第9話 待ち合わせ
待ち合わせの場所に一時間も早く着いてしまった。
昨夜は楽しみでほとんど寝られなかった。そして遅れてはいけないと思って早めに家を出た結果として一時間も早く着いてしまったのである。
もしかすると彼も早く来ているのかもしれないと思ったが、さすがにまだ来ていなかった。
彼は時間を守る人なのだと思う。
しっかり時間通りに来ることだろう。
時間まで何をしよう。
喫茶店で時間を潰すという高度な芸当はできない。
しょうがないので待ち合わせ場所近くで風景を眺めることにした。
待ち合わせ場所はとても有名な場所であり、多くの人が待ち合わせ場所として利用している。その中の一人として今存在していることを少し不思議に感じてしまった。
中学時代には思いもしなかったことだと思う。
あの人はデートの待ち合わせをしているのだろうか。
周囲を見渡して彼女を来るのを待っているように見える男性の姿が目に映った。
その時、これから彼女という存在はできるのだろうかと考えてしまった。そしてすぐ頭で否定をした。
できるはずがない。
今のまま彼と長く付き合っていきたい。
そう思うのであった。
彼はどう考えているのかはわからないことだけが不安だと思う。
そんなことを考えていると声をかけられた。
「早いね。もう来てるとは思わなかったよ。待った?」
時計を見ると待ち合わせ時間の三〇分前だった。彼は三〇前には到着する精神の人だということかもしれない。彼も待ちきれなくて早めに来てくれたというのなら嬉しいのだけど……。
「待ってないよ。さっき来たところ」
「よかった! 早めに来たつもりだったのだけど、もう着いてるとは思わなかったよ」
「楽しみで早めに来ちゃったんだよね……」
「俺もそうなんだよね」
彼は何気ない感じでそう言った。
彼も楽しみにしてくれてたことに嬉しさを感じた。
実は嫌だったのではないかと少し不安に思っていたからだ。彼の表情や口調からはそんなことを感じ取れなかった。彼は心から楽しみにしてくれていたのだと思う。
予定していた映画の時間まではまだ時間があった。
彼の提案で喫茶店で少し時間を潰すことなった。些細なことだけども夢に見ていたことが叶って嬉しかった。
まるでデートみたいだとも思ってしまった。
本当のデートをできる日は訪れるのだろうか……。
「ここのコーヒー美味しいんだよね」
「コーヒー飲めるなんてすごいね。ココアにしとくよ」
「大人に憧れてさ、格好付けるつもりで飲んでたら普通に味にハマってしまったのだよね」
「苦いだけどだと思うのだけどなあ。甘いココアで十分だよ」
「そういう君の所も好きだよ。無理に誰かに合わせる必要はないと俺は思うね」
そう言う彼の顔は少し大人びて見えた。
(続く)