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第十話「宝石」

崩れた柱、錆びた舗道。それでも花は花壇にだけ咲き、枠からはみ出さない。この場所には奇妙な非現実感が漂っている。傷だらけの箇所があってもなお。

まるで地球の豪邸に広がる巨大な庭園のようだ。金持ちたちがくつろぎ、お茶を飲みながら金持ちの話をしているような場所。




「…わあ、美しい」




他に言葉が見つからない。まるで童話からそのまま飛び出してきたような光景だ。

夜になればこの一帯は百倍は美しくなるだろう。月明かりに照らされたような、どこか幻想的な美しさがある。




「でも待って、今そんなこと言ってる場合じゃない」




周囲をもう一度見渡すと、今度はアイリスちゃんに完全に集中し、これからどうするか考えた。




「アイリスちゃん?どうやってここに来たんだ?」

「?ああ、実はキラキラ光るものを追いかけてたら、ここにたどり着いたの」

「…え?」




光る……何か?




「待って待って待って、つまり君はこの光る物体を追って、ぐるぐる回らずにここまで来たってこと?」

「??ぐるぐる?」

「……この森全体が、見えない迷路みたいな仕掛けになってて、間違った方向に進むと、ループの始まり地点に戻っちゃうんだ」

「???」




おいおい、アイリスちゃんが俺を怪訝そうに見てるぞ。まるで俺が変人みたいに。

まあ普段なら俺が頭おかしい奴だけど、今は違う!




「だからループしてることに気づかなかったの?」

「…ただ歩いてここに来ただけ」

「…」




マジかよ?!

じゃあ何だよ、俺がループするたびに前まで戻らなきゃいけなくて、まるでゴミを散らかすみたいに足跡を残す苦痛を背負わされてたのに、あの子はそんな問題なかったんだろ!!

ふぅ…本当に良かった。アイリスちゃんはなぜか楽な道を選んで、見えない迷路なんて気にしなくていいんだ。一方、思春期の脳みそを持った私はハードモードで遊ばなきゃいけなかったんだから。

この状況で最高の結果だよ。アイリスちゃんが私の経験した苦しみを味わうことになったら最悪だった。

とはいえ、これで私が悔しい思いをしなくなるわけじゃないけどね。




「でも…アイリスちゃん、変な光るものを追いかけてここに来たの?」

「うん」




アイリスちゃんがうなずくってことは…

これはおかしい。

もちろん、こんな辺鄙な場所に迷宮があること自体が十分怪しいのに、さらに変な光の玉がアイリスちゃんを誘導してここまで来させたって?

あの光る玉、俺にも一つくれよ!あれがあったら便利だったのに!




「で、今どこにあるの?光る丸い球体、どこにも見当たらないんだけど」

「…あの中にいる」

「?」




アイリスちゃんの指さす先を見ると、そこには…噴水?

ここにあるもの全てと同じく、自然はとっくに人間に勝っているのに、それでも頂上の奇妙なミニチュア像から水が噴き出している。壊れすぎて水が漏れるほどでもない。

あの噴水の石像を思い出す。口からではなく…下の方から水が流れているやつだ。




「私がここに来た時、光はあそこに消えた」

「…奇妙だな」




あの噴水には何か特別な意味があるのか?

確かに重要な存在感を放っている。他の廃墟の真ん中に位置し、まるでこの場所の核であるかのように。

そろそろ引き返すべきだろう、太陽がゆっくりと沈みつつある。だがあの光の球こそ、ここでの事態を理解する鍵だと感じる。




「よし、アイリスちゃん、俺が確かめてくる」

「うん、私も行く。あれが何だったのか見たい」




そう言って二人で古い噴水へ向かう。奇妙にきれいな舗装路を辿りながら。

普通ならここにある他のものと同じくらい荒廃していると思うだろう?

花壇も同じ話だ。どうして雑草に覆われていないんだ?

