第6話「高校入学と、最初の事件」
春。桜が舞う坂道を、僕は新しい制服で歩いていた。
胸のエンブレムには「県立桜葉高等学校」。
男子生徒の枠、全校でたった二名。――その一人が僕だった。
遥先輩が卒業してから一年。
あの日の約束を胸に、「普通でいる」ための高校生活が始まる。
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◆新たな世界
昇降口で靴を履き替えると、廊下中の視線が一斉に刺さる。
「ねえ、男子だよ!」
「すごい、本物だ……」
またこれだ。
入学式早々、僕は“珍獣扱い”されていた。
けれど、中学のときと違ってもう慣れている。
「普通でいる」ために、僕は笑顔を貼りつけた。
その時、背後から声がした。
「おはよう、光くん!」
振り向くと、そこに立っていたのは――
金髪ツインテールの少女。
「え、まさか……真琴!?」
保育園、小学校と一緒だった幼なじみの佐倉真琴。
元気印のムードメーカーで、僕にとっては数少ない“普通に話せる女子”だった。
「久しぶり! まさか同じ高校とはね!」
「ほんと、奇跡だよ」
懐かしさに笑い合う僕たち。
――しかし、その瞬間。教室中から「キャーーーッ!!」という悲鳴が上がった。
「やば! 男子が女子と話してる!」
「真琴ちゃんずるい!!」
……あ、忘れてた。ここ、まだ女子30倍世界だったわ。
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◆波乱の自己紹介
クラスメイトは38人中、女子36。男子は僕と、もうひとり。
もう一人の男子は、黒髪メガネの静かな少年。
名前は高月廉。
第一印象は「こっちの世界に慣れすぎてる」タイプ。
僕の番が来る。黒板の前に立つと、みんなの視線が突き刺さる。
「えっと……星野光です。普通に過ごしたいので、普通に接してもらえると助かります」
一瞬の静寂のあと、女子たちが爆発した。
「かわいい!!」
「その控えめな感じが逆に尊い!!」
……もう普通は無理だと悟った。
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◆最初の事件
放課後、僕は図書室に行こうとした。
そこには中学の思い出が詰まっている。
静かな空間で、遥先輩の残したノートを読み直そうと思ったのだ。
――だが、その扉を開けた瞬間、悲鳴が上がった。
「きゃあああああ!! 泥棒!!」
見ると、数冊の古書を抱えた女子が転んでいる。
床には散乱した資料、そしてその前に立っていたのは――僕。
……タイミングが最悪だった。
「ち、違う! 俺じゃ――」
弁明する間もなく、女子たちがどっと押し寄せる。
「男子が盗んだ!?」
「通報しなきゃ!」
わけも分からず職員室へ連行。
僕の高校生活、初日から前途多難すぎる。
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◆真相と出会い
事情聴取の末、すぐに誤解は解けた。
実際に資料を落としたのは、図書委員の子――
黒髪ロングで、眼鏡をかけた知的な少女。
「ご、ごめんなさい! 私が転んだだけなのに……!」
泣きそうになって謝ってきたその子の名は、朝比奈凛。
成績優秀で真面目すぎる性格らしく、責任を感じて震えていた。
「いいよ。僕もタイミング悪かったし」
「で、でも……男子に疑いをかけるなんて……私、最低です……!」
そう言って、涙をこぼす凛。
――なんだろう、この感じ。
遙先輩とは違うけど、どこか放っておけない空気を持っていた。
「じゃあ、これでチャラにしよう」
僕は微笑んで言った。
「これから、友達になってください」
凛は驚いたあと、少しだけ頬を赤らめた。
「……はい。よろしくお願いします、星野くん」
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◆夜のノート
家に帰り、僕は久しぶりにあのノートを開いた。
遥先輩の字が、相変わらずまっすぐに並んでいる。
『出会いは偶然。でも、それをどう育てるかは選択。』
――なるほど。
今日の“事件”も、悪いことばかりじゃなかったのかもしれない。
高校生活、初日。
僕はまた一人、新しい「出会い」を得た。




