彼女の正体と錬金術
収拾が付か無くなりそうだったから、とりあえず彼女にはシーツを巻いていて貰って原因と思われるエミリオに説明して貰ったけど、俺達と同じで彼女が何者でどうやって此処に入って来たのか、まるで判らないらしい。
「酔ってる訳じゃ無いよね?」と聞くが酔う程飲んで無いと言う。
彼女に事情を聞いてみても「マスターの所有物ですから」としか言わないので困る。
いい加減、エミリオも服を着ようと亜空間バックから衣服と鎧を取り出そうとするけど、衣服しか見当たらない。
確認すると布や革製品などはそのまま有るけど、鉄や鉱物、金属は綺麗さっぱり消えているらしい。
耐性を持つアクセサリも幾らか有ったんだけどそれも無い。
肝心な事に遺跡で手に入れた金属質な卵も無い! その事を皆に話すとエバンが突拍子も無い事を言い出した。
「君、もしかして遺跡から持ち帰った金属質なあの卵だったりする?」
何を馬鹿な、と思いながらも彼女が肯定するので正解らしい。
俺の現実よ、帰って来ーい!
無くなった金属は、彼女が生まれ変わる為に必要な体積に足りなくて吸収してしまったと言う。
「なんか本当に面白い事になったな……。」
エバンの顔に思わず笑みが浮かぶ。
事態に付いて行けてるのは俺だけみたいなんで、代表して何が出来るのか質問すると「私の機能は、マスターを守る事です」と言う。
またもハッキリし過ぎて、すっきりしない答えで遂に『解析』を使い皆で情報を共有する事にした。
すると、遺跡でエミリオがポールアクスを守った場面が鮮明に映り、強烈な歓喜の感情が感じられた。
次いで大量に竜血を浴びて変異した事でエミリオがマスター登録されている事が解り、エミリオの持つ[守る]と言う強い信念とイメージにより自らも守りたいと言う気持ちが再燃。 彼女の狂った[滅び]に自身が勝った様子が窺えた。
今の彼女のデータは此方。
●『鉄壁の楯』
元が<自我のある武具>であったからかマスターを慕うあまり、竜人族に似た容姿の人型に変化出来る様に生まれ変わった楯。(竜人族なのは竜血を受けたからか?)あらゆる攻撃に耐性が有り魔法すら弾く事が出来る。
同じ強度の装甲を同時展開出来る能力を所有。
ただし、攻撃能力は全く無いと言う物だった。
強いなイシス……。
けどエミリオにしか使えない様だ、個人認証ロックてやつか。
人族に見えるけれど本来は楯と言う事が確認出来てエミリオに対する誤解はとけた、けど女性型で超絶美人と言う事も有って裸は拙かろうな結論に至ったが、
「衣服は元に戻ると破けたり外れたりしますよ?」とイシスに返され返答に困る。
考えるのが苦手なマリアが「あの装甲って言うの、イシスさん自身には使えないんですか? 上から被せたり……とか?」
無理かもですかねー?
「私も出来るか解りませんがやってみますか?」と言う事で、実践。
最初はイメージだけでやってみると髪の先に鎧が出来たのだけど、上から被ろうとしたり・パーツの留め具を開いたりすると髪の毛に戻ってバラけてしまう。
ならば布系ならどうだとやってもらうが結果、髪が絡まっただけだった。
いっそ楯状態で居ると言うのはどうだと聞くと、「もう知らない頃には戻りたく有りません」と真顔で返された。
すまん、そうだよね。
何度かやるうちに髪の毛であれば、どの位置にも防具を作り出せる様になったが被るのは上手くいかない様だ。
「もういっそ、体に巻いてから装甲にしたらどうだ?」とエミリオが言うので、やってみると見事に装甲に変化した!!
