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7/7

6/〃、姉も襲来

評価と感想をおまちしまっちんぐ


 一日の終礼が終わり。


「………………」


 がたがたと椅子の擦れる音とクラスメイト達の朗らかな談笑の騒音の中、俺は酷く疲労感に満ちた身体を引きずって教室を後にする。

 入学式、もとい学校が始まる一日というのはこれほどまでに疲れるものだったろうか。

 前髪にかかる金髪を掻き上げて、強張った目頭を揉んで解す。肩に掛けるバッグも心なしか初日だというのに重い。無事に帰れるかも不安になる中、昇降口へと向かう。


「佐藤君」


「……卯月さん」


 後ろから声を掛けられ、足を止めて振り返れば其処には未だ見慣れない銀髪ピアスの綺麗な女子生徒……卯月さんがスクールバックを肩に掛け、能面を張り付けたままの表情で悠然と此方へ向かってくる。

 

「帰るの?」


「うん、もう今日はへとへとだから。卯月さんは?」


「私も。……今日はもう、スイッチが切れそう」


「別に無表情でずっと居る必要は無いと思うけど」


「キャラが崩れたらただの陰キャな私が出て来ちゃうんですけど」


「ギャップで友達出来るんじゃない?」


「それで出来たら苦労しないね」


 示し合わせるでもなく二人で足並みを合わせて歩き始める。

 今頃教室では、皆仲良く交流をしている頃だろうか。もしかしたら、皆で何処かに出かける予定を立てているのかもしれない。

 ファミレスか、はたまたカラオケか。陽キャの考える事を俺如きが予想出来る筈も無く、ひょっとしたら海にでも行ってしまうのかもしれない。彼らの行動範囲とは広すぎるもので、予定が未定の状態で全て物事を円滑に進める事が出来るのだから凄いものだ。


「卯月さんはもうそのまま帰るの?」


「うん。折角だから寄り道しようかと考えたけど、特に思いつかなかったし」


「そっか。じゃあ俺もそうしよっかな」


「?何処か行こうとしてたの?」


「いや、高校の周りを少し見て回ろうか考えてただけ」


「……確かに、高校の周りに何があるか把握してないかも」


 うん、と卯月さんは一つ頷いて。


「佐藤君、そしたら私と見て回ろうよ」


「え」


「あ、ごめんなさい私とじゃ嫌だよねすいません忘れて下さい」


「いやちが、驚いただけだって」


 恐ろしく速いネガティブキャンセルに面食らいながら、慌てて手を振る。

 

「卯月さんが良かったら、是非一緒に回ろうよ」


「ほんと?私を哀れに思って付き合ってくれるの?」


「なんで卯月さんはネガティブから入るんだ」


「だって、銀髪に染めてもピアスを開けてもクールぶっても。中身はクソ雑魚ナメクジな陰キャですし………」


「その言葉俺にも刺さるんだけど」


「佐藤君は人と話せるし、初日なのに部活勧誘を先輩に任せられてるし、なんか凄いお姉さん居るし。私なんかとは全然違うよ……」


「周りはあんまり関係ないと思うんだけど……」


 あれはあの人達が勝手に凄いだけだし、部活勧誘に関してはただ押し付けられただけだし。

 無表情のまま目を死なせていく卯月さんを前にどうしようか、と頬を掻いている内に昇降口へと辿り着く。俺が言葉を詰まらせている内に二人とも上履きを外履きへ履き替えて、玄関を出るところまで来た。

