。
こんな日に仕事を入れてしまった人間は「可哀想、お馬鹿さんね?」としか言えないわね。
「何?」
「浮かれてる?」
だって、楽しみにしていた越冬際当日だもの。
さて、ハウルベルの越冬際は2日間に渡り行われるそうで、初日は中央広場を使ったフリーマーケットや露天市、夜は魔道騎士団による「魔術の夕べ」が開かれるらしい。
2日目は市の全力売り尽くしの後、お待ちかねの持ち寄り晩餐会の予定。
翌日は安息日として家族と過ごすのがお決まりのパターンよと受付嬢が教えてくれた。
「はーい、はい。 ぼさっとしないのよ~お嬢さん。 弛めるなら財布の紐にしとくれよ!」
売り子のおばちゃんに急かされて出来立ての包み焼きを渡される。
少し落ち着かない、と言うか、周りの切り替えの速さとめまぐるしいのに付いて行けてないみたい、私。
故郷は祭をやる習慣が無かったから少し呑まれてるかも。
しかも、意外と包みが熱いの、おばちゃん!! わちゃわちゃしながら姉に持って貰うも盛大に笑われたし?
むぅー、酷いな。
受け取った饅頭もやっぱり熱かった。
白い息を吐きつつお焼きをパクつきながら歩く町は何時もと違って、飾り付けられ見慣れた内壁門の渡り橋にも持続光の飾り紐があや取りの様に垂れ下がっていて煌びやかに見えなくも無い。
全体的に明るさが増してるのも良いな、自然と気持ちも軽くなる。
「これが祭り言うんか~、忙しないなー」
今は契約器に居るモモは手の平サイズの水晶の中で丸くなりながら呟いた。
何故か中に居るモモはぬいぐるみみたいな見た目にデフォルメされてて子供が好きそうな姿、魔法少女とかのお供みたいで激しく恥ずかしいのよね、個人的には。
「それが良いんじゃないか、しんみりしたお祝いには無い良さがある」
モモの器を撫でながらの姉。
どうやら器の水晶にも触られてる感覚は反映されてるみたいでくすぐったそうに見えるモモ。
姉使い魔と私、他愛ない会話をしながら市場に到着。
流石、メインだけあって他とは別次元の混み様で並んだ屋台が壁になり迷路みたいだ。
「わかってると思うけど、ここを何時もの広場だと思っちゃ駄目よ? 人の並びの妙か極々希に何かの魔法が発動しちゃったりもするらしいからさ」
姉が何故か生き生きと説明してくれる。
なるほど、どの店がこことか無いようなバラバラの配置で並んでいて区分けも無いのね、迷わないようにしなきゃ!
早速、姉の手を繋いではぐれ防止、不満そうな姉に「どっちが迷子になりやすいのかしらね?」って追い討ちをかけて遊ぶ。
「この磨き剤凄く安い!」やら「鍋五点セットが1200札?むむ、悪くない」だの「干し肉いブロック追加で買うからアレも付けろ」とか交渉しつつ暗くなるまで市を満喫、巡りながら色んな物を摘まみ食いも沢山。
ながら集めた戦利品が煩わしくなってきたので、良い加減一旦帰宅して荷物を置き、着替えてから近くの銭湯で軽く汗を流して再度、「魔術の夕べ」を観賞する為に歩いているとマギフォンに着信、画面にはアステリナの文字。
「あー、その……なんだ」
「今夜は非番にして貰えたから、あれだ!」
「会ってみん事もないぞ?」
「ほら、更正具合を見てやるから」とか……うん?
なんだか偉そうに言ってるけど要するに祭を一緒にまわらないかって事?
監査、照れ臭いのかしら?
もうすぐ着くから城前に来いとの事……、順路近くだから問題無いかと迎えに行ったら初めて見るスカートでそれなりにめかしこんだ姿に苦笑。
いつもは帽子の中に押し込んである髪は下ろすと長いらしく腰までのストレート。
ただ色素が薄いので重くは見えない。
胸も今まで下着で潰していたのか掌からこぼれる様なサイズでかなりデカイ。
青系統のワンピースに黄色系の部分鎧を纏って腰には小剣を吊っていた。
少し装飾のある腕輪もしていて然り気無いおしゃれ。
どうも彼女にしてはかなり頑張った方みたいで恥ずかしそうなのが新鮮だわ。
思わず姉と二人係りで可愛がったら、羞恥の限界を迎えた監査が「やっぱり違うのにする!!」とか言って逃げ出しそうになったので拉致って会場へ連れ去る一幕なんかもあった。
明るい内はあんなに雑多だった中央広場は片付けられてすっかり広くなっていてびっくり。
だってホントに汚かったのよ?
代わりにマジックアイテムやら発動体やらが配置されて騎士団が持ち場に付いて待機してる様は壮観、見習いが裏を走り回り慌ただしい雰囲気に否が応にも期待が膨らみドキドキする。
そんな緊張が最高潮に達する頃、陰に控えた楽団に光が集まり最初の小節が高らかに音を奏で演奏が始まる。
曲を受けた騎士団が光の魔法を操り空間一杯を使って変幻自在に乱舞、追うみたいに音が走り霧や幻の魔法で架空の生き物が空を舞う。
そう……地上の夜空を魔法で再現しているのだ。
中には初めて星空を見る者も多く居て歓声が止まない、熱気も凄い。
まあ、私もキャーキャー言って五月蝿かったかも。
騎士団によるショーは一時間半に渡って行われそのテンションのままパレードに以降して騎士団の行進の後について踊り歩き、男達は酒を浴び町を一周して元の会場に戻り、深夜のダンス会へと移行していった。
こうして熱い一日目は過ぎていった。