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2/〃、自己紹介と難題

連続投稿2です。

 四月八日の四限目。

 長い長い校長先生や来賓の方々や生徒会長のお話などを経て、三限目で教科書頒布・記名、その他書類配布と必要事項の連絡を終えた先の四限目。

 一年A組はクラスメイトとの交流として、オリエンテーションを行っていた。


「明杜中出身!君塚伊織です!好きなものはバスケで、高校でもバスケやります!宜しくお願いします!」


 一人目の自己紹介は教室左最前列の君塚君。教壇に立って大きな声でハキハキと話す彼は、人前に立つ事に慣れているようでシンプルで明快な自己紹介だった。

 ぱちぱち、とまだ遠慮気味の拍手が返ってくるがそれに対してどーもどーもと手をひらひらさせる彼には余裕が見える。

 次いで二人目が入れ替わりで教壇に上がっていくのを尻目に、俺は自己紹介の内容を考える。


「(卯月さんの言うには高校デビューに必要なのは初手の印象らしい。視覚情報、次に聴覚情報……メラビアンの法則だとかなんとかを当てにするらしいが)」


 しかし俺は初手ヤンキーと誤解されているせいで、それに関しては失敗している。故に次に当てになるのは聴覚情報、つまり声な訳だが。

 明るい声と大きい声で自己紹介。あとはなるべくシンプルに自分の事を話す。その点では君塚君はどちらもクリアしていて元気で明るいバスケ男子という印象を獲得している。

 では俺は、初手ヤンキーぽいが実は、というギャップか何かを狙わなければ好印象には繋がりづらいのではないだろうか。


「(ギャップ、ギャップってなんだ?)」


 つまりは反対のイメージを持つものが好き、という反転好印象の一撃をぶち込まなければいけない。

 ヤンキー、暴力的、怖い、というものに対して逆位置にあるもの。それを好きだと言うのが最適解であると俺は考える。

 普通に読書が好きとか、アニメが好きとかではヤンキーの印象を裏返す何かにはならない。では、どうするか。


「(ヤンキーの反対語とは……)」


「水無月秋霖、明杜中出身です」


 順々に自己紹介が進み、いよいよ俺の前の席まで来たところで教壇に立った女子の自己紹介が耳に入る。

 顔を見れば、朝方問いを投げた顔の赤い女子だった。……明杜中、君塚君と同じ中学出身か。

 黒髪ボブヘアーの彼女は緊張の見える顔で、まだ硬さの残る声で少し声を張って自己紹介をする。


「好きなものは、えっと、その、甘いもの、とかです」


 宜しくお願いします、とぺこり。少しずつ慣れてきたみんなも拍手が大きくなってきて、教壇から降りる水無月さんが安堵の息を吐いているのが見える。

 ……って、次は俺か。水無月さんが席に着いたのと入れ替わりで立ち上がり、教壇へ向かう。

 何でみんなシンプルに自己紹介なんて出来るんだ。あっという間に俺の番じゃないか。


「(なんて言おう)」


 頭の中をぐるぐるとさせながら教壇に立ち、周りを見渡せば視線が突き刺さるのを感じる。慣れない注目に思わず息が詰まり、助けを求めるように左から二列目の最後方の卯月さんに視線を投げる。

 彼女は俺の事を見ていて、ぐ、と応援してくれるように拳を握るポーズを見せた。

  ……息を吸って、吐いて。緊張をなるべく吐き出して、正面に向き直して口を開く。


「春照中から来ました、佐藤晴斗です」


 なんとか、声は出せた。


「中学ではバレーやってて、高校では何やるか決めてなくて」


 震えてはない。けれど、何を言うか定まってないから言葉が詰まりそうになる。


「えっと、あー、俺の好きなものは……」


 ……言いたい事、今は、ヤンキーじゃないアピール、ギャップ、ギャップ……。






 ふと、心の中でにゃあんと鳴き声が聞こえた。






「…………猫とか、好きです」


 何だそれ。脳裏には雨の中で捨て猫に傘を差すヤンキーの図が思い浮かんだ。

 宜しくお願いします、と一礼して教壇を降りればなんとか拍手は返ってきてくれて、僅かに滲んだ額の汗を拭う。

 最前列の君塚君がからかうように猫の手のジェスチャーをしてくるのを何とも言えない表情で見返して、席に戻る前に前の席の水無月さんと目が合う。


「(……そういや、なんでこの人顔赤くしてたんだろ)」


 緊張しやすい人なのかな。ぺこ、と頭を下げれば彼女も慌てたように頭を下げ返してくれる。

 あとで時間があったら聞いてみよう。思いながら席に着いて、人前に立つ緊張感から解放された事に改めて安堵の息を吐く。

 隣の卯月さんを見れば、俺に向けて笑顔でグッドサインを向けてくれていた。そうだよね俺頑張ったよね、安心から口元が緩み、卯月さんへ「がんばれ」と口パクで応援を返す。


「あっ」


 その口パクで次は自分の番なのを思い出した彼女は一瞬口元を引き攣らせ、すぐに戻って正面を向いたものの、指が忙しなくとんとんと迫り上がる緊張感を表すように暴れ始める。

