越冬祭
51話、若干手直ししました。
固い筈の岩盤を難なく割り砕き、細長い……、と言っても人族にとっては巨大な体をくねらせ、丸く開いた口を開けて襲い来る化け物ミミズ。
辺りには砕かれた砕石の粉塵と一抱えもありそうな大小の石が降り注ぐ。
……滾る轟音。
口内には無数の平たい歯が乱雑に、みっちりと生えているのが見てとれた。
あんな物に磨り潰されては生きては居れない事、必死。
咄嗟にバックステップをかけつつ、反射的に抜いた刀をつっかえ棒よろしく奴の口に押し込み突進されるがまま押し流されるも丸呑みを阻止。
危機一髪で一命はとりとめたけど、きりもみ中に振り返る先はまたも岩盤。
「ちょ!想定外!!」
飯の種たる刀を奪われかねないのは困るし、何よりミンチになる趣味はねえ!
背中に負った別の3本の鞘入り刀の内、真ん中を抜き放ち眼前に構える。
刀にしては刀身が真っ直ぐで抜ける様に青く無闇に長い、材質なのか向こう側が透けて見える。
『神匠に乞う 篠目時雨』
呟く男の体から生気を吸い込んだ刀は新たに強烈な冷気を纏い、冬の大幕府から吹き込むじっとりとした風雪すら巻き込み、極々細い氷の針を幾万幾千と視界一杯に打ち出す事数分。
数の暴力でもって撃ち抜かれた頭部は磔と言う特性上、下へと流れ、自らを岩盤に打ち付けて停止。
原型すら留めていない。
偶然に弾かれた空を舞う愛刀を掬い取り岩壁を踏み締めた。
「あーあ、欠けてら修理代あったかなー? てっ、うわー、こんなになったら素材取れないじゃん」
情けない声で男は斜めになりながら壁に張り付き二本の足で立ち止まっていた、何か特殊な能力なんだろう。
その胸元には三枚のリングからなるメダルを首から下げている。
リングは互い違いに回転する聖印。
どうやら何らかの神の信徒らしい。
ダメージを受けていない筈なのに鼻血がボタボタと滴るが腕でぐぃと拭い、気にしていない様子。
男にとってこれくらいの出血は既に日常なのだろう。
流れてくるのはボヤキだけ。
「あ~、どっかに良い女でも落ちてねーかなー」
「働きたくないでござる」
息を吐いたのは、つかの間。
子供の様に無造作に手首の返しで刀をバトンの如く回す眼前、先ほどのミミズよりも更に巨大な個体がこれでもかと、地を割って現れ、威風辺りを払う。
復讐であるかの様に雪崩かかる大樹程の化け物ミミズの群れ。
「勘弁してくれよー!!」
一瞬、硬直した男も事態を把握したのか飛び上がってすぐさま逃げ去っていった。
詰めが甘い。
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「サーナ~。 悪いけど夕飯の材料買ってきて~」
姉の声が2階から響く。
ここは姉が貰った一軒家の居間、盗賊襲来事件の報酬として私と安全に暮らす為に、この家を希望してくれたそう。
2階建ての石造りだけど所々に水石が窓に嵌まっていて内部は明るく、立地も3枚ある内壁内でも2枚目内部で治安も良い。
部屋割りは台所に作業部屋、寝室2部屋、各個人部屋と浄化槽式のトイレも付いていて庶民には贅沢な感じでまだ慣れない。
ただし風呂は付いてないので、そこだけは公衆浴場になるけど引き籠らなくて良いのかもね。
私が早く町に馴染む様に買い物を頼まれるが今日もその類だと思う。
しかも理由付けとして姉は多分、マテリアルカルタを作ってるのだろうから言われた通り買い出しに行きますか。
背伸びを1つして了解の声をあげる。
出所して知ったのだけど、マテリアルカルタは魔法に必要な祝詞と設定魔力量、許可を籠めておける板らしき物で、魔道力学の派生物らしい。
板はギルドでの市販物でそれなりにするけど、籠める魔法や神術によって買い取り額はかなり上下する。
戦闘に使われたくない姉は好んで仕事や生活に使い易い魔法を籠めているようだった。
実際、これの登場による影響で冒険者の装備も様変わりし、最近の冒険スタイルとしてはあまり使わない強力な魔法をいくつかと便利な魔法を多めに籠めて持っておくのが主流らしく私も姉に習って持っている。
また回復魔法の使い手は少ないので売り払って高感度アップと実利も出て一石二鳥。
自分用にも作るから出てから一番上達したものかもしれないスキル。
難点は嵩張る事、すぐ使うのは出しやすい場所に仕舞わなきゃいけないからカルタホルダーを使ってる人もよく見かける、開き直ってデコレーションやら飾り絵を入れたりもするらしい。
なんて考え事をしているうちに商店街に着いたけど何やらいつもより人が多い……、なぜだろう?
保存の効く食材を中心に、今日はグラタンにしようと牛乳やら肉や野菜、小麦粉も少ないわっと購入。
ふと、ついでに自分のカルタも売ってしまおうとギルドに足を向ける。
査定の間、いつものように討伐依頼を流し読みして時間を潰していると見知った受付嬢から
「すみません、まだ以前に問い合わせていただいた護衛依頼は出てないんですよー。 この時期は越冬祭を控えてるので春かけてになるかと思いますよ?」との事だった。
「えっとうさい?」
初めて聞く単語に戸惑っていると。
「ああ、越冬祭ですよ。年明けのお祭りです」
だから人が多かったのかな。
「この辺りでは最大の年明け祭りなんで参加してみては如何ですか?」
尚も説明と共に進めてくれた受付嬢によると……昔、まだ国が小さい頃。
ハウルベル一帯は実りの少ない地で年越しは決死の作業だったそうだ。
当然、越せなくて死んでいく国民が多く難儀だった。
後の王族である魔術士が数々の改善を施し長年、尽力した事で住み易い地に生まれ変わった事を称え、この時期に溜め込んだ品々の残りを持ち寄り祝ったのが始まりだと言う。
「その起こりの特性上、物品の持込が多くなるので多国籍の品が並び、上手くすると掘り出し物に出会えるかもしれないですよ?」
なんてうっとりする受付嬢。
一番の目玉は持ち寄り晩餐会……もちろん、無料! こんな美味しい祭りなら姉さんと周るのも面白そうかも。
私は密かに参加を決意したわ。