↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/29

第1話「異世界で俺だけが使えるスキルは、剣でも魔法でもなくChatGPTだった」

もし、異世界に転生したあなたに与えられた力が、剣でも魔法でもなく、ChatGPTだけだったら。


この物語は、そんな少し変わった問いから始まります。


主人公・神谷光太郎が手にしたのは、万能の力ではありません。AIは知識を示し、選択肢を増やし、時には人を救います。けれど、最後に決めるのはいつも人間です。


正解を選べば、誰も傷つかないのか。

効率を求めれば、みんな幸せになれるのか。

間違える自由まで捨てた先に、本当に幸福はあるのか。


光太郎は、銀髪のエルフ・ユリアや仲間たちと出会い、笑い、迷い、失敗しながら、AIでは答えきれない問題に向き合っていきます。


そして物語が進むほど、問いは大きくなります。


AIをどう使うのか。

やがてそれは、

人間とAIは、どう一緒に生きるのか。

という問いへ変わっていきます。


難しいテーマも扱いますが、物語の中心にあるのは、冒険、友情、恋愛、失敗、そして成長です。


正解がなくても。

何度間違えても。

それでも、自分たちで未来を選んでいく。


そんな物語を、光太郎たちと一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。


それでは。


『AIだけが使える異世界』〜ChatGPTだけが俺のスキルだった〜


物語の扉を、開いてください。

第1話 異世界で、AIだけが俺のスキルだった

プロローグ

五秒後、お前は死ぬ

「起きて! お願い、起きて!」


少女の叫び声で、神谷光太郎は死後の世界へ引き戻された。


最初に見えたのは、夜空だった。


青白い月と、見たこともないほど密集した星々。黒い枝葉が、冷たい風に揺れている。


病院の天井ではない。


救急車の赤いランプも、濡れたアスファルトもなかった。


代わりに光太郎の視界へ飛び込んできたのは、銀色の髪をなびかせて剣を構える少女と、その周囲を取り囲む巨大な黒狼だった。


「……何だ、これ」


掠れた声が漏れる。


少女が振り返った。


尖った耳。汗に濡れた白い肌。右肩の革鎧は裂け、その下から血が流れている。


「動けるなら逃げて!」


「逃げるって……どこへ?」


「どこでもいいから、ここから離れて!」


少女が叫んだ直後、黒狼が地面を蹴った。


大きい。


犬などという言葉では足りない。


四本の脚で立った状態でも、光太郎の胸ほどの高さがある。開かれた口に並ぶ牙は、冗談では済まない長さだった。


少女が剣を振るう。


銀色の刃が狼の前脚をかすめた。


だが、浅い。


黒狼は怯まず、少女へ体当たりした。


「きゃっ!」


少女の身体が吹き飛び、落ち葉の上を転がった。


剣が手から離れる。


黒狼が低く唸り、その赤い瞳を光太郎へ向けた。


獲物を見つけた目だった。


「待て」


光太郎は思わず両手を上げる。


通じるとは思っていない。それでも、何かせずにはいられなかった。


「俺は今、目を覚ましたばかりなんだ。せめて状況説明くらい」


黒狼が走り出した。


「聞く気はないか!」


立ち上がろうとしたが、足に力が入らない。


頭が痛い。胸も痛む。全身を強く打ちつけた後のように、身体のあちこちが悲鳴を上げていた。


最後の記憶が、途切れ途切れに蘇る。


雨の横断歩道。


手の中のスマートフォン。


迫るヘッドライト。


クラクション。


誰かの悲鳴。


身体が宙へ浮き、世界が暗転した。


自分は車にはねられた。


おそらく、死んだ。


それなのに今、知らない森で巨大な狼に食い殺されようとしている。


「死んだ後まで死ぬのかよ……!」


黒狼との距離が縮まる。


十メートル。


八メートル。


五メートル。


地面へ倒れた少女が、必死に手を伸ばした。


「避けて!」


避けろと言われても、身体が動かない。


恐怖が足を地面へ縫いつけていた。


黒狼が跳ぶ。


月を背にした巨大な影が、光太郎を覆い尽くした。


その瞬間。


頭の奥で、聞き慣れない電子音が鳴った。


《緊急起動条件を確認》


光太郎は目を見開いた。


女性にも男性にも聞こえない平坦な声。


耳からではない。


頭の内側へ直接響いている。


《個体識別を開始》

《対象、神谷光太郎》

《認証成功》


「誰だ!」


光太郎が叫ぶ。


少女が驚いたように顔を上げた。


「誰って、何が?」


聞こえていない。


この声は、光太郎にしか聞こえていない。


《自律判断支援型知識機構》

《アカシック・ライブラリ》

《通称、《叡智の書庫》を起動します》


「アカシック……?」


《脅威を検出》

《対象、ダークウルフ》

《推定体重、三十八・二キログラム》

《噛みつき到達まで、二・一秒》


「見れば分かる!」


《現在の行動を継続した場合》

《生存確率、一・八パーセント》


