覚悟
長い様で短かった、村落防衛戦は少なくない死者を出しながらも全滅の憂き目を回避する事に成功していた。
多くの家屋がインセクターの行進に踏み荒らされたが、生き埋めになった人間も居ないらしい。
村長が亡くなり、縁者も生き残る事が出来なかった為、内情に一番詳しかった冒険者夫妻を筆頭に戦う力のある次代の若者達で自衛の為の組織を作って貰い、俺達が留守にする間の守りと復興に努めて貰う事にする。
ゴタゴタしていて聞いていなかったけど冒険者夫妻は夫がエーギルさん、妻がアイシャさんと言うらしい。
ついでに水族移送陣を屋敷予定地に設置して緊急移動を可能にしておく。
現地にヒノンを置いておく事で連絡もスムーズにいくと思う。
今回、捕縛出来たのは盗賊の生き残り8人程とサーナイアで9人。
幹部であるサーナイアを捕まえ無い選択肢は取れなかったが、流石に盗賊と一緒の移送で無く手錠つきではあるけど俺達のヤギ車で連行する事が許されただけマシなんだろう。
ハウルベルに戻るのは俺とヘイル、マリアと王子、護衛騎士達。
ヒノンは先に上げた通り連絡役として、エミリオ&イシスは村の防衛の長として残って貰った。
とんぼ返りの道中、現場から離れ落ち着いてきたのか、ポツリ……ポツリとサーナイアの告白を聞く事が出来た。
俺達とはぐれ、ウァラと落ちた穴の先ではまたもスライム津波に会い、無我夢中で逃げた事。
逃げ込んだ通路は行き止まりでキマイラの巣だった事。
パニックで戦力にならないサーナイアを庇いながらの戦闘、キマイラと言う強敵、流石にまかないきれずにマリアが先に脱落し津波に連れ去られ、孤立して弄ばれている所をサイラーに助けられたと言う事。
その辺から意識の混濁が頻繁になり、いつの間にか生きている者全てが憎くなっていたそうだ。
おそらくサイラーが何かしていたんだろうが、俺には解らない。
自分の意思では無いといえ実際に多くの一般人を殺害してしまっている事も拙かった。
季節はそろそろ秋に入るが地底の気候にあまり変化は無い。
出発して直ぐ、マリアとサーナイアは時間を取り戻すかの様にお互いから離れない。
心配していた術師からの襲撃も無く、無事に5日の旅程を終え俺達はハウルベルに帰還した。
この5日で、どうやらマリアは統合した自分を受け入れたらしく、今後はウァラマリアに正式に改名する事にしたそうだ。
「もう一つ決めた事があるの」唐突にウァラマリアが言う。
「あの子をもう独りぼっちにしたくないの、申し訳無いけど私はここに残る」
彼女の決断にやっぱりな、と言うのが俺の感想だった。
「暫くはフリーの冒険者としてやろうと思うの、依頼がある時はよろしくね?」
そう言って笑う彼女は透明で美しかった。
俺は「必ず」と言って見送らずに別れた。
その足で王子達と王城へと上がり、罪人を引き渡して王へ報告に向かう。
「災難でしたな」
先に報告を受けていた様子のハウルベル王。
お互い労いの言葉を告げ合った後、早速に復興の手筈を詰めていく。
この日、俺は自分の守護する国を持つ覚悟を決めたのかもしれない。
情報の齟齬が有ったので、修正しました。
すみません(汗)