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レカント 3 ~嘗ての友~



 サーナイアが正気に戻った事で憎しみで制御されていたゴースト達が動きを停めた。

 それは良かったのだけど、無念から身を寄せ合い、大きな怨念の塊に融合合体してしまった様で新たな難敵が現れてしまった。

 今は無差別攻撃をしてるが、早々に浄化しないと拙い!



 更に正体不明のスキル発動を始めたサイラーを、援護するように15匹前後の昆虫軍団が一斉に動き出す。

 これからは見たまんまインセクターと呼称する事にするが蟹の様な脚を動かしガサガサと迫る。

 全身を茶色っぽい甲殻で覆われ、胴体は蟻の様に3部位からなっていて凄く固そうだ。

 更に、元からの腕は大きな鋏になってしまっていて宿主の頭は腹部に潰され存在し無い。



 細長い腕から繰り出される、素早い鋏。

 エミリオとヒノンが先頭で必死に受け流すが如何せん復活したてで上手く捌けずに細かなダメージが増えていく。

 奴等の猛反撃に侵入してきた村の正面まで押し戻され、民家の多いゾーンまで後退してしまっている。

 インセクター達に周囲の障害物を気にする様な知能は無いらしく、愚直に直進してくるのが昆虫臭くてまた恐ろしい。


 左翼側、茫然自失で泣き崩れ、立ち上がれ無くなっていたサーナイアにも平等にインセクターが腕を振り上げ刺し殺そうと頭上に迫っている。

 サーナイアは気付いていない。


「させない!!」


 しかし、人格が統合されたマリアが久々に<影神の神聖パッシブスキル>を同時起動。

 懐かしいスキルは


『追従する影』

『溺愛する闇』

『立ち上がる幻想』の3種。

 闇の鎧を光の装備に結合し、神聖戦士としてまた大剣を握る。

 

 刹那……、インセクターとサーナイアの間に割り込み固い鋏を割り飛ばす。

『立ち上がる幻想』で影を実体化させ任意の形に留め、『追従する影』影の刃で犠牲者に更なる同時攻撃を繰り出す。


 しつこく攻撃してくる残りの腕前に『溺愛する闇』による闇のシールドが自動展開、余裕で刺突を弾く。


 身体能力の加護も問題無く戻った様だし……、むしろ以前より力強い。


「ウァラ姉さん!?」

 能力の再確認をいていたマリアに妹の声がかかる。


 突然の肉迫に驚き思わず、と言った感じだ。



「さぁ、立って、走るの! 今は生き延びることだけを考えて! 私達たった二人だけの姉妹でしょう?」

 一喝され、朧気に意思の光を取り戻した瞳で、口元をキュッと引き締めた妹にウァラは柔らかく聖母の様に微笑んだ。

 



 一転、覇気のこもった鬼神の表情で豪快にインセクター達を凪ぎ払う。

 それだけで甲殻が割れ、砕け、脆い四肢が千切れ舞う。


「皆、こいつら関節が脆い、腕も貧弱だ!」


 肯定の返事が重なるが、そんなに簡単に屠れるのは君だけだよ?って全員が思ったのは言うまでも無い。


 ……流石、2神の加護。

 


「そう~、ほいほいと倒されちゃ堪らんぜ」 

 忌々しげにサイラーが喚き、先程から準備していたスキルを発動。

 顎が外れるんじゃ無いかと言う位に口を開き、尋常じゃない量の蜘蛛糸を吐き出す。


 咄嗟に全員が回避するが、狙いはフィールドの方らしく、そこらじゅう蜘蛛の巣が成形される。



「第2ラウンドと行こうじゃないか?」

 

 頭上の巣に飛び乗り天井から逆さに立つサイラー。

 後衛を狙い直進してくる。

 


 蜘蛛糸がヤバイと睨んだエバンが、全力で振るった鞭で蜘蛛の巣を攻撃するが、意外に強度があり散らす事が出来なかった、粘性が無いのだけが救いか?

 繰り出されるサイラーの六連攻撃を鞭をしならせ弾き、絡め俺に釘付けにする。



 不敵に笑うサイラー。


 どうやらインセクターも頭上の巣に逆さに立てるらしく。

 インセクターのいくらかも、おもむろに巣を利用しだしたのは誤算だった。

 このままでは碌な武器の無い村人の方に楽に向かわれてしまう。

 後方で頑張っている村人達の方へ行かない様に、ヘイルも雷を飛ばし感電死を狙って攻撃。

 焼け焦げた天井のインセクターが転げ落ち仰向けに死骸が落ちる。

 元になった人には悪いが、本当に虫みたいで気色悪い。

 あえて表現するならゴキブリの死骸の様な雰囲気なのだ。



 ここまでは振りだったが、暫くの攻防の末、インセクターを全滅させサイラーを再び、奥へと押し込む事に成功していた。

 やはり、マリアの存在が大きい!


 前方に目を転じてみると、挟撃が上手く決まった様で王子と騎士が逃げた盗賊を鎮圧・捕縛する姿が映る。

 


 ほぼフリーなマリアが最後のインセクターをなで斬りしながら走り、サイラーに斬りかかる。

 肉薄、『追従する影』の刃が別軌道で幾重にも斬りかかる。

 これが影神の恐ろしさの真髄、身体強化と他方向同時攻撃……。

 しかも魔法属性のおまけ付き。


 サイラーも6本に増えた腕で器用に捌き魔族スキル<切断糸>を吐きかけ不意の体術や巣を使ったフェイント、短刀によるコンパクトな刺突で応戦。

 マリアも負けじと剣の平で受けてからのまき打ち、頭上からの唐竹割り地面さえ裂く程の一撃を見舞う。


 堪らず離れたサイラーに影を利用した弓からの矢の雨を浴びせる。


 全てサイラーに切り払われたが残心の硬直中に聖光属性を付与した大剣による強撃をお見舞いする。


 避け切れなかった斬撃が遂にサイラーの胴体に深い傷を残し、強化に使っていたアーティファクト「増強の守り石」を割り砕く。

 そう、全てを狂わせたあの遺跡の戦利品が今動きを停めた。

 

 その後方ではゴーストの塊、レギオンをエバンの全力の結界で封じ神属性の雷をヘイルが叩き込み、エミリオの竜言法による清めの印で消耗させる作戦が展開。

 ヒノンは王子の加勢に向かい、未だ多い盗賊の殲滅に参加している。



 


 アーティファクトが壊れ、本来の力以上に能力を引き出していたサイラーの魔人化が強制的に解ける。


 傷口は大きく内臓を晒し、喀血し大地を舐める。


「下手こいたなー、もう少しだったんだけどな」

「死んでからもお前達を呪ってやるからな!!」

 マリアを見上げる下品な中年の笑顔、中途半端に変化の解けた顔はこんな時だからこそ欲望に塗れていた。



「さようならだ」


 両手で逆手に持った大剣を振り下ろす。

 地面に突き刺さった刃は見事に胴と首を切り離し血の水溜りを作った。



 サイラーとの出会い、ダンジョンを共に走り回った事、スライム津波、短いなりに濃い思い出が蘇るが今は振り払う。


 サーナイアも少なからず思う所がある様だが、毅然と前を向く事にしたようだ。


 まだ戦いは終わっていない……。


 少女達は顔を上げ仲間の元に、前に歩み出して行く……。




10/11 修正。

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