『ハングリー☆バグズリー』
--サイド・アネモネ--
「ねぇ、ケロル君……もう食費が無いよ?」
普段は元気印がトレードマークのケロルも神妙な顔をしていた。
ここはイストフラロウスの中層に位置する冒険者ギルド<シルフの宿り木>亭。
最近は飯の種となる情報が少なく、盗賊系の仲間が居ない私達は上手い情報を得るのが遅く、少しひもじい生活になってしまっている。
こうして、ただギルドに張り付いて新しい依頼が無いか探す毎日は地味に精神を削ってくるから侮れないと最近実感する事ひとしおな日々。
そう言う私はこのパーティー『ハングリー☆バグズリー』の女魔術師でアネモネと言うの。
他には大食いの元気マン、ケロル君。
引っ込み思案な猫魔族、サジェ君と負けん気の強い翼人アンナちゃん、私達四人だけのパーティー。
私達は先日やっと一人前と認められるCランクに昇格したばかりで兎に角お金が無かった。
昇格するには試験に受かる必要があるんだけど、試験を受ける為にはそれなりの礼金が必用なのよね。
そんな事を5日も続けた明くる日。
珍しくアンナちゃんが興奮気味で依頼用紙を持ってくるもんだから私達も興味を引かれて卓に集まる。
「ここ最近にしては割りの良い仕事じゃないか!?」
アンナちゃん力み過ぎ。
苦笑とともに内容を読み進めた私も興奮するくらいの報酬がそこには書かれていたの。
曰く、
「団体の護衛だけで金、10万札」
「期間は長くて2週間」
「こちらと合同で良ければ、3食支給……夜間見張りはあり」
「Cランク以上推奨」となっていた。
依頼主はエバン・ニードとある。
これははっきり言って破格だ。
「凄いの見付けたね、アンナちゃん!」
手を取り合ってうっとりする私達に「少し怪しくないか?」と水を指すようなサジェ君の物言いに私達も少し不安になったけど、ケロル君の「こまけーこたぁ良いんだよ、ヤバけりゃーけつ巻くって逃げちまえば良いさ」の言葉でやる気だけは出てきた。
サジェ君だけは、「またか」って顔してるけど、二人の方が知り合って長いのだから慣れたものじゃないのかしら?
「決まりだね!!」
この流れで来たら、即決しかウチらには無いのだとか言い聞かせながら書類を提出した。
「え~と……、丘の裾の病院だったよね?」
あまり来たことの無い上部の町並みをアンナちゃんの先導で面接場所に向かう。
中層から下がごちゃごちゃと雑多なせいか、綺麗に揃えられた家々や高層建築に目が奪われ落ち着かない。
日光の下って事で、今日は更に念入りに着込んでいるから暑くて困る。
……そう、私は地底人だからこんなに強い日差しだと肌を火傷してしまうのだ。
ちなみに私達のパーティーの名前の後半、<バグズリー>は私の格好から来てるみたい。
母から譲り受けた丸眼鏡のはまった仮面と重ね着ローブでストーンとした体型に見え、私自体のあだ名も<バグズ>なのよね。
女の子にこんな名前付けちゃう感性が嫌になっちゃう。
あ、そんな事より、初めて会う依頼主のエバンさんは私達とあまり年齢が変わらない様に見えるのに上等な術師然としたローブを纏っていて、うっすらとプレッシャーを出していて怖いくらいだった。
肌の色などから同じ地底人の特徴が見えるのに仮面も付けて無くて、炎天下の日差しでも平然としているのも不思議な印象として脳裏に残った。
中に招かれた私達はギルドでするみたいな基本的な質問の後、今回の護衛がかなりの団体で差別層を含むと聞いた時は少し嫌だなって思ってた事を、仕事を終えた今は申し訳無く思うようになった。
後で聞いた話だと、他に5組も応募があったそうだけど、皆辞退したみたい。
勿体無いよねって思うわ。
道中、結構際どい戦闘や凡ミスがいくつもあったり、お世辞にも完遂したとか言えない旅だったけど、死人を出す事も無く、誰も飢えること無くエバンさんの国に着く事が出来た。
報酬とか関係無く良かったと心底、思えた。
私の価値観はこの旅で間違いなく変わったって言えるから、凄い心の財産になったの。
術師としても、錬金術からの祝詞のアプローチとか魔術の生活への組み込み方とか、神聖語での祝詞の魔術転用とかエバンさんの発想はぶっ飛んでたけど、1番は彼が王様で神様だった事だと思うのよね、結局。
実を言うと、彼との縁が本当に大切な報酬だったって事は私達『ハングリー☆バグズリー』にとっての共通認識なんだ。