まるでこの場所が、この二つだけを保存し、他の全てを時の流れに朽ちさせているかのようだ。

水面を見ると、自分とアイリスちゃんの顔が映っている。でもその下には…



「宝石?」

「すごく綺麗…」





底に小さな岩がくっついているようで、周りに見たことのない光る記号が並んでいる。

もしかして太陽の光が宝石に反射して、アイリスちゃんに見えるほど輝いていたのかな?

そして太陽が沈むにつれて光も動いて、岩が動いているように見えた…

待てよ、反射ってそんな仕組みだったっけ?

違うと思う?でも物理の授業はほとんど覚えてないから、よくわからない。

それに魔法もあるんだから、それで全部説明がつくよね。

でも…うん、この宝石には確かに何か特別なものがある、間違いない。




「…」

「へえ、確かに綺麗だし…高そう…待って、アイリスちゃん、何してるの?!」




アイリスちゃんの腕が水中に完全に沈み、底にある宝石を拾おうとしている。




「おいおいおい、アイリスちゃん止めて!」

「?」




私は素早くアイリスちゃんの腕を掴み、それ以上深く沈まないようにした。




「…どうしたの?」

「ほら、この宝石って多分大事な物なんだよね?」

「うん」

「じゃあ、あんな変な記号だらけの場所に置かれてるのも理由があるってことだよね?」

「うん」

「だから、もし取り出したら何か恐ろしいことが起きるかも」

「…?」




考えすぎかもしれないけど、そう思わざるを得ない。奇妙な淡い光を放つ落書きが、不思議なリズム感で宝石を囲んでいる。きっと何か意味があるはずだ。

何のためか? わからない。だが、だからといって手を出すわけにはいかない。

ここに置いておくのが賢明だ。この宝石は確実に意図を持って置かれている。アイリスちゃんが取り出したら何が起きるか、まったく見当がつかないのだから。




「でも…悪いことなんて起こらないよ」

「私もそう願ってるけど、用心しすぎるのは悪いことじゃないでしょ?」

「悪いことなんて起こらない」

「繰り返すけど、私もそう願ってるけど…」

「悪いことなんて起こらない」

「…どうしてそんなに確信してるの?」




どうしてアイリスちゃんはそんなに強引なの?

説明すれば理解してくれると思ったのに、全く通じなかったようだ。

確かにアイリスちゃんは時々しつこいところがある。例えば毎日新しいチェスの戦略を教えてほしいとせがむとか(数日だけ止んだけど、その件はまだアイリスちゃんに聞かないとね、忘れないで!)。だからこれもその延長線上なんだろう。

でも断る時は断る。だから「それだけの価値はない」と納得させなきゃ。




「予感がするんだ」

「…予…感?」

「うん、悪い予感じゃない」

「…」




本当に?予感?悪い予感じゃないって?

なんて可愛らしい。

でもダメ!それって悪い理由だ、だから悪い理由だって言うんだ!





「アイリスちゃん…」

「悪い予感じゃないし、欲しいの。ダメ?」

「うっ!」




ダメだ、「イエスと言ってよ、さもないと泣く」顔は!

断固として、自分の立場を貫くべきだ、そうすべきだ、そうすべきだ――




「……」

「……わかった、取り出すよ。でもその後変なことあったら、絶対にあそこに戻すからね?」

「!ありがとう、バイオレットさん!」

「いえ、大丈夫。私自身が深読みしすぎてるだけかも。




ええ、宝石を取り除くのは必ずしも悪いことじゃないよ。もしかしたら何か良いことが起きて、逆に脱出の手助けになるかもしれない?それも一つの選択肢だ。

選択肢ではあるけど、かなり楽観的な考えだ。逆に悪いことだと考えるのも悲観的すぎる。

正直なところ、俺も取り除いたらどうなるのか気になるんだ。

分かってるよ、命がけの時に好奇心を満たすなんて馬鹿げてる。「好奇心は猫を殺す」って諺もあるし。

でも…これが謎を解く鍵かもしれない。見えない迷路が私をここに導いたのには理由がある。もしかしたらこの宝石がそれなのかも?




