これは引抜じゃないですか? いいえ、神の意思です。
最近はずっと工房に籠って、水石と蒼海石と名付けたトンデモ石の改良と量産ばかりやっていたから、時間の流れがとても早く感じた。
岩大工達が引いた設計図に必要な数の水石も揃ったし、蒼海石も各家庭に配っても余るくらいの備蓄も出来た。
「あんまり根を詰めないで下さいね!」
と毎日アハゼンさんからは小言を貰っている。
気にしていない風を装っていても、この前の魔力干渉事件がトラウマになっているんだろう事は想像に難くない。
「わかっていますよ」
笑顔と共にお茶を頂いて鷹揚に頷いておく。
実際、本当に一段落ついたので今日は久方ぶりに自分用の武器を錬成しようと暇を作っていたのだ。
今回作るのはミスリル材のグレートソードをギミックソード化した大剣だ。
繋ぎのOリング部分を二枚噛ませ水石の円盤を組み込み繋ぎとして機能させる。
水石は神気に反応し易いので相性も良い。
そこに神気を流す事で刀身が百足の様に割れ開き、刃のある長鞭になるようにイメージして錬金術を行使する。
朗々と響く詠唱の末、程なく錬成の電光を纏ったグレートソードが完成した。
肩に乗っているヘイルと笑い合う。
このくらいの錬成は既に朝飯前で作れる様になったのだから感慨深い物だね。
出来たばかりのグレートソードを片手に工房の前の空き地に移動し一通りの斬撃や切り上げ、突きなどの動作を繰り返す。
調子の悪い場所や重心などをチョイチョイと調整。
鞭形態にしては調整と軽い直しを根気よく続ける。
始めに付けていた鍔は真っ直ぐで幅広だったけど、鞭形態の使い勝手との兼ね合いで竪琴の様なフォルムに落ち着いた。
銘は『ウルスラグナ』
勝利を司り、「障害を打ち破る者」と言う側面を持つらしい異界の神の名。
スケジュール通り、昼には作品を完成させる事が出来たので大きく様変わりした村の様子を見守って居ると、偶然王子と会った。
「今日のお勤めはもう良いんですか?」
今は人前なので化け猫かぶりモード全開……、笑顔が怖い。
如何に俺が頑張ったかアピールは年相応で可愛らしいのにな。
苦笑しつつ「必要な分の建材は用意済みだ」と言うと、「整地と区画整理も終了しました! 次はもう建設に着手予定です」と誇らし気に今度はヒノンの元に報告に向かって事務部屋へ走って行った。
元気なもんだ……土魔術が得意と言うだけあって仕事が早くて丁寧で助かる。
現在の村は俺の陣術により広場を中心に十字に川が出来てしまったので、それぞれをブロック分けした状態で。
北を北西、北東ブロック。
正門側を南西、南東ブロックの4つとし中心が大聖印となっている。
今迄居た工房の位置は北西ブロックの岩山側の外れに位置していて人気が無い。
以前の邪魔だった洞窟のある岩山を切り崩し中を更に広く、内部の拡張を行って、中の古い民家を撤去して外にある民家は残して工事の間、みんなにシェアして住んで貰い共同生活中。
背後をつかれた裏門方向は、鉄製の頑丈な扉で封鎖して水門の様になったらしい。
基本、入村は正門からのみに変更になり。
急な坂もなだらかな坂に作り替え中心の大きな道を中央路命名して左右に商店区画、大聖印周辺は前と同じく広場に、くり貫いた岩棚の上下を階層で繋ぎ、主に住民の新しい居住区となる。
水神神殿は吹き抜けの中にピッタリはまるように作るので外観は塔のようになる予定だそうだ。
勿論の事、外壁はすべて水石を使用予定。
更に商店区画から外周は、岩を土に作り替えて畑にする予定も有るとか。
更に建国宣言の後に直ぐイストフラロウスに飛び、温泉大工になったルビーさんにこの国で温泉を作って貰う契約も結んである。
残念ながら入信の勧誘はサラッとかわされてしまったが、こうやって目にみえる成果が現れる度に沈みがちだった村人にも笑顔が浮かぶ回数も増えた。
