模範囚 ロ85
「ロ22、ロ43、は前線を構築……ロ85は遊撃し可能なら角を砕け、散開!!」
監査の命令に即座に反応した22と43はそれぞれの武器を構え突進。
私は少し回り込み側面から後方にかけての攻撃を狙う。
標的は事前に聞かされていた、リカウと言う牛系の魔物が三体。
30センチはある槍の様な角が額に1本生えた牛にしか見えないけれど意外と素早く、草を好んで食べるけれど雑食で肉なども好物でとにかく良く食べるそうだ。
人里にも降りてくる危険な魔物で戦闘の経験の無い人間では太刀打ち出来ない強さを持つ。
「バーイン デ=グラス 夏迷う園 月日も迷い、その身を肥やす そ・ら 蔓延る=ザプレイス!」
後方に下がった監査が唱えた魔術によって雑草が束と育ち、リカウ達を捕らえんと繁り絡みつく。
1体のリカウを完全に絡めとり拘束。
2体目にもかなり絡み付いて動きを制限する。
正直、私達3人の肉弾では厳しかったのでやり易くなった。
もがき暴れるリカウの鈍ったやつを軽戦士系の22が担当し、戦士系の43が斬り込んだ所に合わせるようにメイスで角を砕く。
その衝撃で脳震盪を起こしたらしく、ふら付くリカウを43が2撃・3撃と首を狙い斬り付ける、。
リカウは食肉としても優れ、毛皮を綺麗に剥げれば高値で取引される高級品に化ける。
しかし、角は脆くて加工が難しいらしく使い道が少ないので安く買い叩かれる……無くても構わないので重点的に狙えるのだ。
無力化された2体は22が止めを刺し巧みなナイフ捌きで素材を剥ぎ、既に血抜き作業に入っている。
元は食肉屋でもしていたんだろうか?
私はあんなに上手く出来る気がしない……。
余所見しているうちに最後のリカウも虫の息……、決着がつくのも直ぐだろう。
程無くして野外討伐奉仕が終了。
帰りも何事も無く速やかに王都に帰り、滅多に入れない風呂にありつく。
既に通い慣れた牢獄廊を監査と共に歩き、自分に与えられた独房に戻った。
「ロ85番、ご苦労だった。 この調子で贖罪に励むように!」
カッチリした挨拶を返し一息付く。
踵を返す監査に隠れて溜め息を吐く……、サーナイアと呼ばれなくなり、あの事件から早くも2年もの月日が流れようとしていた。
入りたての頃はショックばかり大きくて気力も出ず、気持ちの切り替えも上手く行かずにふわふわと、暇を見ては面会に来てくれる姉に縋ってしまっていたけれど、一年も過ぎる頃には立ち直る事が出来てきた。
姉だってエバン君の側を離れて頑張っているのだ、私もっ! と負けん気が戻ってきたのが大きい。
昔から時間が解決するとは言うけれど、我が身をもって体感するとは思わなかったわ。
ここに入ってから気取った喋りも止めて久しい。
今の私は模範囚として個室牢に移され、訓練や野外奉仕・勉強等を行わせて貰いながら社会復帰する事を目標に励んでいる所。
このまま順調なら3年もしないで釈放されるかもしれないそうだから頑張らないとね。
と言うか、この刑務所は随分と囚人に優しいと思ってたけど、どうやらエバン君からの提案で囚人の扱いが変わったらしい。
まだ素直に「有り難う」とは言えそうに無いけれど生きてる気がしている。
ちなみに、今は神官能力は制限されているから魔法は軽い輪廻の白しか使えないので野外活動の手前、棒術を習っている。
直接魔物と戦う危険な奉仕だけど、一番貢献度が高く素材が高く売れればボーナスも付くので効率が良い。
今まで棒術は習った事が無くて気分で振り回していたから、最初は重さに振り回され両手に豆をこしらえては潰しと酷いものだったけど、最近は取り回しもスムーズに脆いものなら破壊出来る様になってきた。
姉さんには「うら若い乙女が豆や力瘤なんて作って、まぁ」
なんて言われたけど、どっちもどっちだと思う。
今日は成功報酬として風呂にも入れたし食事にも肉が入っていた。
少し筋張っているけど臭い飯と言う程酷くない。
この点だけはエバン君を誉めても良いかもって思うのは現金かしら♪
この日は暫く勉強に勤しみ早めに就寝。
なんせ私達の朝は早いのだ。
光石も眠る頃に起き出して身支度を整え、兵士達に混じり早朝トレーニングと走り込み、術師系だからってあまり手加減は無い。
それぞれの模造武器での対人戦を行い、昼までは独房の掃除や清掃と力仕事が続く。
昼飯を食べた後は少し休憩があり、この時間に面会や相談等を済ませる事になっている。
後からは希望者のみ勉強や野外奉仕に出る事になる。
これが模範囚の1日のモデルになる。
別に一般の囚人は基本、自由行動と待機の繰返しで問題を起こさなければ順当に釈放される。
早くて10年単位だけどね。
模範囚になれればそれだけ釈放が早くなるし、強くなる事も出来る。
姉さんに報いるためにも、何より私の為にも、そして勿論、犠牲になった人達に本気を見せる為にも私は頑張ってみようと思う次第なのだ!