だから私は噴水の縁に登ってしゃがみ込み、できるだけ低く手を伸ばして宝石をつかんだ。

あと少し…あと少しだけ…




「あっ」




しまった、足がもつれた。




「バイオレットさん?!」




後ろからアイリスちゃんが掴んできたのを感じるけど、もう遅い。

彼女はまだ軽い方だし、私はもう半分落ちかけてるから…




「ドボン!」





二人とも水の中にどっぷり。




「痛っ、アイリスちゃん、大丈夫…プフッ!」

「うん、大丈夫…?」

「ごめんごめん、髪濡れちゃったし、顔中ベタベタで、見た目が…プフッ!」

「バイオレットさん、あなたの髪も今変ですよ」

「え、そう? あっ、確かに… 視界がぼやけてるわ」

「…」

「…はははは!」

「へへへへ」





二人とも髪が完全に台無しになったのを見て、笑うしかなくて、そうする。

笑い止むまで少し時間がかかる。




「はあ~ まあいいや、もう全身びしょ濡れだし、宝石を掴まないと全部無駄になっちゃうしな」




そう言って宝石に手を伸ばし、掴み取った。




『おや、意外と簡単だったな。大事な物だから底に接着されてるかと思ったのに』




簡単に持ち上げて、宝石をじっくり観察する。

きれいな青色で、三日月のような優雅な曲線を描いている。

明らかに人工物だ。特定の箇所で曲線を描くために、職人が宝石をカットした跡がうっすらとわかる。

だからといって醜いわけじゃない。むしろ素朴な趣を感じさせる。




「えっと…普通に見える?まあ、全体的にはね」

「わあ…すごく綺麗」

「だって床に落書きだらけなのに、宝石がもっと目立つかと思って…うわっ!」

「?」

「アイリスちゃん、下を見て…」




消えた。落書きが。

いや、消えたわけじゃない。むしろ…目立たなくなった?

あの記号から発せられていたかすかな輝きは完全に消え、代わりに墨のような黒い落書きだけが残っている。

えっと…これはまずい?




「アイリスちゃん、これ戻すね。なんか変な気がする」

「ああ、いいよ」

「何か感じる?」

「うん、感じる」




アイリスちゃんがそんな真顔で言えるなんて…

でも確かに、輝きが消えた以外は何も起きてない。大きな音も、風景の異常な変化も、何も。

本当に…大丈夫なのかな?




