幕間 姫魔女
--大瀑布方面・とある山中--
昼尚暗い砦を取り囲む様に、明らかに急造の防壁の巡る拠点。
廃棄されたのであろう砦は虚ろな内部を晒しているのに、酷く熱気が渦巻いている。
防壁の内には統一感の無い粗末なテントが多数、設置され少なく無い人数の人族が活動している。
ここは最近急速に頭角を現している盗賊団の拠点……、その場所である。
要所を申し訳程度に照らす松明の道を、頭領と思われる男が悠然と歩んで来る、隣には杖を持った美女を従え、三歩程離れて魔術師らしき男が続く。
中央に広くとられた場に群がる、有象無象の男達に頭領が告げる。
「今回の働きご苦労! お前等の蛮勇で今日も沢山の得物が手に入った。 今夜は久々に酒宴と行こう!」
その欲望に男達から喧しい喝采が上がり指笛や雄叫びが飛び交う。
「力無き独善に罰を!! 乾杯!」
魔術師に渡されたゴツイ杯を受け、高く掲げる。
「「「「力無き独善に罰を!!」」」
唱和の声を合図に一気に祝杯モードに移行する。
それを女……、サーナイアはつまらなそうに眺め、赤黒い葡萄酒を飲み下す。
「愚かな姉とあの小僧は、この有り様を見たらなんて思うかしら?」
軽薄な笑みと、コールタールの様に淀んだ憎しみの眼に火を灯す。
そんなサーナイアの顔を満足気にサイラーが眺める。
最近はこの様な構図が多くなって来た。
彼女を引き入れた時は面白半分だったが、中々どうして使える女だった、身近に良い女が居ると言うのも花が有って乙なものだ。
例えそれが死毒を持つ毒花だったとしても。
暫らくして場の空気にしらけてしまったサーナイアが、砦に戻ろうと席を立つ。
今の彼女は艶やかだった黒髪が、銀糸の様な白髪に脱色されており、髪型は短髪を無造作にオールバック。
反面、大きくて愛らしい瞳で胸元が大きく露出。 張り出した襟ぐりに広い布地の白ファー付きソフトライダースーツ(ツナギタイプ)を着込んでいる。
色は黒で体のラインを強調する仕様、ヒールの高いブーツを履いている。
その手には不似合いな、おどろおどろしい髑髏石の杖を握っている。
彼女を知る者が見ても、俄かには信じられない変わり様だ。
広場にたむろする手下達の間をすり抜け、モデルの様に歩く彼女に酔って気の大きくなった男が手を出す。
女に飢えた野郎所帯には色香が強かったのか、男のソレは完全に臨戦態勢で強引に口説いて来るが全く興味が無い。
「やめて頂けるかしら。 今ならまだ忘れて差し上げても良いですよ?」
大勢の前で言い放つと、なけなしのプライドを傷付けられたのか激昂して押し倒してきた。
何日も風呂に入っていない、饐えた臭いが鼻をつき、興奮する事でより顕著に為った昂ぶりが体に触れ、堪らなく不快になる。
我慢の限界に辿り着く迄も躊躇も無く、私は死の神技を解き放つ。
『相応しき 因果応報』
霊感の強い者ならば、怨嗟に歪んだ中年女性の巨大人面が男の上半身を喰い千切る姿が見えただろう?
悪霊は満足したのか男の霊魂を引き剥いて飛び去っていく。
力の無くなった手を外し、何事も無かったかの様に離れていく彼女の後ろで、思い出した様に男の噛みきり口から夥しい血が噴き出す。
クスクスと哂う彼女の横顔を、魔術師だけがうっそりと見ていた。
「新参だったのか馬鹿な奴だ、うちの姫魔女様に手を出すからそうなる。」
彼女もまた既に、この無法集団を牽引する勢力であるらしかった。