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こんな異世界トリップはいやだ

異世界トリップはタイミングを間違えると悲惨なことになる!?

その可能性に気づいた高校生男女たちの雑談。


初めて書いた異世界トリップもの。

完全ギャグ。2017年に書いてpixivに投稿したものなので今見返すと「既に世に存在するネタがあるな…」と思うのですが書いたの2017年なので多めに見てやってください。



「ねえ、このラノベの異世界トリップってさ、タイミング間違えるとやばくない?」


 そもそもの発端は、この発言だったと思う。

 とある高校の教室。放課後にたまたま教室に居合わせたのは、クラスでまあまあ変わっている面子だった。

 そのうちの一人であるライトノベル好き男子の佐藤が、隣の椅子に座っていた眼鏡に三つ編みのいかにもまじめそうな女子・深山にそう振った。

 深山は読んでいた少年漫画から顔を上げ、「タイミング?」と首をかしげる。

 教室内にはほかに二人の男女がいて、彼らが帰らないのは単純に夕立が去るのを待っているのだ。窓の外ではざあざあと雨音がうるさい。

 ただ待つのも暇なのでお互い所持していた漫画を貸し借りして暇を潰している状況である。

「そう。

 たとえばトイレとかお風呂中だったらやばくね?」

「それはリアルに死にますね」

 佐藤が真顔で言った台詞に、深山もうっかり想像してしまったのか引いた。

「もっと言うとさ、女子は化粧中もしんどくない?

 むしろすっぴんで召還される」

「それは普通に死ぬわ」

 真顔で同意したのは今時珍しいガングロギャルの三河で、いかにもチャラそうな茶髪男子の中谷に「おまえはむしろすっぴんのほうがよくね?」と返されてシバいていた。

「つか、そもそもフィクションなんだから、トリップする女子は決まってかわいくて清楚で、タイミングも学校帰りとかが定番なんじゃねーの?」

「いやでも、男子がって話も多くない…?」

「まあ確かに平凡男子が異世界トリップしてハーレムに、ってのも定番か」

 中谷の言葉に深山が返し、佐藤がうんうんと同意する。

 むしろそういった話はライトノベルでは定番だ。

「タイミング大事だけど、キャスティングも重要じゃない?」

「って言うと?」

「端的に言うと平凡男子とか平凡女子とかまあチートとかならまだしも、肩こり腰痛ひどいお姉さんとかお坊さんとかムキムキマッチョとかガチゲイオネエとかだったらカオスじゃね?」

「それはそうかもしれんがそもそもそんなラノベが存在してたまるか」

 佐藤が不意にまじめな顔をして言ったので聞いたのに、返ってきたのがしょうもない話だったので中谷はついうろんな目になる。

 つか肩こり腰痛ひどいお姉さんってなんだよ。常にサロ○パス常備してんの?サロ○パス臭のするお姉さんか?

「はっ!

 私、ものすごく最悪のタイミングに気づきました!」

「え、おまえまでなんだよ深山」

「イベント前日、徹夜で原稿仕上げてるときに異世界とか行ったらいろんな意味で死にます!」

「だからそんなラノベはねえっつってんだろ!

 つかそれおまえが一番困るタイミングじゃね!?」

 なんか嫌な予感がしつつも促したらやっぱりアホな話だった!と中谷はツッコむが深山はなんか悲愴な顔をして聞いていない。

「笑い事じゃないですよ!

 トーンやインクだらけの中学のジャージにヘアバンドに目の下に隈にエナジードリンクとペンとBL原稿持ったままとか死ねません!?」

「確かにそれは死ぬけど、それほぼ自分の責任じゃない?」

 佐藤に正論を吐かれて深山は机に突っ伏した。

 確かに。痛い。

 ちなみに深山は腐女子である。この場にいるメンバーは知ってるのだが。

「っく、そ、そんなこと言ってますがね!

 佐藤君だって一押しギャルゲーのヒロインのトゥルーエンド目前で呼ばれたら恨みませんか!?」

「うっ、そ、それは!」

「あと嫁のフィギュアと一緒!」

「ああああああああああそれだけはああああああああああああああ!」

「そして佐藤君が失踪したと家族に思われ、部屋の中を捜索されてギャルゲーやフィギュアや同人誌発見される!」

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「うるっせえよおまえら!

 つか間違ってもおまえらは呼ばれねえよ!

