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事故物件404号室  作者: ゆずさくら


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3/3

噂と噂

 ヒナが、朔夜を見たと言ってから数日が経った。

 学校では、妙な噂が持ち上がっていた。

 それはヒナに関しての噂だった。

『嘘つき』

『朔夜のことなんてよく知らないくせに』

『男子と会話したいがためらしいよ』

『すごくヤな奴』

 ノリが強く否定したおかげで、クラス内でヒナに悪口を言うものはいなかったが、ヒナを相手にする者もいなくなっていた。

 ヒナを庇うノリも無視が始まる。

 ノリが言って、レンも『学校内では』話しかけてこなくなった。

 このままの状態が続いたら、ヒナの心が保てない。

 その日もノリがヒナを家まで送っていくと、家の前で言った。

「私、これからどうしたらいいの」

「……確かめよう」

「えっ?」

 ヒナが聞こえなかったような顔で、ノリのことを覗き込む。

「朔夜が今どこにいるのか。どうして戦闘服を着た連中に運ばれたのか。朔夜が今動画を配信できない理由の何もかも。真実を調べればわかってくれるよ」

「そんなこと」

「出来るよ。俺たちはまだ中学生だからな!」

 ノリは胸を張った。

「わけわかんない」

「中学生は未成年。少年法で守られてる。コンプラでガチガチの社会で一番立場が強いんだから!」

 ヒナは笑った。

「ノリはノリだけで生きてるって、誰か言ってた」

「マジだから。明日からみとけよ」

 ノリは手を振って帰って行った。


 翌日。

 ノリはレンにも声をかけて、放課後、ヒナの家に集まった。

 リビングのテーブルを囲うように三人が座った。

「あー、眠いぜ」

 ヒナが笑いながら言う。

「授業中寝てたくせに、まだ眠いの?」

「夜中調べ物してたからな。だが、それだけの価値はあったぜ」

 ノリがそう言って、タブレットを操作する。

「この動画チャンネルだ」

「『社会の裏、教えます』って? なんだこれ」

 レンは何か疑わしいと言う顔をする。

「これを見まくったら、ちょっとしたヒントを掴んだ」

 ノリはタブレットを操作すると同チャンネルの中の一本の動画を見せた。

 二人はそれを見ても、首を傾げるだけだった。

「ビルの監視カメラを覗きみる方法を教えていたんだよ」

「全然わからなかった」

「それがどうしたんだ?」

 ノリはタブレットを自分の方へ引っ張ると、接続していたキーボードで何か入力した。

 そして、再び二人にも見えるようにタブレットをテーブルの真ん中に置く。

 タブレットには駐車場らしき映像が映っている。

「あっ、ここ、お母さんの誕生日祝いの時に止めた駐車場!」

「そう。ここからその時の映像を見てみれば良いのさ。そして連れて行かれたのが『朔夜(さくや)』だって分かれば、ヒナを嘘つきと言った奴に反論できる」

「みようみよう!」

 ノリがレンとヒナのタブレットにも同じ操作をして、映っていそうな監視カメラ映像を見た。

「あっ、これ私!」

 しばらく、三人は黙って映像を見ていた。

 ヒナは自分が監視カメラに映っていたことを見つけ、喜んだ。

「そうじゃなくて、朔夜が倒れて、連れ去られるところを探すんだ」

「わかってるよぉ」

 すると、レンが映像を見つけた。

「あっ、この半袖男がサクヤじゃね」

 二人はレンの背後に集まった。

 映像に映るサクヤの姿は小さすぎ、腕のサクランボの刺青まで確認できない。

 レンはピンチアウトするが、映像が拡大できない。

「こういう時はだな」

 動画ファイルをどこか別のサイトに飛ばし、精細な静止画を取り出した。

 それをピンチアウトしていくと……

「サクランボの刺青」

「横顔だけど、確かにこれ朔夜だよ」

 二人はノリの顔を振り返った。

「なんでこんなに綺麗な映像になるの?」

「それはだな…… AIが解析をやってるんだ。細かい理屈はわかんない。けど、動画の情報で、一枚の精細な静止画くらいの情報はあるってことらしい」

 なんとなく、二人は納得した。

「だけどこれだけじゃダメだ。ヘルメットの男たちの映像を探して、連れ去ったことをはっきりさせないと」

 三人は再び自分のタブレットを操作して、黙々と監視カメラ映像を探した。

 時にAIなどに渡し、解析を加えた。

 一時間、二時間と時間が経っても、結果は変わらなかった。

「なんだろう」

「親が帰ってきちゃうよ」

「……今日、配信がある」

 二人はノリの顔をみる。

「それが?」

「何かおかしい。皆んな気づいているかわからないけど、ヒナが映っている映像以外、その問題の時刻の映像が記録されてない」

 二人は再び時刻に注意しながら、映像を追っていく。

 確かに時間の進み方が不自然だった。