 と、一足玄関を跨いだ瞬間。


「晴斗」


「え──────うわ」


「だーれだ」


 目を塞がれた。混乱し、真っ暗になった世界のまま目元を覆った手を掴む。

 名前を呼ばれた声は女の声で、何処かで聞いた事のある声音。なんなら今日も聴いたような気もする声だ。

 掴んだ手首は細く、ちゃらりと太いチェーンブレスレットが指に触れる。


「誰………………ああいや、なんだ姉さんか」


「正解」


 パッと視界が開け、ちかりと目の前が明るくなる。

 唐突なクイズに溜息を吐きながら振り返れば、俺を驚かせた人は部活動紹介で体育館を沸かせたプラチナブロンドのウルフの女子生徒その人だった。

 ギターケースを担ぎ、毛先を垂らして気だるげな顔をして丸のサインをしている彼女が先に居るという事は、終礼が終わってすぐ出た俺よりももっと早く出てきたのだろうか。


「何で待ち伏せしてるの」


「可愛い弟を出迎えて、折角だから一緒に帰ろうかと思って」


「その為に早く出たの?部活は?」


「どうせ新入生が死ぬほど来るから他の奴に任せて来た」


「文化部とかも最初から部活動見学していいんだっけ」


「希望があれば。私モテるから、初日から結構来ると思って」


「自信過剰な事で」


「ふふん」


 ブイサインを返される。そうですね、姉さんは男女どっちからもモテるもんね。


「どうだった?姉の雄姿は」


「相変わらず凄いと思ったよ」


「前よりもっと、が正しい」


「はいはい成長してましたね凄い凄い」


「そうだろうとも」


「後の吹奏楽部の人がぼやいてなければ物凄く褒めたんだけどね」


「?何か言ってた?」


「トリじゃないのに盛り上げすぎ、みたいな」


「同じくらい盛り上げる内容で締め括ればいいだけじゃん」


「軽音楽部と吹奏楽部は盛り上げ方が違うじゃん。多分温度感の話じゃない?」


「知らない。私の歌を聴く以上は盛り上げないとか無いし」


「……吹奏楽部の人と仲悪いとかある?」


「目の敵にはされてる気がする」


「………巻き込まないでよ」


「何に?」


「何かに」


 それはあっち次第。と切り捨てた姉さんは、早く帰ろと俺の手を握ってそのまま手を引いてくるのを、きゅっと引っ張って止める。

 視線を卯月さんへ向ければ、ふっと気配を消すように空気になっていた。

 そんな知らない人が居るからって忍者みたいな事しないで欲しいな。


「姉さん、ちょっと待って。今日は友達と一緒に帰ろうと思ってて」


「………………友達?」


 ぴた、と止まって姉さんは俺の隣に居る銀髪ピアスの卯月さんへと視線を向ける。

 首を傾げ、じーっと卯月さんを見つめ、また首を傾げた。

 彼女と俺とを視線を往復させ、やっぱり首を傾げて。


「………………お姉ちゃんが好きだから、こういう女の子の友達作ったの?」


「色々と違う」


 確かに派手髪とピアスという共通点はあるが。


「中学のクラスメイトの卯月陽菜さん。ほら、軽く前に話したでしょ?」


「………ああ、晴斗が髪を染めるきっかけになった子?」


「うん、まあそう」


「へえ……」


 ぽんと手を叩いて思い出したかと思えば、じーっと卯月さんの事を覗き込むように見つめる。見つめられる卯月さんは、居心地が悪そうに身を捩り、その鉄面皮を崩さないようにすっと目を細める。