ただ、このままじゃゴーレムの様に厳つ過ぎてあんまりなので、革や服に見える様に調整して何とか軽装の女性に見える格好になった。
今度は楯に戻って貰いエミリオが装備、装甲も展開して貰うが今回は問題無い、装甲の形はある下に装備している物に影響されるそうだ。
彼女の楯としての姿は騎士盾形状で縁部分は外側に反り返っている、表面は受け流しやすく継ぎ目が一切無くシンプルだ。
中央に彼女を表す茨と花の刻印とラインが入っているのみだった。
楯状態の彼女は自発行動が出来ないので「武装解除の命令は豆にしてやんなよ?」と忠告しておく、装甲自体は1秒で着脱出来る様なので尚更だ、じゃないとマリアがキレるのが目に見えている。
安全が確保され安心したからかエミリオが船を漕ぎ出し……、遂には倒れる様に睡眠に入ってしまった。
意外と無理をしていたんだね? 驚いたけど流石ガーディアンってやつかな? 良い根性だ。
イシスが枕になってしまってるけど本人が嬉しそうだから、まぁ~良いか。
マリアは……、真っ赤になってるね?
邪魔するのも無粋だし、暫く二人きりにしてしてやろうと退出してマリアは部屋に帰して俺とヘイルサンダで工房を拝借しに行く事にする。
流石に大量に、そこそこの難易度で錬金するには工房が必要で困ってたんだけど、廃工房が郊外に有るそうだから失敬して作ってしまおうと言う魂胆なのだ。
少し遠いので屋上から出てヘイルサンダの本来の姿に戻し、飛行して行く事にして空へ。
舞い降りた建物は、壁をくり貫いて造られていて思ったより頑丈そうだ。
内部は見た所、気配は無くきっと、無人。
ここは工房としての機能しか無い様で居住には向かないかな? 広さは10畳くらいで総岩石造り、元は鍛冶工房だった様で隅に割れた水瓶と冷却プールに炉が見てとれた。
更に奥にもう1部屋、6畳程の空間が有り朽ちた鉄と木材が欠片だけ散らばっている。
倉庫として使われていたのかな? 上も有るが休憩室しか無く今はガランとしている。
てか……、あんまり探索したく無いの! 下に戻り必要なスペース分だけ工房の床を掃除して、久しぶりに錬金ロッドで祝詞を書き付けていく。
中央に祝詞文字で大きな陣を組み、四隅にリンクする様に防御結界と拘束防壁を焼き付けていく。
2対の円の真ん中を通る様に文字を書き込み、四角を画き対角を結ぶ文字の線を繋げる。
最後に全ての祝詞に神力を流し、真ん中に立って『起動!』と錬金ロッドを振り上げる。
立ち昇っていた橙のオーラが真っ青に染まり部屋を満たす。
どうやら上手く陣が掘り込めた様で、祝詞文字が淡い蒼光で揺らいでいる。
後は適切な素材と集中力で脳内イメージにふんわりと現実を沿わせていけば完成である。
久しぶりのまともな錬金術に没頭してしまい、時間が矢の様に過ぎる。
廃墟には絶えず祝詞が流れ、高く低くに韻を踏んで独奏がたゆたう。
喉にも神力を込めながら歌い上げ、最後には陣が役目を終え焼き切れた。
簡易の陣だったから良く持った方かな。
しまってある完成品を思い出して満足な気分になる。 いやー今回は良い仕事出来た!
作成したのは4点、まずはエミリオ用に落ち着いた黒地の着物・頑丈さの祝詞補強、材質は魔獣合革で同じ素材で腹回りが革張りの幅広帯(帯の縁は金属補強)のセット、鎧はイシスが居るから良いかと思う。
俺用には魔糸で織り込まれた布と以前貰った血石を錬金合成し、硬合皮のケープを合成した赤の術師服。
マリアには女性用ミスリルアーマーに祝詞文字を模様の様に配置して回避力を強化、腹部に硬皮を使用して屈み易くした軽鎧、(肩当は無し)尻後ろ側は燕尾服の様に金属が覆っている感じ。
もう一つはスカートが穿きたいと言うマリアの要望で、上半身は鎧があるのでシンプルにまとめた長袖ワンピースにして邪魔にならない長さのスカートにした。
素材はソフトレザーでプリーツが大きめに入っている。 色味は凄く薄い青の混じった白ベースに黒を要所に散りばめたんだけど、どうだろう?。
皆、気に入ってくれるかな?