5/〃、部活動のお時間
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ざわざわ、と体育館内に響く生徒達の喧騒の中。
「ああ、お姉さんの友達だったんだ」
「うん」
「てっきり知らぬ間に佐藤君がクール系美少女とフラグを立ててるものだと……」
「無いからそんなの」
「でも昔馴染みのお姉さんなんでしょ?わんちゃん?」
「野次馬精神は捨ててね浅海さ、……透子」
友達とのお弁当イベント、もとい昼休みを無事に乗り越えたらしい卯月さんは戻ってきた俺を見るなり安全圏だと言わんばかりに隣に張り付いてきた。
昼休みを終え、午後からの部活動紹介の時間。クラスごとではあるものの、多少自由に座る事が許されているこの時間では、友達同士で固まって座るのもありらしく、俺と卯月さんに加えて浅海さんと水無月さんは前後四人で固まって待ち時間の間話していた。
正確には部活動紹介自体は進行しているものの、進行役の生徒がノリノリで明るい声音でマイクを握っている為、体育館内では雑談も程々に飛び交う緩い雰囲気が漂っている。
「で、写真部を集めなきゃいけないって訳?」
「今は先輩一人だから、あと四人は欲しいってさ」
「ふーん……私は美術部入るけど、兼任出来るなら名前は貸すけど」
「マジですか浅海さん」
「いい加減名前呼びに慣れてくれるなら貸してあげる」
「…………努力するよ、透子」
「ん」
前の席の浅海さんが眩しく見える。良い人だ。
「秋霖は?」
「私は……部活動紹介見てみてからかな。ごめんね」
「いや、なにも今日で決めろって話じゃないし。他に入りたい部活があったらそっちに入ってね」
「…………はいっ」
「会話くらいなら出来るようになったね、えらいね秋霖」
「え、えへへ、でしょぉ?」
「目がこんなに合わない会話は初めてなんけどね」
「そっ、そこは追々……」
水無月さんは部活に入るかすらも決めかねている様子だ。この高校は部活は強制でない為、希望者が入る形である為俺の勧誘も強制力などは無い。
個人的には、最初に交流が出来た水無月さんも入ってくれれば部活内でもコミュニケーションは円滑であるし、何より。
ちらり、と隣の卯月さんに目を向ける。
「……私は入るよ?」
「入るんだ」
「正確には入れさせて下さい」
「……何部に入りたいとかないの卯月さん」
「私が見知らぬ人間しか居ないコミュニティに属する事が出来ると思う……?」
「高校デビューって言ってたし、気合いで頑張るのかと」
「……まあ、その、まあ……段階を踏んでまあそれは段々と階段を登らせてください……」
「そうだね、一旦写真部に入って人に慣れたら違う部活に行ってみようね」
「し、島流しですか……??」
「言い方。人と話せるようになりたいとか言ってたじゃん」
「それはそれ。私とて陰の者なので、その、うっかり死なないようにして頂けると……」
「頑張ろうね」
「……がんばります」
俺が写真部に入る以上、卯月さんも釣れて入部する事になるのは何となく分かっていた。
既知の仲である人間が居るコミュニティであれば、知らない人間が居てもどうにかなるとは姉の談だ。とはいえ友達の友達は他人である、故に本人の努力次第である。
今日のようなお弁当を食べる時間のようになってしまった時の身の振り方は当人がどうするか決めなければいけないそう。
入りは易しく、そこから友人を作ったり交友を深めるのは本人次第。ノリで部活とかに入るとそうなるよ、とにこにこで教えてくれたのを思い出す。ある意味イージーモードだが、友達が抜けた後の関係値が築かれていない人間との空間は気まずさ的にはハードモードらしい。
ともあれ。これで部員数は翠理ちゃんもとい先輩を含めて四人は確保できた訳だ。
水無月さんは未確定だが、もし入ってくれたら五人になりあっという間に条件は達成できる。もしそうなれば、俺が見知らぬ人間に交流を仕掛けに行く必要も無い為、可能であればこの三人には無事に写真部に入部して貰えたらとは思うが。
吐息を一つ吐いて。正面に目線を向ければ、司会進行がひと段落して部活動の紹介が始まるらしい。
『それでは、早速始めていきます!運動部からーっ!』
「「「よろしくおねがいしぁーっす!!!!」」」
声がデカい。
俺達は話を止めて、その大声に釣られるようにステージ上でパフォーマンスを行い始める部活動の動きに目を、マイクに乗って届く活動内容に耳を傾けた。
サッカー部に始まり、バスケ部、バレー部、陸上部……運動部は普段行っているアップの動きなどを実践しながらそのフィジカルを見せつけ、時折コミカルな芝居を打ちながら朗らかに紹介していく。
