狂乱の災禍
目の前には何処か思い詰めた様な中年男性の一対の視線。
あえて言えばグラマラスと言えなくも無い体型……特に腹だが、面と向かってただ見つめ合いたい間柄じゃ無い。
「あの、トスバルさん用件は何でしょう?」
強引にすっとぼけてみたけど、
反応が無い、只の屍の様だ……って、お約束は置いといて。
まぁ、大方の予想としては昨日の小さい河川の氾濫並みの水魔法の件かなー? なんて予想は立っているんだけどもね。
そんな風に考えていると、
「まず確認なんですが、本当に神官では無いんですね?」
それを肯定すると
「私自身も低位の光魔術を使いますが、先日のあれはどう見ても自然魔術ではありませんよね?」
始めにと前フリ、
「誤解しないでもらいたいのは、糾弾したい訳では無いと言う事です。」
「一体全体、あれだけの水を一体何処から引き出したんですか!?」
興奮が押さえられないかの様に声が大きくなる。
「この地方は比較的に見て水に恵まれてますが、殆んどの地域で水は貴重なんです。」
あれだけの水が呼べるのなら、いくら稼げるか……!
「是非、その様な技が在るならばご教授願いたいのです、主に儲けの為に!!」
一部、本音の熱弁をふるうトスバルさん。
なんだ、儲け話としての詮索だったのか。
構えて損した気分。
いやー 流石、商人としか言えないっすね。
今後、個人的に水を売る事を考えても良かもなーと頭の隅で考えつつ。
今回のは俺の錬金術の師匠が旅立ちの際に持たせた物で、使い捨ての高価な魔道具だったと誤魔化してみる。
神族だとバレてしまったら、それはそれで良いが今は正直言って面倒だ。
次は作り方を聞いておくからと話を納めた。
落とし所も決まり、本来の中休暇として村の中でも散策しようかと目を向けてみると、複数の家屋から煙が上がっている事に気づいた。
そんな馬鹿なと目を疑う規模だけど火事臭い。
内密な話と言われ、かなり村の外れに来てしまっていた自分達を罵りながら元来た道を全力疾走。
近づくにつれ人々の怒号や悲鳴が聞こえ出す。
これは本格的に拙い……。 マリア、無事で居てくれ!
村はどうやら魔物に襲われているらしく、ここからでは詳しい様子は解らない。
更に悪い事に、俺達の方にも魔物が迫って来ているし。
いつもの様に魔物知識スキルで看破しようしたが、運悪く思い出せない。
相手は敵対的で、全身を鱗が覆い・粗末な槍を使っているとしか解らない。
さいわい敵は2体のみに見えるし、今回は武器を携帯して無いなんて事も無い!
「捕食の鎌」を引き抜き、瞬時に接近……回転しながらの4連斬りを浴びせかけ、1体を瞬殺、血と臓物をぶちまけ絶命。
その際、返り血を浴びた箇所や地面から、モノが焼ける音と眼に沁みる煙が上がる。
「どうやら血が強い酸性の様です、遠距離魔法での援護をお願いします!」
指示し、残った遠心力を利用して左の刀身を射出、続いて手首を反し胴体を絡め捕ろうとするも意外と素早く、回避され下を潜って来た槍を右で弾き飛ばす。
左を巻き取りながら遅めの斬撃を繰り出し、わざと避けさせ距離を作る。
そこで後方でタイミングを計りつつ唱えていたトスバルさんの詠唱が解き放たれる。
『闇祓う天の光明 請い願うは 条鳴る魔弾 光の矢!』
指先からの1条の光は3本に分かれ目標に突き刺さり、精神ダメージを受けた魔物は気絶。
昏倒した蜥蜴人の血を浴びない様に止めを刺し、ロスを取り戻すべく再び走る。
村に着くまでにまた襲われたが連携してこれを撃退。
しかし、トスバルさんは既に体力も魔力も限界らしいが、置いて行く方が危険だから頑張って走ってもらうけどね。
やっと着いた村は、既にかなりのダメージを受けほぼ壊滅状態……、村人の声もあまりしない。