 あとこれなんの話!?」

「ただのオチのない雑談でしょ」

 なんかアホな話を真剣に訴えている深山とムンクの叫びみたくなっている佐藤を見て中谷が怒鳴り、三河が慣れた様子で「いつものことじゃね?」とスマホをいじりながら言う。

 なんかだいぶアホな会話だが、元々このクラスは仲が良いことで有名なので、だいたい誰かしらアホなことをやらかしている。

「あ、でもさあ、これって呼ばれる男女ってコミュ力ないときつくね?」

「まあ確かに」

「そもそも言語通じなかったらどーすんの?

 異世界とか言語同じなわけないじゃん」

「いやそれはあれだ。

 たぶん異世界マジック的な、ほんやくこ○ゃっくみたいなアレ」

「まあ、実際トリップした人が会話通じなかったら即終了ですよね」

 佐藤から借りたライトノベルを手に取りつつ言った三河に佐藤が「ラノベあるある」なフォローをし、深山も「確かに」と頷いている。

「英語さっぱりわからないマンがスマホや辞書なしでアメリカ行くみたいな話だな」

 確かに言葉通じなくてその国の通貨もなかったら死ぬわ、と中谷も同意した。

「あとその世界に適応出来ないやつもアウトじゃない?

 超常現象とか一切受け付けないというか、科学に裏打ちされたものしか信じられないタイプ」

「あー、それもやばいな」

「むしろラノベとかアニメとか漫画とかくだらないってバカにしてるおっさんとか」

「いやちょっと待て」

 佐藤の発言に中谷は即座にツッコんでしまった。

 普通の会話の流れでなに言い出すんだこいつは。

「え?

 だってそうじゃない?」

「いやいや言いたいことはわからんでもないがおっさんトリップはねえよ!

 おまえ召還した側の気持ち考えたことある!?

 世界を救う巫女とか呼んだらおっさん出てくるとかそれどんな地獄よ!?」

「じゃあ大阪のおばさん」

「性別変わればいいってことでもねえ!

 ヒョウ柄のパンチパーマおばちゃんでも困るから!」

「じゃあ怪しげな宗教勧誘のひと。

 適材適所じゃね?」

「ある意味適材適所かもしれないけどそれやめよう!

 異世界のやつが可哀想だから!」

「じゃあ某農業系アイドル」

「だからそ…っ!

 い、いやそれは最強かもしれないけど!

 最強だと思うけどやっぱやめよう!?

 正直オレも異世界の住人だったら最強だと思うかもしれないけどやめよう!?

 つか異世界トリップの定義おかしくね!?」

 真顔でボケのような発言を続ける佐藤に中谷が必死にツッコんでいる。

 いやあんたがいちいちツッコむからじゃ?と三河は思うが言わない。

「そもそもフィクションなのですから、定義自体が曖昧じゃないですか?

 単純に既存の作品だと少年少女が一般的だというだけで」

「…まあ、そりゃ確かにそうだけどでもさあ…」

「召還されたヒロインが腐女子で、自分を守る騎士たちのBLを期待する話があってもいいと思います」

「いやそれはおまえの願望だろ!?」

「そもそも見目麗しいヒーローたちを独り占めするべきではありません。

 ならそのヒーローたちをくっつけてしまえばいいと思いませんか!?」

「だからそれ楽しいのおまえだけじゃん!?

 つかむしろおまえが異世界トリップしてそれやりたいだけじゃん!?」

「タイミングの話だけどさあ」

「おまえもかよ三河!?」

「丑の刻参り中の女が召還されたらウケない?」

「意味がわからない!!!」

 深山へのツッコミで息切れしていた中谷は、マイペースにぶっ込んできた三河にシャウトして大きく息を吐いた。

 お疲れ様です、と言ってやるやつはこの場にいない。

「いやいやいや、あり得るかもしれないっしょ?

 タイミングが悪かったらそうなるかもしれないじゃん?」

「いやいやいやねえから!

 白い着物に蝋燭頭に装備してわら人形と五寸釘持った女が来たら怖いじゃん!」

「場合によっては般若面も装備してることもあるらしいですよ?」

「余計ホラーだ!」

 三河も深山もまったくもってマイペースで自重しない。中谷はそろそろ喉が痛かった。

「いやいやあんたね、これには深い事情があるの」

「どんな事情だよ!?」

「まずその女は会社で出会って結婚した夫がいたけど、夫との間に子供はおらず、夫とはセックスレスに。

 義両親からは『子供はまだ?』とせっつかれ、追い詰められていた。

 にも関わらず夫は職場の後輩と不倫。

 限界に達した女は夫とその浮気相手を呪い殺そうと丑の刻参りに」

「重い重い重い!

