護衛と移民団
物騒だね、ゴインゴ。
地下世界に戻って来た俺達は医者のじいさんの病院に帰りついてすぐ、護衛の応募があったと教えてくれた。
依頼料は俺持ちだけど、場所が無いのでこの病院の一室を面接場所に借り受けギルドに通達。
「さて、どんなのが来るかな?」
と内心楽しみにしていたのに、来たのは1組だけ。
職員が言うには応募自体は報酬に釣られて、掲載してすぐに5組程来たらしいけど、病人や怪我人、果てははぐれ魔族に浮浪児なども居る事に難色を示して辞退したそうだ。
所謂、差別ってやつだな。
何とも心の狭いこと……。
まぁ、残ってくれたパーティーも異色と言えるから、一般的な感覚として、そう言うものなんだろうと納得しておく。
さて、依頼を受けてくれたパーティーのメンバー構成は前衛らしい男性が2人で後衛女性が2人……、少し人数が少ないけどバランスは及第点。
まずは如何にも「俺、戦士です!」な青年ケロル。
種族は人間族で底抜けに明るい雰囲気を持つ短髪青年、ポールハンマーに寄りかかっている。
もう一人は猫科の魔族、幼い感じの顔立ち、周りから一歩引いた印象を受けた、格好は軽装の革鎧で武器は見当たらない。
多分、格闘家なんだろう、しなやかな筋肉が見て取れる。
彼はサジェと言うそうだ。
二人の後ろに隠れる様にしているのが、地底人の女魔術師 アネモネ。
初級~中級の術を使えるそうだ。
得意属性は風。
野暮ったいローブと大きなレンズの仮面で印象が悪いが、のぞく顔のパーツから可愛らしい容姿をしているっぽい事が窺える。
最後に、火神の加護を受ける翼人の女ハンターのアンナ。
セキレイに似た顔立ちで愛嬌があるスレンダー体系。
白い翼と硬そうな革鎧、折り畳まれた弓を持っている。
4人の中で一番冒険者的な格好かもしれないな。
みんなバラバラの年齢に見えたけど、同じくらいだそうだ。
むしろ、俺と同年代くらいかな。
経験の面で少し不安だけど今は即戦力が有難い。
勿論、翼人のアンナには暗視ゴーグルを渡しておく。
成功した暁には、追加報酬としてゴーグルを譲る約束もした事で俄然やる気が出たみたいだ。
実際集まった人間を見るに、予想はしていたけど何人かは酷い身なりで、かえって病気になりそうな塩梅だったのには参った。
少し進んだ街道の外れに泉があるので立ち寄る様に指示して護衛隊に先攻して貰う、俺は殿担当でヘイルは子供や女性を集めた真ん中らへんに寄り添って歩いている。
半日ほど歩き件の泉へ。
まずは、簡単な結界をアネモネに教えて行使して貰う。
簡単な結界だけど、普通は他人に無料で教えたりしないが、あの頃の俺に重なって見えてつい世話を焼いてしまう。
それはまぁ、置いておいて……、まずは昼食にしようと巨大な鍋をバックから取りだし簡易かまどに設置、これ幸いとアンナに火をつけて貰う。
移民の中からも手伝いとして、料理の腕のある方々にはお任せして俺は神聖水神魔法『水作成』で井戸代わりになり、雑用したりと時間を潰す。
ちなみに、この水は聖水だったりするが恐れ多いとか言って使わなそうだから皆には内緒。
完成した料理は、野菜のゴロゴロ入った水炊きの様なもので量も多く大変美味しかった。
欠食児童や女性を優先して食べさせ、今度は普通の造りの服を希望者に配布していく。
思わぬ高待遇に泣いている子らも居るが、今はそのままに取り敢えず数時間だけ持つ簡単な風呂を錬金術で作り、男女交代で入って貰った。
それから数日間、皆この雰囲気に慣れてきたみたいであちこちで声の掛け合い、助け合いが見られるようになり、なんだか同じ町でやっていけそうに見えてきた。
喜ばしい事だ。
護衛の彼らも道中、危険の少ない魔物の襲撃が2、3あったけど慣れない広範囲の防御も一生懸命やってくれていた。
ケロルが「もう、俺、腹へった~。歩くのシンドイぉ」などと、おどければ「人の3倍食ってんだろ、働け!」なんてアンナにやられたりと漫才の様な掛け合いで疲れたムードの緩和にもなって彼らも移民達と親しくなっていく。
旅立ちの頃の再現よろしく、見知った町や村を経由してずんずん進む。
移動中も地味に信者も増えて来た。
けれど、やっぱりと言うか、安全地帯まで後一日と言う地点の洞窟道を封鎖するように陣取る巨大な魔物に遭遇。
その巨体はしいて表すなら足の無いトカゲ、尤も肥大した腕と縦に開く瞼が生理的な嫌悪感を呼び覚ます事請け合い。
事前取り決め通り移民団を素早く下がらせ、俺とヘイルでガードしながら護衛4人が前に出る。
その特徴からアルケオ・シザードンだと看破した俺は、奴は尾の肉に鋏を隠していて不利になると途端に振りかざしてくる事。
ぞろりと生えた鋭い牙の後ろにもう一列歯があり、噛まれると遅行性の神経毒を注入されるから避けるか防ぐように指示を出す。
「ありがてぇ」
と言いながら、まずはケロルがハンマーで打ちかかるが空振り。
「ケロル君、遅いんだから支援を待って!『肉体強化!』」
アネモネからの叱責に「おいっす!」とか言いながらハンマーを持ち直し、横に振り切りながら後方に回転……、正に噛み付こうとするアギトに重い一撃を打ち据える。
体ごと吹き飛ぶ頭部が岩壁に当たりダメージを増す。
チャンスを生かすべく展開した弓を構え神聖火神魔法『炎の矢』を放つアンナ。
爆炎が花開き地を焦がすが奇跡的に僅かに避けられた。
そこを更に救い上げるようにアネモネの『風刃』が炎を巻き込みシザードンの切り傷を焼き焦がす。
炎を嫌ってのアクロバットステップから鋏攻撃を繰り出すシザードン。
標的は前衛2人……、ケロルが受け損ね、転倒。
追い討ちの噛み付きを、攻撃を受け流し間に滑り込んだサジェが合気でもってシザードンを投げ飛ばす。
宙を舞う巨体……、生命の危機に逃走に移る奴は2本しかない腕で移動してるのにやたらと早い。
正直、気持ち悪い!
逃げる後姿にアンナの十八番『爆裂火球』が飛び止めを刺した。
全員、大きな怪我も無く、治療と剥ぎ取りに移ろうとした彼らにもう一体隠れていたシザードンが上階から飛び降り4人を弾き飛ばす。
広場に踊りだすアルケオ・シザードン。
今回は警戒していた俺とヘイルが同時に動き、空からの『氷雷撃』と下からの『ウォーターピラー』の挟み撃ちで胴体を貫通。
いち早く立ち直ったサジェが飛び込み前転踵落としで首の骨を粉砕した。
今回は油断から不意打ちを受けてしまったけど死人が出なかったから良しとしよう。
もう目の前にはうっすらと結界の川が見えるし、これ以上悪い事は起きなさそうだ。