流されて何処よ、ここ?
「やっと起きられたんたですかー?」
なんだか、おっとりした声の女性がパタパタしながらドアを開けるので、体がパキパキすんなーとか思いつつ……うっかりストレッチなぞしながら見つめ合ってしまった。
案の定、大目玉。(当然か)
彼女(アネットさんと言うらしい)は医療関係者と言う様な身のこなしでも無いし、何らかのスキル持ちでも無さそうな雰囲気を振りまいている。
強いて言うなら、微笑ましいかな?
見た目は童顔でうっかり持ちだが、残念……巨乳じゃないみたいだ。
とか、つらつら要らん事に思考を割いてたら
「なんか、失礼な事考えてませんか!? ともかく寝台に戻ってください。」
と、即座にツッこまれた。
その後、本職の医者が来て診察して貰い、確かに骨折以外は完治のお墨付き、出歩きの許可も得た。
どうやら一週間も意識不明だったとかで、ずっとあの娘さんが世話をしてくれたようだ。
しかも、両の二の腕と背中に紺碧の刺青があるらしく強引に誤魔化したけども多分、水の中で呑み込んだ蒼い珠のせいだろう。
今のとこ効果は不明だけど保留して、まずはここが何処なのかについてかな。
考えを纏めて医者に問うと、ここはイストフラロウスと言う街で、もっとも大きな地上への穴の一つ。
その真下に位置すると言った。
そもそも、この地底世界は鉱壁や大河、森林、溶岩湖などで約五つ程の地域に分断されていてイストフラロウスは中心より南南東に位置しているんだとか。
更に天井には何箇所か大穴が開いており、一つはこの場の頭上。
穴の中心となる場所は大瀑布洞と呼ばれ、地上の海水と呼ばれる辛い水の降る滝穴でそこを基準とする条約がある。
西側にも大穴は存在するらしいが医者は知らないそうだ。
少し脱線したけども、イストフラロウスは地下部分に大きな岩山が有り、地上と繋がりが欲しい地底人や飛べない民が集い開拓をし、その上部のスペースに人間や空飛ぶ種族・地上の民などが流入して街を作り成り立っている。 上街には翼人が多く住み、下街には地底人が多く住んでいる大都市だ。
上街には地上へと続く巨大な相互移送陣が掘られ交易と交流がある。
都の頭上には光を蓄積・拡散する太陽のアーティファクト『愚者の円盤』が設置されていて、この地方に広大な緑を提供しているそうだ。
もちろん、夜間には殆ど視力の利かなくなる翼人達の生活のサポートにも効果を発揮している。
俺が厄介になっている病院は上街にある翼人街の医療施設で、自治軍の所属になっている。
長期入院の見込みが強く、民間では見辛かった俺の治療を根気よくやってくれていたそうだ。
大変ありがたい。
そんなこんな、話を聞くうち大分暗くなって来たのでゆっくり休むように指示を受け、アネットさん(医者のお孫さんだそうだ)に療養食を出して貰い就寝。
翌日の昼頃に瀕死で流されていた俺を助けてくれた翼人騎士にお礼と実益を兼ねて練成した「暗視スコープ」贈り、続いて冒険者ギルドに寄りエリクシル姉妹(ウァラとサーナイアの事)二人の安否確認や、サイラーの殺意ある所業の報告書・師匠宛の手紙などをハウルベルに郵送依頼して過ごした。
ふと、こんなに陽光が照っているのに体にローブを巻き付けて居ない自分に今更に気付き驚く!
やっぱりアレのせいなんだろうな~、自分に色々起きてそうでとても不安だ。