表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

第8話「文化祭と、図書委員の涙」

第8話「文化祭と、図書委員の涙」


 秋。校舎の外は色づいた銀杏と落ち葉の匂い。

 文化祭の準備で、学校中が浮き足立っていた。


「光くん、クラスの出し物決まった?」

「うん、メイド喫茶。女子が多いから即決だったよ」


「うわ〜、想像できる……」

 隣で笑ったのは、同じクラスの友人・桐原。

 男子が少ないこの世界では、彼も貴重な“同類”だ。


 ただ、男子二人で協力しても周囲の女子パワーには勝てない。

 衣装決めからメニュー決定まで、完全に女子主導。

 僕ら男子は、ひたすら「はい」「了解」で頷く係だった。



◆図書委員からのお願い


 放課後、いつものように図書室へ行くと、

 凛が紙束を抱えて右往左往していた。


「わっ、星野くん! ちょうど良かったです!」


「どうしたの?」


「文化祭で、図書委員も展示をすることになったんです。

 “未来の図書館”ってテーマで、少し映像を流そうと思ってて……

 でも機材の接続が全然わからなくて!」


「なるほど。じゃあ僕、手伝うよ」


 凛はぱっと顔を明るくした。

 その笑顔に、なんだか胸の奥が温かくなる。



◆二人きりの準備


 文化祭の前日。

 放課後の図書室は、静けさの中に緊張感が漂っていた。


 僕は機材のコードを繋ぎ、映像チェック。

 凛は台本を読みながら、展示の説明パネルを整えていた。


「星野くん、やっぱり頼りになりますね」

「いや、そんな大したことしてないって」


「ふふ。謙遜するところも、星野くんらしいです」


 穏やかな時間だった。

 でも、ふと凛の指先が止まった。


「……やっぱり、私、怖いんです」


「怖い?」


「前みたいに失敗したらどうしようって。

 もう、みんなをガッカリさせたくなくて……」


 その声は、かすかに震えていた。


 僕は静かに言った。

「大丈夫。凛はもう逃げてない。それだけで十分すごいよ」


 彼女は小さく息を呑み、少しだけ笑った。


「……ありがとうございます」



◆文化祭当日


 当日。

 校内はまるでお祭り騒ぎ。

 教室からは音楽と笑い声、廊下には人の波。


 僕のクラスのメイド喫茶は、正直“混沌”だった。

 客はほぼ女子。男子店員の僕は、写真をせがまれ、注文を間違え、完全にパニック。


 「光くん、あーんして〜♡」

 「ちょ、やめ……」


 ――心が折れそうになった僕は、昼過ぎにこっそり抜け出して図書室へ向かった。



◆彼女の涙


 図書室は、静かだった。

 でも、凛の姿はなかった。代わりに、机の上に一枚のメモ。


『ごめんなさい。少し外の空気を吸ってきます。』


 嫌な予感がして、僕は校舎裏へ走った。


 夕陽の中、ベンチに座る凛の姿。

 肩を震わせながら、泣いていた。


「凛!」


「……また、やっちゃったんです。映像が途中で止まって……」


 彼女は手の中のUSBメモリを握りしめた。

 どうやらデータが途中で壊れていたらしい。


「みんな慰めてくれたけど……私、情けなくて……」


 僕は一歩近づいて、そっと言った。


「凛、失敗して泣けるって、すごいことだよ」


「え……?」


「失敗を“ちゃんと悔しい”って思える人は、もう前に進んでる証拠だ」


 凛は、ゆっくり顔を上げた。

 涙で滲む目の奥に、ほんの少し光が戻る。


「……星野くんって、本当にずるいです」


「え?」


「そんな風に言われたら、立ち止まってられないじゃないですか……」


 凛は涙を拭き、笑った。

 その笑顔は、これまで見た中で一番綺麗だった。



◆夕暮れの約束


 帰り道。

 凛がふと立ち止まって、僕に言った。


「星野くん……また、図書室に来てくれますか?」


「もちろん」


「じゃあ、また一緒に本を選びましょう。今度は“失敗しない私”で」


 そう言って、彼女は小さく手を振った。

 夕陽が二人の影を長く伸ばしていく。


 ――その影は、まるでこれからの未来を示すように重なっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