「低すぎるだろ!」


少女が叫ぶ。


「何を一人で喋ってるの!」


「こっちにも事情がある!」


《叡智の書庫》起動

世界が、わずかに遅くなった。


黒狼の身体へ青白い線が重なる。


頭部。


前脚。


重心。


跳躍の軌道。


着地点。


目で見ているのではない。


大量の情報が、頭の中へ直接流れ込んでくる。


《推奨行動を提示》

《右へ二歩》

《上体を低くしてください》

《左手で地面を支え、対象の着地後に後方へ移動》

《成功確率、六十二・四パーセント》


六十二パーセント。


決して高くはない。


だが、一・八パーセントよりは遥かにましだ。


「右へ二歩!」


光太郎は、自分へ言い聞かせるように叫んだ。


一歩。


二歩。


膝を曲げ、左手を地面につく。


直後。


黒狼の牙が、光太郎の髪をかすめて通過した。


熱い息。


獣臭。


空気を切り裂く爪の音。


あまりの近さに、身体が再び固まりかける。


黒狼は地面へ着地した。勢いを殺し切れず、前脚が落ち葉の上を滑る。


《右前方、一・七メートル》

《武器として使用可能な短剣を確認》


少女が落とした短剣だ。


光太郎は地面を蹴り、転がるように手を伸ばした。


指先が柄へ触れる。


冷たい。


金属の重さが、手のひらへ伝わった。


ゲームの武器とは違う。


刃物は、持った瞬間から、誰かを傷つけられる道具だと主張してくる。


黒狼が振り返った。


怒りに満ちた赤い目。


「これで、どこを刺せばいい?」


《対象の左後肢に負傷を確認》

《着地直後、体重を支えることが困難です》

《左後方へ回り、腱部を攻撃してください》


「簡単に言うな!」


黒狼が再び飛びかかる。


光太郎は後方へ下がった。


だが、遅い。


前脚が胸へ直撃した。


「ぐっ!」


身体が吹き飛ぶ。


背中から木の幹へ激突し、肺の空気が一気に押し出された。


息ができない。


視界が白くなる。


短剣が手から滑り落ちた。


《肋骨損傷の可能性、二十三パーセント》

《現時点で致命傷なし》


「報告するだけなら……楽だよな……」


黒狼が近づいてくる。


一歩ごとに、地面が揺れた。


光太郎の身体は動かない。


AIは答えを出している。


右へ行け。


低くなれ。


短剣を拾え。


弱点を狙え。


しかし、知識があっても恐怖は消えない。


正しい行動が分かっていても、人間がそのとおり動けるとは限らない。


「立って!」


少女の声が飛んだ。


彼女は傷ついた身体を起こし、地面に落ちた剣へ手を伸ばしている。


呼吸も荒い。


腕からは、まだ血が流れていた。


それでも光太郎を見捨てようとはしない。


「どうして……」


光太郎は掠れた声で尋ねた。


「何が?」


「どうして、俺を助ける」


少女は一瞬だけ目を丸くした。


「人が倒れてたからよ!」


「それだけ?」


「他に何が必要なの!」


黒狼が牙を剥く。


少女は剣を掴み、立ち上がった。


合理性などない。


自分も傷ついている。


一人で逃げれば、助かる可能性は上がるはずだ。


それでも彼女は、倒れている人間を見たから剣を取った。


AIなら、どう判断するだろう。


救助成功率。


自身の負傷率。


戦闘継続可能時間。


だが少女は、数字より先に手を差し伸べた。


「動ける?」


「たぶん」


「たぶんじゃ困る!」


「なら、動ける!」


「嘘でしょう!」


「今は信じてくれ!」


光太郎は木の幹へ手をつき、無理やり立ち上がった。


脚が震えている。


恐怖で。


痛みで。


それでも、少女が一人で戦っている。


もう、倒れたまま見ていることはできなかった。


正解だけでは、命を救えない

《周辺地形を解析》

《左後方二十二メートルに急斜面》

《斜面上部に、根の腐食した樹木を確認》

《対象の突進力を利用した分断が可能です》


光太郎は斜面へ目を向けた。


古い大木が、崖の縁に立っている。


根元は半分ほど土から浮き、風が吹くたび不気味に軋んでいた。


「作戦がある!」


「成功するの?」


少女が剣を構えたまま尋ねる。


「六十八パーセント!」


「低くない?」


「さっきは一・八パーセントだった!」


「急に頼もしく聞こえたわ!」


少女が走り出した。


剣で地面を叩き、黒狼の注意を引く。


「こっちよ!」


狼が少女へ顔を向ける。


光太郎は大木へ向かって走った。


胸が痛む。


足がもつれる。


背後から、狼の唸り声が迫る。


《残り十メートル》

《対象との距離、六メートル》

《速度を維持してください》


「これ以上は無理だ!」


《速度低下時、生存確率が低下します》


「分かってる!」


大木まで三メートル。


光太郎は木の直前で横へ跳んだ。


黒狼は勢いを止められない。


巨大な身体が、腐った根元へ激突した。


鈍い音。


木が軋む。


しかし。


倒れない。


「嘘だろ!」


《衝撃量が予測値を下回りました》