 彼女はヤンキーという第一印象は無いものの、まだクラスメイトとの交流は君塚君と一言くらいしかしていない。

 バチバチの銀髪美少女、という第一印象からどう好転させるのか。メッセージでは高校デビュー確定!と息巻いていただけに期待が高まる。


「(きっと、さぞ完璧な自己紹介を──────)」





「春照中、卯月陽菜、ヨロシク」





「(─────────出来なかったかあ)」


 動揺などしていません、という顔で席に戻った直後机に顔を伏せる彼女はきっと死にたい気持ちなのだろう。

 予め自己紹介の内容も考えていただろうし、なにより容姿面に至っては大成功だ。この流れで何事もなく一日目は終われるだろうという慢心が、いざ人前に出た瞬間に崩れ落ちたのだろう。

 元々彼女は人見知りかつどもりがちだ。どもらずに三単語言えただけでも成長を感じられるが、クラスメイトにとっては至極端的で驚いてしまうような自己紹介に感じただろう。ざわ、としたような気がする。


「(卯月さん…………)」


「(しにたい)」


 目だけを覗かせてきた彼女の目は死んでいた。望んでいるのは死。頼むから死なないでくれ。

 ……だがしかし、これで二人とも自己紹介については終える事が出来た。教壇に立ったまま気絶をしたり、変な事を口走らないまま何とかする事が出来たのだ。

 こうした衆目のある場というのはいやに緊張感を得るもので、未だ慣れぬ視線を思い出して汗がじわりと湧いてくる。


 落ち着かせるように呼吸をして、残りのクラスメイト達の自己紹介を何となく聞いていく。

 勿論全員を覚えたい気持ちはあるが、如何せん顔と名前を一致して覚えるのが不得手なのが俺と卯月さんの辛いところだ。お互い人の事を覚えるのが苦手だ。

 今のところ、どうにか覚えているのは朝に話した君塚君と、俺の前の席の水無月秋霖さんと。


「(浅海さん、だっけ)」


 卯月さんの右斜め前の席の黒髪を綺麗に切り揃えた女子生徒。浅海……透子、だった気がする。

 美術部です宜しく、と卯月さんの直前に酷くシンプルな自己紹介をしたので覚えている。きっとその端的な自己紹介が卯月さんのペースを乱したのだろうが、彼女からすれば知った事では無いだろう。

 ……やけに髪を綺麗に綺麗に切り揃えているのは、性格が出ているのだろうか。そうぼんやりと眺めていれば。


「………………」


 ちら、と視線に気づいたらしい浅海さんと目が合う。

 見過ぎてしまったのだろうか。目礼をすれば、彼女はぱちと瞬きをして、ひらと手を振った。そのまま視線を前の自己紹介をしている生徒に戻し、何事も無かったかのように背筋を伸ばした。

 こうして不意に目が合うと気まずいものだと思っていたが、意外とそうでもなかった。何故だろうか。


 ふむ、と思考に走ろうかとした時に、先生が手をパンと叩く。


「はーい、お疲れみんなー」


 どうやらクラスメイトの自己紹介は全て終わったらしく、教壇には先生が立っていた。

 先生は間延びした声で「んーまだ十二時かー」と教室前方の黒板上に掛けられている時計を見ながら首を傾げ、考えるように頬をポリポリと掻く。

 視線は教室中を眺め、気のせいか俺と目を数秒合わせたような気がしたがすぐに視線は逸れ、小さな閃きの声と共にぽんと手を打った。


「そうだ、お前ら適当に話してていいぞ」


 一瞬思考が止まる。


「うん、これはレクリエーション。新入生同士の交流を深める為の時間を、昼休みを迎えるまで行う。いやー、いい閃きだ」


 つまりそれは、初対面の人間と仲良くなれと言っているのではないだろうか。

 ば、と隣を見れば卯月さんは白目を剥きかけていた。鉄面皮なのに。気絶しないで卯月さん。

 確かに新入生からすればクラスメイトと話す時間はあるだけある方がいいが。そんなに急では卯月さんが死んでしまう。


「全員入り乱れるのもアレだし、前後左右四人で一班。机を向かい合わせるのも良し、まあ声量に気を付けてくれ」


 じゃ、開始。そうぬるりと始まったレクリエーションの時間は、俺達の理解を待つ前に始まった。

 だが外交の得意な人間、主に君塚君などはやる気に満ち溢れたようで笑顔で早速立ち上がり机を向き合わせ、近くの生徒との交流を始めていた。

 他の生徒も続いてがらがらと机を向かい合わせ、既に会話を始めているものも多数の教室の中で、俺と卯月さん、その前の二人は視線を向かい合わせて硬直していた。


「……とりあえず、机合わせる?」


「そうね」


「で、ですねっ……」


「………………」


 女子三人は俺の言葉に頷いて、がらがらと机を合わせ始める。

 その間、もう一度卯月さんに目を向ければ白目を剥きかけていたのは治ったが口角がぴくぴくと震えていた。ポーカーフェイスが崩れるのも時間の問題だろうか。

 俺は、ぐるりと脳味噌を回して、この机を合わせ切る時間の間にどう場を乗り切るかと言うのを思考し、


「ん、じゃあ始めよっか」


 ……しようとしたところで、普通に机が合体してしまったので全てアドリブでこの昼休みまでの会話を乗り切らないといけなくなってしまった。

 隣には朝に何故か顔を赤くされた水無月さんと、左斜め前には自己紹介の間に目が合った浅海さん、そして正面には顔こそ平静なものの胸中は計り知れない卯月さん。

 ………………一体、どうなってしまうんだ………………。




俺は、唐突に難問をぶつけてきた先生に恨みを抱きながら、思わず天を仰いだ。まじでどうしよう。


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