今はまたイストフラロウスに出向き、俺の治療をしてくれた医者とアネットを村に呼ぼうと画策中だったりする。
ちなみに、村人の知人の呼び寄せや噂を聞いてやって来た孤児や難民も受け入れている関係で人口が倍ほどになり町と言っても良い規模になっている。
事務部屋を覗き、ヒノン達に暫く出る事を告げ撤去段階で出た廃材を錬金術で建材に作り替え、水神魔法で洗浄だけで済む物は洗って再利用材にしてしまう。
そのまま、ふらっと移送陣でイストフラロウスへ到着。
なんてお手軽なんでしょう移送陣。
前回は療養中だったのであまり堪能出来なかったけど後で散策しようと決め、以前お邪魔した自治軍に顔を出す。
今回は神気を纏った状態での訪問だ。
気圧される翼人に申し訳ないと思いながらも、トップとの面会を希望する。
最初は「アポ無しでの訪問は困ります」の一点張りだったけど、為政者に伝わったみたいで特別に奥に通された。
「ようこそイストフラロウスへ」
前にも触れたと思うけどこの都市は自治軍による議会制を導入していて、身分に関係無く優秀な人族が治めている。
確か今は翼人の穏健派筆頭、オウル・イーグルが務めていたと思う。
目の前に居るのが、正にオウルその人だったようだ。
彼は名前からもわかる通りに<鷹>の因子持ちの翼人族で鋭くシュッとした容貌の持ち主だ。
う……羨ましくないぞww
まだ俺はハウルベルの守護神でしか無いので、取り敢えず挨拶と顔合わせに来た事を話し、お互いの交流と協力を強化する方向で話を纏めとくか。
元々ハウルベルとイストフラロウスは友好国だしね。
予想外だったのは以前、「暗視ゴーグル」をお礼であげた翼人騎士が自治軍内でメキメキと戦価を上げてるらしく、俺が出所だとばれたらしい。
案外、鳥目の特徴持ちが多く、「あれが有れば俺だって!!」と良くない注目を浴びているそうだ。
お互い悪い話じゃ無し、大量に都合出来ないかと打診されたので、国経由で正式に依頼して貰えれば適正価格で販売しても良いと答えた。ただ働きはいかんねw
話が長引き、夕食の誘いまで頂いてしまったので辞退してもう一つの目的地へ。
断ったのはイストフラロウスの作法で夕食の誘いは「私を信用してくれないか?」の暗喩だったりもするからなんだけどね……考えすぎかな?
「コンコン……」
年季の入った木戸を叩く。
「エバン……さん?」
流石に驚いてるな。
「久しぶり、アネット」
何だか普通の人に会うのが久しぶり過ぎて若干照れ臭い。
すると突然、不意打ちに泣かれてオロオロしながら目線を辿ると左腕を見ていた。
「治ったんですね~!」と走ってきたアネットが目の前で急に消失。
テンプレ乙とか思いながら転んだアネットを助け起こしてやる。
お約束を外さない人だな~。
改めて再開を祝いながら「俺、神様になったから」って神気を薄く纏ったら……、「他の患者さんに負担がかかるから止めてあげて下さい」と間髪入れずに嗜められた。
貴重な人材だ……。
本来は医者のじいさんだけ勧誘しようかと思ってたけど気が変わった。
アネットも連れて帰る(断言!)。
そして、ここは勝手知ったる他人の家。
診察室に居るであろうじいさんの所に行って、移住と入信の勧誘を切り出す。
俺の神気に冗談では無い本気を悟ってくれたみたいでとても悩んでいたが、俺の提示する可能性。
神聖水神魔法には治療術が存在する事。
軽症の者は今すぐ俺が癒し、重傷者も引き受ける用意がある事を話したら少し傾いた。
駄目押しで今後の開発で露天風呂を作る予定なのと、「亜空間バッグ」の改造もおまけしてやる事にしたらやっと折れてくれた。
本当は悩んじゃいないくせに、この天邪鬼じじいめ。
何だかほっこりしたぜw