焼けていない家屋を回りながら生存者を探すが死体が有るばかりで収穫は無し。
暫く警戒しながら歩き、宿へ向かう。
すると俺達が泊まっている宿を中心に、さっきの蜥蜴人や武装した大きいゴブリン等が包囲している場面に出くわした。
生き残った村人達と一緒にマリア達も奮起し、戦える村人と助け合い前線を張って持ちこたえているみたいだが如何せん劣勢としか言えない。
咄嗟に魔力の尽きたトスバルさんへ自作の魔力回復丸を投げ渡し、お代は後日頂きますと言い放つ。
彼はちょっとビックリした顔をした後、にっこり笑って丸薬を噛み砕いた。
『引き寄せるは勝利の光明 籠めるは日輪の勇志 降り堕ちろ ルミナスアーク!』
気合の入った詠唱と共に大きな光の柱が魔物に降り注ぎ、次々と意識を刈り取って行く。
どうやら今回も精神ダメージの様だ、恐ろしいな光魔法。
「これでホントにスッカラカンです。」
そう言いながら崩れ落ちる、息をするのも辛そうだ。
今ので包囲に穴が空き陣形が崩れた。
厄介な蜥蜴人を大分減らしてくれたので前線に飛び込み、お得意の回転連撃をお見舞いする。
強化された「捕食の鎌」が翻る毎に血と内臓の竜巻が起きる。
適宜、刀身を射出し絡め捕り行動を阻害、そこを村の戦士が斬り付け・マリアとシャンテの急所を射抜く矢が飛び命を刈り取る。
長い戦闘が終わり何とか防衛に成功!
「無事で良かった、マリア! シャンテもマイクも怪我は無いか?」
皆で無事を喜び健闘を称える。
--その上空--
「あはー。あんなに喜んじゃて、まぁ 無防備。」
ニタリと笑う人影は魔術師然としており厚手のローブからでも華奢なのが見て取れる、その手には長大な刃を持つ身長以上の大ガマが握られており、異常に紅い長髪が空を泳ぐ。
「そんなツマラナイ、お馬鹿さん達にはお仕置きが必要だよね?」
爛々と耀く双眸には狂気の光。
瞬間、空間を飛び越え瞬間移動して完全に警戒を解いているエバンの背後へ、大ガマはエバンの左の脇下に潜り込んでいる。
目の前には良く分かってない表情のマリア。
「お・馬っ鹿・さん♪」
嘲笑しながら魔術師が大ガマを振り抜く……、長い刃先がマリアの頬も浅く裂く。
「あああああああああああああああああああぁぁ!!」
反射的に首は遠ざける事が出来たが、脇から肩首にかけて鋭利に切り裂かれ大量の鮮血が噴き出す。
激痛で頭の中が真っ赤に染まり何も考えられない!
意味の無い声が際限無く漏れ続ける。
滞空していた左腕が「ボトリ」っと背後の地に落ちる。
落下音によって緩んでいた場が驚愕に爆ぜる。
皆が逃げようと二人を中心に広場が出来た、マリアは動けない……むしろ自失状態か。
「ツマラナイ」
魔術師が冷めた目で一瞥し、
『我が名はスザフ=ザラ 悪意の鬼子・恐怖の体現者達よ 我に従い奪い殺せ 眷属召喚!』
無数の首持つ大蛇・人食い鬼・悪魔の様な何か・出来損ないの獣みたいなモノ……、男の詠唱により先の量に倍する魔物の群れが召喚される。
「生きていたらまた会おうねー? 御機嫌よう」
そう言い捨ててまたも忽然と消え失せた。
未だ、嗚咽を漏らすエバンの傷口に突如、血色の氷が咲き血が停まる。
落ちた腕を中心に陣が浮かび、蒼白い光が起ち同様にエバンからも光が漏れる。
その陣は、エバンの背に在る刺青に酷似していると気付いただろうか?
世界を圧する様な強大な気配と共に、氷と雷光を撒き散らし余波で周囲の魔物が滅する。
そこにはエバンを守るみたいに巨大な獣が顕現していた。
大きさは優に3Kmを越え、尾の先には雷光を纏う背には翼や角の様な器官が在り、頭上には氷の冠が帯電しながら廻る。
だが、その姿はイタチなのだった。