「……佐藤君はバレー部は入らないの?」
「迷ってたけど辞めた」
「何で?」
「陽キャしかいない」
「ああ……」
途中、ぽそりと囁かれる質問に小声で返せば、納得したように頷かれる。短髪高身長爽やか男子しかいないバレー部に俺なんかが入るのは場違いであり、入ったとしても追いつけないだろう。色々と。
「卯月さんこそ、運動部とかに入れば青春ぽい事できるんじゃない?」
「まず運動が苦手すぎるんですけど」
「鍛えれば行けるよ」
「そんな脳筋な思考持ち合わせてないよ」
「写真部の次はバレー部とかいいんじゃない?」
「ほんとうにむり」
目が死んでいる。体育会系のノリとかそう言ったものに対して拒否感を示しているのだろうか。
「そもそも知らない人間で既に出来上がっているコミュニティに入るというのが無理だよ」
「高校生活なんてそんなもんばっかりだと思うけど」
「高校生難しい」
「一応、友達を作ると青春を過ごすっていう点では運動部に入って頑張るが正解の一つではあるよ」
「別解を求めます」
青春ドリルの答えに書いてあるといいね。別解答。
俺は月並みの知識と意見しか言えないので、肩を竦めるだけにして部活動紹介に視線を戻す。部門は運動部から文化部へ。今は茶道部だろうか、和服を着て穏やかに活動内容について話している。
…………運動部に比べてアピール面で行える事は少ない為、基本はトークのみでの勧誘になるようだった。それこそアピールできるのは、楽器を扱う吹奏楽部や軽音学部辺りだろうか。
茶道部から始まり、美術部や書道部、演劇部などと紹介が続いて暫くして。司会進行役の生徒が、写真部の出番をマイクに乗せ、傍に控えていた見覚えのある女子生徒がステージを向かうのが見えた。
「……あ、昼休みの」
「あれが先輩?」
「綺麗な人だねー」
「………………そうだね」
「なんで間が?」
「なんでもない」
「……確かに中学で見た事あるかも。図書委員の先輩だよね」
「そう。卯月さんとはあんまり接点無いかもだけど」
かつかつとステージに登るのは、ガワはクールで綺麗でお姉さんな俺のよく知る昔馴染みの皐月翠理である。中身はただの残念なヲタクなだけである。
しかしそんな事を露知らず、新入生達は美少女が現れた事に感嘆の息を吐く。俺も中身さえ知らなければ綺麗な人だな、と感じる思考は流れていただろう。
いやほんと。見た目は本当に綺麗なんだけど。
『写真部です』
声音も凛としていて、視線は正面を。堂々とした態度でマイクに声が乗る。
このまま何事もなく紹介をすれば、綺麗な先輩目当てで入部する新入生も幾らか期待出来るだろう。下心ありきとは言え、部員は部員だ。廃部の条件からは脱する事が可能だ。
加えて、もしロールプレイが興じて変な事さえ口走らなければ。俺は、ただ綺麗な先輩と一緒の部活というレッテルのみで済む。
だから、どうか無事に何事も無く──────
『───────ただの人間には興味ありません』
「……………………」
ああ終わったんだ俺の写真部活動。
『宇宙人、未来人、超能力者が来たら我が部へ。以上』
短く切り上げて、かつかつと冷然とした態度のままステージを降りる翠理ちゃんに俺は声も出せないまま頭を抱えて、そのまま倒れてしまいそうになるのを抑える。ざわりと謎の部活動紹介に一瞬ざわめくが、司会進行はユニークでしたねー!と切り替えて次の部活の紹介に移る。
その間も、俺の身の内によだつのは共感性羞恥か、はたまた絶望か。きっとそれ以外の形容出来ない感情も含めた何もかもだろうか。
水無月さんは何を言ったか分からなかったようで俺の方へ視線を向けて首を傾げる。そうだよね。わからなくていいよ。
「SOS団でも結成するの?」
「俺に聞かないでくれるかな」
浅海さんは理解したらしい。けれど、翠理ちゃんの奇行を見てその後輩である俺に揶揄うような目で絡みをするのはやめて欲しい。ほんとに。
「まあ怖い。そんなドスの効いた声だと、またヤンキーだと勘違いされちゃうんじゃない?」
「茶化さないで透子、俺は今冷静を欠こうとしている」
「……まあ、良かったんじゃない?先輩目的の不埒な新入生が入部する可能性が減ったんだから」
「部員は部員だからそれだけで廃部は回避できたじゃんか。何やってんだ先輩」
「未来人宇宙人超能力者を探してるんじゃない?」
「あの人はそんなオカルト研究部みたいな事しない」
「そ。……まあ、あれを見て入る人が現れるといいね」
居ないと思うけど。触らぬ神に祟り無しとは言うじゃないですか。
