第2話「海の町」
小さな駅を出ると、潮の匂いがした。
風が少し冷たい。
駅前の道をまっすぐ歩くと、すぐに海が見えた。
広い。
どこまでも青い。
僕は思わず立ち止まった。
今まで何度もテレビで見てきた海。
でも、こうして一人で見るのは初めてだった。
「……すごいな。」
小さくつぶやいた。
波の音だけが聞こえる。
海沿いの道を歩いていると、小さな食堂を見つけた。
木の看板に書かれていた。
「みなと食堂」
お腹が空いていた僕は、中に入った。
「いらっしゃい!」
元気な声がした。
中にいたのは、40代くらいの男の人だった。
「一人?」
「はい。」
「旅行?」
「まあ……そんな感じです。」
僕は席に座った。
壁には漁船の写真や、古いポスターが貼ってある。
「何にする?」
「おすすめで。」
そう言うと、店の人は笑った。
「いいね。旅人って感じだ。」
しばらくすると、料理が出てきた。
焼き魚。
味噌汁。
ご飯。
すごく普通の定食。
でも、すごく美味しかった。
「うまい……」
思わず声が出た。
店の人が笑う。
「そりゃそうだ。今朝とれた魚だからな。」
食べ終わる頃、店の人が聞いてきた。
「どこから来たの?」
僕は少し考えた。
「……北の方です。」
「へぇ。で、どこまで行くんだ?」
その質問に、僕は答えられなかった。
どこまで。
そう聞かれると、分からない。
だって僕は――
死ぬまで旅するつもりだから。
少し沈黙が流れた。
店の人はそれ以上聞かなかった。
「まあ、ゆっくりしてけ。」
そう言った。
店を出たあと、海の防波堤に座った。
波が静かに動いている。
僕は思った。
この町の人は、僕のことを知らない。
僕がもうすぐ死ぬことも知らない。
それでも、優しくしてくれる。
それが少し不思議だった。
「兄ちゃん。」
後ろから声がした。
振り返ると、さっきの食堂の人だった。
「これ。」
紙袋を渡された。
「え?」
「弁当。」
袋の中には、おにぎりが入っていた。
「旅人だろ?夜用。」
僕は少し驚いた。
「いいんですか?」
「いいんだよ。」
男の人は笑った。
「若いやつが旅してるの、嫌いじゃない。」
その人は帰りながら言った。
「日本は広いぞ。」
そして少し振り返って。
「いいもん見ろよ。」
僕は海を見た。
風が強くなってきた。
でも、少しだけ心が温かかった。
知らない町。
知らない人。
それでも――
優しい人は、どこにでもいるのかもしれない。
僕の旅は続く。
まだ、始まったばかりだ。
でもきっと、この旅で僕は――
いろんな日本を見ることになる。




