不自由な二択・新しい躯
笑う大蜘蛛なんてもの初めて見たよ……。
「てっ……いやいや、呆けてる場合じゃないって!」
物凄い高さから落下しながら咄嗟にギミックソードを抜き放ってみても遠過ぎて掠りもしない。
「くそ、長さが全然足りないし飛ばねぇし!」
底が深すぎて黒い穴にしか見えないが、このままじゃ間違いなくお陀仏だと思う!
何か無いか? ここにあるもの? 布……は、この風圧じゃ裂けちゃうし。
「空気は泳げねーてば、俺!」
ん!? なんだ、空気……風圧!
「そうだ!」
空気を圧縮錬成すれば行けるかもしれない。
善は急げ、ロッドを出してる暇なんてないから指を剣で傷付け、手のひらに血の錬成陣を描き込み、下に向け祝詞を唱える。
『全てを内包する王 集約する白 天を抱き空に至れ 圧縮空気錬成陣』
陣が輝き圧縮された空気が錬成され、正面からの風とかち合い一瞬だけ落下が停止する。
「~~~っ!!」
そして数秒の窒息。
体もミシミシと痛む。
再落下し、底付近で水が溜まっている事に気付き、もう一度空気を錬成。
「ダバァァン!」
派手に水柱を上げて着水。
二回目は意識を保てずに気絶……、そのまま暗い水底に落ちていった。
ぼんやりと漂い、混濁していると何処からか囁く声がする。
声は「君は面白いな。」と言った。
「頭上で何をしているかと思ったが、あの高さから落ちて五体満足な人族などそうは居ない。」
興味深そうにして言う。
「貴方は誰ですか?」
体が動かないので、声を出してみたが出ていないようだ。
しかし、声は「大丈夫、伝わった。」と言う。
「私はこの場に封じられていた水神の小神が一だ。」
もう永い事ここに徒に在る。
「私を封じていた要は失われた様だが、私はこの生に倦んでしまった。
これも何かの縁よ。
現在、絶賛・溺死中の君を助けてやらん事もない。」
「どうだろうか?」
と、言うか選択肢なんて有って無いようなものじゃないか? って考えたら笑われた。
「理解が早くて助かる。」
含み笑いの声の気配。
目の前に蒼い珠が現れ、俺の口に飛び込んで来る。
それを嚥下した瞬間、現実でも光が爆発し全てを染めた。
「痛たたたたぁ~。」
痛みに目が覚めると何処かに寝かされていた。
起き上がろうとしたら、痛すぎて目がチカチカする。
見える範囲で見ると、添え木やら包帯やらでガチガチに固めてあり重症の様だ。
外せなかったのか左腕には亜空間バックがちゃんと有って安心した。
バックから虎の子のポーションを取りだし一気にのみ込む、かなり苦いが吐かない様に我慢。
それで骨折以外の傷はほぼ完治した。
包帯を解いて確認すると赤い打ち身があるだけになっている。
事前の処置も良かったのだろう、綺麗なもんだ。
具合を確かめながら室内を見回し、外が物凄い明るいのに愕然とする。
そんな始まりだった。