「よし、ここでぐずぐずしてる場合じゃない!もう凍えそうだし、早く家に帰った方がいい」

「うん、行こう」


噴水から這い上がり、私が残してきた美しい、美しいクッキーのくずへと歩き始める。


~~~~~~~




「…わあ…」

「そうよね、私の傑作だから~でもね、ここから先は未知の領域だから、離れないでついてきて。別々に迷子になるのはごめんだもの」

「うん」




私たちはあの不気味な舗装路が始まった地点まで戻ってきた。

あとはさっきみたいに「壁に手をつけるルール」を使えば大丈夫!




「よし、あっちに向かって歩き始めよう」

「わかった、行くよ」




私はアイリスちゃんの柔らかく、まだ湿った手をしっかり握った。そうすればループしても離れないと確信できる。

もう片方の手には、以前使った脱出キットの道具類(棒、たくさんの棒)を握りしめている。




「サワサワ、バリバリ、サワサワ、バリバリ」



よし、今のところ順調、ループも発生してない。

まだナビツールを取り出す必要はなさそうだ、助かった。



「サワサワ、バリバリ、サワサワ、バリバリ」




よし、まだループの兆候なし。

ラッキー!もしかしたら出口まで簡単に抜けられる迷路かも!




「サワサワ、バリバリ、サワサワ、バリバリ」




…おいおい、これおかしいぞ。

なんでまだループしてないんだ?この時点で、せめて一つくらい曲がる角があるはずだろ?

まさか本当に出口まで一直線の長い廊下だけなんじゃないだろうな?

いや、それバカげてる~どっちの迷路が、片側は複雑で狭くてジグザグな壁で設計図取るのに苦労するのに、反対側は完全に諦めてるんだ?

絶対にありえない、ループは必ず起こるって分かってる、今じゃなくてもいつか必ず、そうなるはず、今までそうだったんだから、なんで今だけ…




「バイオレットさん」

「え? うん、どうしたの、アイリスちゃん?」

「外に出たよ」

「…もう一度言ってくれる?」

「外に出たよ」

「…もう一度」

「外に出た」

「…」




おいおい、マジかよ?!?!?!

そう、今私たちは外にいる!森から少し離れた場所にある遊び場がわかる。新しく植えられた新鮮な野菜が育つのを待つ農場が見える…




「アイリスちゃん!バイオレットちゃん!わあ、二人とも湖に落ちたとか?」

「ああ、アドラステイア様ありがとう!アイリスちゃん!」




ああ、アイリスちゃんはお母さんに抱きしめられた。娘を見つけるとすぐに駆け寄ってきたんだ。一方、お父さんは私に駆け寄って力強く抱きしめてくれた。




「言ったでしょう、お嬢様!ヴァイオレットちゃんは賢い子です、この森から出る道なんて簡単に見つけられるって!」

「父さん、そんな風に思ってくれて嬉しいけど、今のは完全に間違ってるよ」




父さん…どれだけ大変だったか分かる?森中に歩道を敷き詰めて、これで正しい道を進んでるか確認しなきゃいけなかったんだぞ。




「え?この森なんて別に大したことないだろ、モンスターもいないし、危険な植物もいないし、何もないんだぜ。だからお前ら二人が出てくのになんでそんなに時間がかかったのかちょっと不思議なんだよ、もしかしてそこでかくれんぼでもしてたのか?」

「…お父さん、今何て言ったの?」

「え?ああ、君たち二人でかくれんぼして…」

「違う、その前よ。本当に『別に大したことない』って言ったの?」

「?バイオレットちゃん、どうした?何か変なこと言ったか?」

「あの森には見えない迷路が丸ごとあるんだよ!それに真ん中に変な広場があって、奇妙な遺跡とかあるんだ!」




まさか父さんが本当にそんなこと言ったわけないだろ!

「別に大したことない」?!もしそれが大したことないなら、首都はミノス王の迷宮の化身なのかよ?!




「待って、見えない迷路?遺跡のある広場?」

「そうよ、お父さん!あれを通り抜けるの、すごく大変だったんだから!アイリスちゃんと合流するのにどれだけ時間がかかったか分かる?道を間違えるたびに、また最初に戻っちゃうんだから!」




ええと、今まさにお父さんをビンタしたくなるくらいバカなことを言うんだから。

だって、まさにその理由で森に入るなって言わなかったっけ?!言ってたよね?!そうでなきゃ、どうして大人は子供を怖がらせて森に行かせないようにするんだ!?





「…アイリスちゃん、まずは戻ろう。体を温めなきゃ。ママとパパは後でちゃんと話を聞くから、いい?」

「…わかった」




まあいいや、全身凍えそうだしお風呂はありがたい、どうもありがとう。




「よし、アイリスちゃんも一緒に帰って体を洗おう。どうしてあそこへ走ったのか、後で聞くからね?」

「うん」

「アイリスちゃん!私も詳しい話を聞きたい!明日でいい?」

「うん」




まだ忘れてないよ、アイリスちゃんのこと数日間の件はやっぱり聞きたい。

彼女が話してくれた内容から、何となく察はついているけど、やっぱり本人から直接聞くのが一番だ。




そうしてようやく村に戻り、私は心から待ち望んでいた温かいお風呂に浸かることにした。


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