第9話「転入生、天才ハッカー登場」
文化祭が終わって数日。
校内はどこか燃え尽きたような静けさに包まれていた。
そんな中、朝のHRで担任の桜井先生が言った。
「今日からこのクラスに新しい仲間が加わります。みんな仲良くね!」
その瞬間、教室の空気がざわめいた。
転入生――この世界では男子が希少だから、転入してくるのはほぼ女子だ。
「じゃあ、自己紹介をどうぞ」
前に立ったのは、黒いパーカーにショートパンツという、制服を全く着てない少女だった。
髪は銀色、目は深い蒼。
その存在だけで、空気が一変する。
「天城リラ。よろしく。私はパソコンが好き。あと、面倒なことは嫌い」
ぶっきらぼうな口調に、クラス中が一瞬で静まり返る。
――けど、男子である僕の席の前にきた瞬間、彼女は言った。
「……あんた、光星野だよね?」
え、なんで知ってる?
⸻
◆謎の接触
放課後。
僕が下駄箱に向かうと、そこにはリラが立っていた。
「話がある」
有無を言わせず、彼女は僕の腕を掴んで校舎裏へ連れて行った。
「ちょ、ちょっと!?」
「うるさい、静かに」
そして、彼女はスマホを取り出し、画面を見せた。
そこには――学校のデータベース画面。
「……これって」
「図書システムのログ。壊れた原因、知りたくない?」
僕は思わず息を呑んだ。
あの、凛が責任を背負った件。まさかこの子が――
「お前、なんでそんなの持ってるんだ?」
「私、前の学校で“情報管理室”所属だったの。
つまり、ハッカーってやつ」
彼女は胸を張って言った。
堂々とすぎる。
「で、凛って子が責任被ってたあれ、あれ実は――」
「待って! 彼女を疑うようなこと言うなら聞かない!」
僕がそう言うと、リラは少し驚いたように目を細めた。
「……あんた、変わってるね。
普通なら“真実”を優先するのに」
「僕は、人を守りたいだけだよ」
すると、彼女はふっと笑った。
「……いいね、それ。
気に入った。じゃあ、守る手伝いしてやるよ」
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◆“天才ハッカー”の実力
それから数日、リラは図書室に入り浸るようになった。
凛は最初こそ警戒していたけど、すぐに彼女の知識量に驚かされていた。
「この管理プログラム、古い構造体使ってるな。
バージョン上げて自動バックアップつけといた」
「すごい……! 一瞬で修正してる……」
凛が感嘆の声を上げる横で、リラはポテチを食べながらキーボードを叩いていた。
「ま、これくらい朝飯前」
「……図書室でポテチはやめようか」
「じゃ、ポッキーならセーフ?」
いや、そういう問題じゃない。
そんな掛け合いを繰り返すうちに、二人は少しずつ打ち解けていった。
⸻
◆彼女の“過去”
ある日の放課後、リラは唐突に言った。
「ねえ、光。あんた、なんでそんなに“普通”にこだわるの?」
「……どうしてそれを」
「見ればわかる。
周りがわちゃわちゃしても、常に距離を取ってる。
誰かに好かれすぎるのが怖いタイプ」
図星すぎて何も言えなかった。
「私も、そうだったよ。
前の学校で“天才”って呼ばれて、失敗できなくて、
結局、壊した。自分も、友達も」
リラの笑顔はどこか寂しかった。
その笑みを見て、僕は静かに言った。
「……じゃあ、ここでやり直せばいい」
「え?」
「完璧じゃなくていい。
失敗しても、一緒に笑える仲間がここにはいる」
リラは数秒黙り込んだあと、ぼそっと呟いた。
「……バカじゃないの」
そう言いながら、耳まで真っ赤だった。
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◆そして日常へ
その日から、図書室は少し賑やかになった。
凛が静かに本を整理し、
リラが端末で管理データを更新し、
僕はその間で「ちょっと静かにして!」と怒られる。
なんだかんだで、この三人の空間は心地よかった。
――でも、その平穏の裏で、
リラのパソコンの画面に“ある警告”が点滅していた。
【アクセス検知:外部端末から不正通信】
彼女は画面を見つめ、静かに呟いた。
「……やっぱり、ここも“狙われてる”か」