 特定のコマが抜けているのだ。

「動きがある映像だけを記録してる…… ってわけでもないな」

「今日。このシャカウラ・チャンネルの配信者に直接聞いてみようと思う」

 ヒナは親と話して、レンとノリと自分の部屋で食事をとる許可をもらった。

 三人はコンビニに行ってご飯を買ってきた。

「なんか合宿みたい」

 レンは「そうだな」と言ったが、ノリは黙っていた。

 ヒナの部屋に入り小さいテーブルの上で食事を済ませると、ヒナのベットに背中を預けて三人が並んで座った。

 真ん中のノリが、タブレットで『社会の裏、教えます』を開く。

「始まるぞ」

 配信者がカメラを覗き込む。

 クセ毛の前髪がたれ、右目は完全に隠れている。

 細い、神経質そうな顎が、震えるように喋り出す。

 その配信者は、現在の配信接続数を読み上げる。

 同接は五十もいかない。

 ノリはコメントを入れる。何度も、何度も、同じものを。

「生で配信してんだぞ、邪魔なコメント繰り返すなら……」

 ノリがすぐに別のコメントを入れる。

「助けてだって? ちょっと待ってろ」

 ノリのタブレットに、配信者から直接接続の要求が届く。

 ノリは接続を許可して、話す。

「カゲトキさん! 俺、友達を助けたいんだ」

「時間がないんだ、俺がやれることを知ってて言ってんだろ。何を調べて欲しい?」

 ノリは今日必死に探した商業ビルの監視カメラ映像の話をする。

「ああ、聞いたことがある。国内の監視カメラや録画装置、再生装置は特定の映像を再生できないようになってるって」

「そんなことできるの?」

「お前ら、コピー機にお札を置いてコピーしようとしたことあるか? ねぇだろう。あんな感じだ。同じように『権力者が』再生させたくねぇ映像を飛ばす処理が入ってんだよ」

 カゲトキは映像の向こうで、何かカメラとは違う方向を向いた別のノートPCに向かって、何かキーを叩き、パッドの上に指を滑らせる。

「ほらよ」

 カゲトキの顔が隠れ、中央に映像が浮かび上がる。

「えっ? これは……」

 ノリの左腕に、ヒナがしがみついてきた。

「ヒナ?」

「これよ、地下駐車場で走っていた車」

「カゲトキさん、これは?」

 映像が、小さくなって隅に止まる。

 カゲトキが言う。

「大勢のスマホで撮りまくるから、処理しきれない断片のような画像があるのさ。それを集めて輪郭に仕立て上げた。紙に絵を描くのが上手なやつは、こんなふうに描く」

 別の映像が配信画面を覆う。

 イラストレーターが書いたような緻密な絵。

 外形はさっきのツギハギだらけの映像と同じ。

「これです!」

 タブレットからも声が漏れてくるが、ノリの声と同様、それはランダムな加工がされていた。

「なんだ、やっぱり、これを見たのか」

 また映像が隅に向かって小さくなり、カゲトキの顔が大写しになる。

「今日は別のネタを配信するつもりだったんだがな。いいだろう、少し話そう。その日、この装甲車が走りまわっている情報はあって、俺も掴んでいた。この装甲車、ダークグリーンのヘルメットをつけた戦闘服の男」

 ヒナは手で口を押さえている。

「目撃情報は沢山ある。だが、こいつらが何をする連中なのか、これがいつまで経っても流れてこねぇ。もしかして、なんか見てねぇか?」

 ヒナが恐る恐る口から手を離し、タブレットに顔を寄せる。

「大丈夫、IPも特定されねぇ」

「朔夜を運んだ」

 タブレットからは『朔夜』と言う音は出てこない。カゲトキが反応する。

 ノリのタブレットには直接(ダイレクト)メッセージが入ってくる。

『切るなよ』

 配信画面のカゲトキは言う。

「ちょっとこれ以上放送できねぇ。視聴者への配信はこれで終わりだ」

 同接数が『1』になる。

「これ、俺だけが繋がってるってこと?」

「そうだ。装甲車を見たってやつはそこにいるのか。話がしたい」

 ヒナが返事をする。

「確かに監視カメラに『朔夜』のような人物は映っていた。だが、そこまでだった。ダークグリーンのヘルメットを被った連中も見たんだな?」

「ええ、銃のようなものを取り出して」

「……関わるな。危険だから、これ以上社会の裏に顔を突っ込むな」

 ノリは怒った。

 信じていた人が、急に敵に回ったような気がした。

「裏切りかよ! 助けてくれって、言ったよな?」

「……お前らが危険になるぞ」

「いい。どうせ少年法で減刑されるんだから」

 カゲトキは額に手を当てる。

「しかも未成年か。なおさら気が進まねぇ……」

「やり切る。やり切るって決めたんだ。イジメに立ち向かうんだ」

 カゲトキはカメラを見つめる。

「わかった。お前たちにできそうなことを頼もう。このダークグリーンのヘルメットをつけた連中には関わるなよ」

「ありがとう!!! チャネル登録するよ!」

「……まだしてなかったのかよ」




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