 リアルすぎて重い!」

「しかし彼女はその最中に異世界に呼ばれ、自分の見目を気にせず窮地を救ってくれた素敵な男性に惹かれ、どうせ元の世界に自分の居場所はないんだし、自分が出来ることがあるなら彼の力になりたいと思うようになり、最終的にその男性とゴールインして幸せになりました」

「あれっ!?

 なんかいい話!?」

「まあいい話だろうと結局はW不倫だけどね」

「台無しだわ!」

 そのオチ要る!?と訴える中谷の意見ももっともである。そのオチはべつにいらなかった。

「タイミングって言えばさ、バイト中とかもきつくないかな?」

「佐藤おまえもいい加減に…ってまあ、さっきよりはマシな話か…。

 まあ、コンビニの制服のままとかちょっと複雑だよな…」

「いや、遊園地の着ぐるみのバイト中とか」

「まったくもってマシじゃなかった!」

「いやだってあり得ない?

 うさぎとかクマさんの着ぐるみバイト中に召還とかやばくない?」

「だからそんなのないって!」

「秋田のなまはげとかもっとカオスじゃね?

 あとは獅子舞」

「怖ぇーよ!

 普通に怖ぇーよ!

 あと獅子舞って前足後ろ足どっち!?」

 さすがにそろそろ中谷の喉が心配になってきた深山だが、止めたりしない辺り彼女も自由人である。

 というか中谷もスルーすればいいのでは。まあ自分も人のこと言えないけど。

「あ」

「またなんだよ三河!?」

 だからそこで「なんだよ」と言わないでスルーすればいいのに、と佐藤も自分を棚上げして思う。が、言わない。

「貞子だったらやばくね?」

「だから意味がわかんねーよ!!!」

 渾身のツッコミだった。さすがにそのあと、中谷が咳き込んでいた。

 深山はこっそりのど飴を彼の机の上に置いておく。

「っだ、な、なんで貞子!?

 あれ呪いじゃん!?」

「だから最強じゃね?

 魔物とかも倒せそうじゃん?」

「確かに倒せるかもしれないけどくくりで言えば貞子もそっち側なんじゃ…」

「巫女・貞子爆誕」

「や・め・ろ!」

「じゃあ花子さんでいい」

「なんもよくねえっつーかなにが『じゃあ』!?

 なにが『じゃあ』なの!?

 なんで学校の怪談出て来た!?」

「強いと思う」

「どうやって戦うんだよ!?」

「ラバーカップじゃね?」

 不意に黙っていた佐藤がぼそっと発言し、深山と三河が吹いた。

 中谷も危うく吹き出しそうになった。

 なにそれやだ。

「あと都市伝説と言えば口裂け女も譲れない。

 武器はポマード」

「真顔でアホなこと言ってんじゃねえええええええええええええええ!

 あとポマードでどうやって戦うんだよ!?

 鈍器にしかなんねーよ!」

「そもそもポマードは口裂け女の武器ではなく苦手なものでは」

 きりっとした顔で追撃した佐藤に中谷の喉が限界だ。

 そもそもほんとうに異世界トリップの定義とはなんなのか。

 深山のツッコミも若干適当になっていた。

 というかいい加減雨止んで欲しい。夕立にしたって長すぎじゃねえ?と佐藤は思って何気なく窓に視線を向け、息を呑んだ。

 カッ、と空を走った雷鳴。同時に教室の扉ががらっと開いてかつら疑惑のある中年の男性教頭が入ってきた。

「こらおまえらうるさ――――――!」

 教頭の言葉が途切れる。彼の足下に発光した魔方陣が浮かんだ。

 そして呼吸すら失った佐藤たちの前で教頭の姿はまばゆい光に呑み込まれて消える。

 魔方陣が消えたあとにふわり、と浮遊しながら床に落ちたのは、教頭のふさふさのかつら。

 誰もが己が見た光景が信じられず硬直する中、佐藤が不意にゆっくりと進み出て、まるで至宝のように恭しくそのかつらを手に取る。

「ごらん。みんな。

 これが世界を救う巫女の伝説のかつらだ」

 未だかつてないほど真剣な顔で告げた佐藤に残りの全員が一斉に吹き出し、呼吸困難に陥ったのは言うまでもない。

 先ほどまでの雷雨が嘘のように晴れ渡った青い空を見上げ、佐藤は「伝説が今始まった」とつぶやいてほかのクラスメイトに追撃をかけた。




 ちなみに教頭は数日後に帰還しました。


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