変な事を言う変な綺麗な先輩が居る部活に属する写真部のヤンキーみたいな奴、というレッテルを貼られる未来を想像して頭を痛くした。何故普通の綺麗な先輩でないのか、何故ごく普通の写真部として過ごさせようとしてくれないのか。
せめて顔に釣られて部員が集まってくれるといいけれど、と壇上を下りた先輩に目を向ければこちらに気付いたのか、彼女はばちこんとウインクを返してきた。してやった感を出しているのは何故なのか。
顔を顰めていると、その先輩とすれ違いざまに次の出番の部活の面々が壇上へ向かう。その際に、その部員と目が合い、思わず声が漏れる。
「あ」
「?どうしたの、佐藤君」
「いや、次軽音部なんだって」
「……本当だ、楽器のセッティングしてるね」
「だね」
ひら、と一瞬手を振られたのに俺も手を振り返せば、そのやり取りを見た卯月さんが首を傾げる。
「知り合い?」
「うん、まあ知り合い」
「そうなんだ。また中学の先輩?」
「ああ、先輩と言うか……」
ギターを担いで壇上に上り、スタンドマイクを握るのはプラチナブロンドをウルフヘアーに伸ばした女子生徒。
先輩と違った尖ったクールな印象に、新入生は無意識にぴりっとした空気感を漂わせる。あー、あーとマイクテストを行う後ろでアンプやドラムなど大きい物の運搬を数人が行いながら、その他メンバーと思われる生徒がチューニングをするようにばらばらと音を出し始める。
隣の生徒にギターを預け、そのウルフさんは咳払いの後に気だるげな声を出す。
『あー、軽音部です』
「……………俺の姉だね」
「……お姉さんっ?」
「えっ」
「佐藤君のお姉さんなの?」
驚いたように前の二人も振り向く。気のせいか、周りの生徒もまじ?みたいな感じで一瞬俺を見た気がした。
頷けば、壇上で時間を稼ぐようにだらりと話す派手髪バンドマンみたいな女子生徒、もとい姉と俺を見比べて、浅海さんと水無月さんは首を傾げる。
顔立ちは、全く似ていないだろう。今の共通点と言えば、金髪なところくらいだろうか。
『えーっとぉ、普段は好きな曲を弾いてまーす。あと。お菓子食べたりしてまーす』
「……にてる……ね?」
「全然似てないでしょ」
「そ、そんな事ないよっ?」
「いや、全然似てないのは分かってるから」
「……えっと、お姉さんが居たんだ。佐藤君って」
「うん。言ってなかったっけ」
「初耳。中学の人も知らなかったんじゃないかな」
「まあ、姉弟でも意外と学校では話さないから」
「そういうものなの?」
「そういうものだよ」
少なくとも我が家はそうである。
そう駄弁っている間に、部活紹介をだらりと話しながら姉さんのギターがじゃかじゃかと鳴り始める。セッティングが早々に落ち着いたのか、アンプから歪んだ音色が体育館の中に響き、ドラムとべースもそのギターの音響チェックを耳にしながら各々が一通りの音を鳴らし終える。
じゃが。ピックが弦を擦る音が生徒達の鼓膜を揺らす。
『で、まあそんな感じで』
ひとまず、一曲聞いてってください。
ゆったりとした声音から、一転鋭く。弾かれるのは、新入生の歓迎を示すように明るい音色のギターとベースと、軽やかに刻むドラム。聴く人は一度は聞いた事があるメジャーな春の楽曲。
イントロも程々に、爽やかで綺麗な歌声がマイクに乗る。それを耳にした生徒達の間で、先程との話声のギャップで驚きを隠せない反応がそこらに見える。
「……うま」
安定した演奏と突き抜けた声を聴いて、誰かが呟いた。
曰く、スリーピースバンド。三人以上部員自体はいるものの、この三人以外はお話にならないとは姉の談。故にそこそこ聞けるものにはなってるよ、とも姉の話。
そこそこどころか大分聴きごたえのある演奏だと思うのだが。
『────────────♪』
「「「────────────!」」」
何せ新入生達が思わず立ち上がり、手拍子までし始める程度には乗らせているのだから。
姉は主に音楽に関して程々に完璧主義が過ぎる。私生活はずぼらな癖に。
段々とボルテージの上がる演奏に、やたらと熱気の籠る体育館。まるで文化祭を思わせるような盛り上がりの中心に立つ姉の姿に、俺はやっぱり凄いなぁなんて小さな感想を抱いて。
「……まーた軽音部凄いんだから」
「佐藤の奴、トリの私達の事考えてないよね」
「何で吹奏楽部より音圧出てるの?おかしくない?」
「またお通夜みたいな空気だよ」
「覚えとけよ佐藤……」
「………………」
盛り上がり切った場を渡される、次の出番であろう吹奏楽部の方々の死んだ目を俺は見ない振りをしながら心の中で十字を切った。トリみたいな顔しといて次があんのかよ。