 傍から見ればまるでメンチを切り合っているようなガラの悪い光景だが、内情は興味津々で見ているのに対してポーカーフェイスを保とうとしているだけのものだが。

 思わず周囲を見回してしまうが、まだ他の生徒は下りてきていないようで人気が無い。幸運だ。


「ああ、翠理みたいなタイプね」


「部分的にそうかも」


「へえ。じゃあ面白い子だ」


「面白いのベクトルは違うと思うけど、そうだね。卯月さんは面白い人だよ」


「……喜んでいい奴ですか?」


「うん」


「全然」


「どっちを信じればいいの……」


「私」


 姉さんはす、と手を出して。


「佐藤 安曇。軽音部のギタボでリーダーやってる。あと晴斗のお姉ちゃん。宜しくね」


「……卯月 陽菜です。佐藤君のクラスメイトで、その、宜しくお願いします」


「うん、宜しく」


 優しく握手。かと思えばぶんぶんと振り回される腕に驚いたのか、卯月さんの目がぱちくりとする。


「あの、何て呼べば」


「お姉ちゃんでもあづみんでも、何でもいいよ」


「……安曇さん、で」


「つれない女は好きだよ」


 ぱ、と手を離して気怠げな表情のままの姉さんに卯月さんは呆然としながら、握られた手を見つめる。


「……初めて握手したかも」


「まじ?私初めての女なんだ」


「……はい、初めての女です」


「へえ、だったら気分いいね」


「こんなにいいものなんですね」


「そりゃあ、相手が私だからね」


「そうなんですね」


 ……ぼちぼち昇降口を介して帰る生徒が出てきた頃、通り様にそんな会話にぎょっとする人が何人か現れてくる。もしかしなくてもストッパーは俺だろうか。

 我が姉は気怠げなフェイスだが、コミュニケーション能力においては非常に優秀だ。マイペースと思われがちだが、キャッチボールは的確かつちょっと変な人間はおもしれーと評するので話題をポンポンと出す。

 のんびりと会話が続くと、永遠に話し続けてしまう魔の姉に引き摺り込まれている卯月さんをどうにか引っ張る。


「姉さん、そろそろ」


「ん、そっか。二人で帰るんだもんね」


「はい」


「二人とも気をつけてね。この辺って熊とかヤンキーとかやべー奴とかそこそこ居るから」


「……そうなんですか?」


「姉さん騙そうとしないで」


「あはは、本当だよ」


「本当なんだ……」


「姉さんの言う事は半分くらい適当だからね卯月さん」


「私の弟は姉に対して酷い言い草だな?」


「だって本当の事……んぐ」


「悪い事を言うのはこの口だね」

 

 俺の頬を指で挟んで弄ぶ姉さんに俺はタップして、意外とすぐ解放された口でばっと空気を吸う。

 いつまでも俺を子供扱いするのはこの姉の悪いところだ。

 姉とはこうも小さい子のように悪戯をするものか。いつかわからせよう。


「……ま、じゃあお姉さんはこの辺でお暇するよ。またお話ししようねひなっち」


「ひ、ひなっち?」


 昇降口が先程よりも人が増えてきた辺りで、姉さんはギターを担ぎ直して校門の方へと歩き始めた。手をひらひらとさせながら、卯月さんに渾名を名付けて遠のいていく。


「んじゃねー。弟もまたねー」


「またね姉さん」


「……はっ。あ、ま、またねです」


 そうしてゆったりとした歩きで帰っていく姉さんを見送って、隣でほわーとした顔の卯月さんに目を向ける。


「……どうしたの卯月さん」


「…………渾名も、初めて貰った」


「……良かったね」


「……うん」


 先輩曰く、俺の姉はよく人の心を奪うらしい。生粋のモテ女だそう。

 無表情を崩して、微かに微笑む卯月さんは渾名と握手という初めてを体験できて嬉しそうだった。

 ……俺も渾名で呼ぶべきだろうか。


「じゃ、行こうかひなっち」


「…………そうだね、は、はるっち」


「……無理しなくていいよ」


 どうやら合わせてくれたらしい。なんだかやりづらいので元の呼び方でいいだろう。

 ともあれ台風のような姉が通り過ぎて、俺と卯月さんは歩き始めて学校周りの散策する事となった。

 程々に栄えている街である為、見るものには困らなさそうだし、うっかり寄り道をする時に良さげなものがあるといいが。そう歩き始めて────────





「ねえ、君一人?」


「今一人ならさ、俺たちと遊ぼうよ」


「頼むよ」


「………………ひぇ」





 ──────────寄り道にしては大分ハードなものに行き着いた時、俺はうっかり気を失いそうになってしまった。




 


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