第4話「中学、モテすぎて孤立」
小学校をなんとか乗り切り、僕は中学生になった。
制服のブレザーに袖を通したその日から、僕の人生はまた一段と騒がしくなった。
理由は単純明快。
――男子が、僕ひとりだったからだ。
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◆入学早々の洗礼
入学式の日。体育館で新入生代表の言葉を読み上げる女子の声が響く中、僕はふと感じた。
あれ? やっぱり男子が見当たらない。
校門をくぐってから気づいてはいたが、改めて数えてみても、百人以上の新入生全員が女子。
そして、式後の自己紹介で判明した事実。
「二年生も三年生も、男子はゼロよ」
担任の先生がさらりと言った。
つまり、この中学に男子は僕ひとり。
全校生徒三百人の女子に囲まれた生活が始まったわけだ。
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◆モテすぎる日常
登校すれば、廊下で黄色い声。
「おはよー光くん!」
「今日もかっこいいね!」
休み時間になれば、机の周りに女子がずらりと集まる。
「好きな食べ物はなに?」
「彼女いるの?」
「わたしと帰ろうよ!」
……息をするだけで注目される。
これを「モテ期」と呼ぶのかもしれないけど、当人にとっては地獄だった。
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◆孤立する僕
最初はちやほやされるのが悪い気はしなかった。
でも日が経つにつれて、僕は次第に疲弊していった。
友達として気軽に話すつもりでも、相手はすぐ「特別な意味」を求めてくる。
笑顔で返事をしただけで「光くん、私のこと好きなんだよね?」と解釈される。
その誤解から、女子同士のケンカが勃発するのも日常茶飯事だった。
僕は何もしていないのに、クラスの空気がギスギスしていく。
ある日、僕はトイレの個室に逃げ込み、ひとりつぶやいた。
「……もう疲れたよ」
小学校の頃から「普通でいたい」と願っていたのに、この環境ではそれが叶わない。
男子が僕しかいない限り、僕の存在そのものが「特別」になってしまうのだ。
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◆救いの先輩
そんな僕を救ったのは、一人の先輩だった。
放課後の図書室で本を読んでいると、ひとりの女子が声をかけてきた。
「ねえ、ここ空いてる?」
長い黒髪をひとつに結んだ、知的な雰囲気の三年生。名前は「神崎遥」。
学年一の秀才で、生徒会の副会長を務めているらしい。
彼女は僕を特別扱いせず、ただ「後輩」として接してくれた。
「男子だからって浮かれてる子、多いでしょ。でもあなた、だいぶ疲れてる顔してるわね」
「……はい。正直、もう嫌です」
「だったら、ここに来なさい。図書室は静かだし、私も本を読むのが好きだから」
それ以来、僕は放課後のたびに図書室に通うようになった。
遥先輩は、僕に「普通の会話」を与えてくれる貴重な存在だった。
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◆告白の嵐
だが、中学二年になると事態はさらに悪化した。
バレンタインの日には、下駄箱に入りきらないほどのチョコが届く。机の中にも、鞄にも、なぜか体操服袋にまでチョコが詰め込まれていた。
そして放課後、グラウンドの隅で――。
「好きです! 付き合ってください!」
「わ、わたしも! 光くん!」
一日に五人、十人と告白が続く。
断れば泣かれ、曖昧に答えれば女子同士で争いになる。
結局、僕は「誰とも付き合わない」と決めるしかなかった。
でもそれはそれで、「なぜ?」「もしかして、私がダメなだけ?」と疑心暗鬼を生み、余計にトラブルを増やす結果になった。
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◆涙の夜
その日の夜、布団の中で僕は声を押し殺して泣いた。
「普通でいたい」――その願いは、中学になってさらに遠ざかっていく。
そんなとき、スマホに一通のメッセージが届いた。
《大丈夫?》
送ってきたのは遥先輩だった。
図書室での時間をきっかけに、連絡を取り合うようになっていたのだ。
僕は震える指で返した。
《……普通でいるのって、こんなに難しいんですか》
しばらくして、返事が来た。
《難しいわよ。でも、不可能じゃない。あなたが本当にそう願うなら、私は手伝う》
その言葉に、僕の胸の奥がじんわり温かくなった。
――この世界でも、僕の味方は確かにいる。
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◆決意ふたたび
次の日、学校へ向かう足取りは少しだけ軽かった。
もちろん女子の注目は変わらない。むしろ日に日に熱を帯びていく。
けれど僕はもう決めていた。
――逃げるんじゃない。戦うんだ。
「普通でいる」という夢を叶えるために。
中学での孤立はまだ始まったばかり。
けれど、僕の中に小さな希望の火が灯っていた。
その火を絶やさぬよう、僕は今日も図書室へと向かう。
遥先輩が待っている、本と静寂の空間へ――。