「大事なところで外すな!」


黒狼が立ち上がる。


赤い瞳が光太郎を射抜いた。


逃げ場はない。


その時。


銀色の影が、横から飛び込んできた。


「伏せて!」


少女の剣が、光太郎の頭上を通過した。


狙ったのは狼ではない。


大木の根元だった。


刃が、最後まで残っていた太い根を切り裂く。


大木が傾いた。


「走って!」


少女が光太郎の腕を掴む。


二人は斜面を駆け下りた。


直後、背後で轟音が響いた。


倒木が黒狼の行く手を塞ぎ、枝と土煙が空へ舞い上がる。


狼の咆哮。


だが、追ってはこない。


二人は斜面の下まで走り、その場へ同時に座り込んだ。


息が続かない。


心臓が喉から飛び出しそうだった。


「……生きてる?」


少女が尋ねる。


「今のところ」


「変な答え」


「今日だけで、死にかけた回数が多すぎる」


少女は数秒、光太郎を見つめた。


やがて、笑った。


「あなた、本当に変ね」


「初対面で言うことか?」


「初対面だから言えるの」


夜風が吹き、少女の銀髪が揺れた。


近くで見ると、まだ幼さの残る顔をしている。


けれど、その緑色の瞳には、簡単には折れそうにない強さがあった。


薬師ユリア

「名前は?」


少女が尋ねた。


「神谷光太郎」


「カミヤ……コータロー?」


「光太郎でいい」


「コータロー」


異世界の発音に乗せられた自分の名前は、少しだけ柔らかく聞こえた。


「君は?」


「ユリア」


少女は剣を鞘へ戻した。


「この森の近くの村で、薬師をしてる」


「薬師が、どうして剣を?」


「薬草は、魔物がいる場所にも生えるから」


「命がけの採集だな」


「慣れれば平気」


「さっき囲まれてたけど」


「今日は、少し運が悪かっただけ」


「俺を拾ったことも含めて?」


ユリアは少し考えた。


「それは、まだ分からない」


「正直だな」


「でも」


ユリアは光太郎へ手を差し出した。


「一人で森へ置いていくほど、悪い人には見えない」


光太郎はその手を見つめた。


土と血に汚れている。


細い。


けれど、迷いなく差し出されている。


光太郎は、その手を取った。


温かかった。


「村へ来る?」


「いいのか?」


「怪我の手当てをしないと。放っておいたら、本当に死ぬかもしれない」


「助け方が直接的だな」


「薬代は、働いて返してもらうから」


「異世界一日目から借金か」


「イセカイ?」


「こっちの話」


ユリアに引かれて立ち上がる。


分からないことばかりだった。


なぜ、この世界に来たのか。


なぜ、AIが頭の中にいるのか。


元の世界へ帰れるのか。


答えは一つもない。


それでも。


少なくとも、一人ではなくなった。


ユリアが森の出口へ向かって歩き出す。


光太郎も、その背中を追った。


三十日後、村は消える

その時。


頭の中で、鋭い警告音が鳴った。


《周辺情報の解析を完了》

《居住地を確認》

《人口、百三十七名》


光太郎は足を止めた。


(何だ?)


《食料備蓄》

《水源》

《耕作地》

《外部勢力》

《複数の危険因子を検出》


青白い文字が、視界へ次々と浮かぶ。


《村落存続予測を実行》


「コータロー?」


先を歩いていたユリアが振り返った。


「どうしたの?」


光太郎は答えられなかった。


最後の文字が、夜の森へ浮かび上がる。


《警告》

《この村は三十日以内に消滅します》


百三十七人。


ただの数字ではない。


一人一人に名前があり、暮らしがある。


そして、ユリアの帰る場所だ。


「三十日……」


光太郎が呟く。


ユリアの表情が変わった。


「何が三十日なの?」


光太郎は彼女を見た。


出会ったばかりの少女。


自分を見捨てず、命を救ってくれた少女。


その故郷が消える。


「ユリア」


「何?」


光太郎は息を吸った。


だが、続く言葉を口にできなかった。


《叡智の書庫》が、新たな情報を表示したからだ。


《消滅原因》

《解析不能》

《ただし》

《対象村落への外部観測を検知》


森の奥。


誰もいないはずの闇で、青白い光が一度だけ瞬いた。


まるで目のように。


こちらを見ている何かのように。


《観測者》

《識別不能》


そして。


聞いたことのない男の声が、光太郎の頭の中で笑った。


「ようやく見つけた」


光太郎は闇を見つめる。


「誰だ」


返事はない。


代わりに、冷たい一文だけが残された。


《観測対象として、神谷光太郎を登録しました》


その夜。


異世界でAIだけを与えられた青年は、まだ知らなかった。


村を救うために使った知識が、やがて国を変え、戦争を生み出すことを。


そして最後には。


人間から、未来を選ぶ自由さえ奪いかけることを。


第1話 プロローグ 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。