第8話 予定
この出来事をきっかけに彼との仲を縮められたような気がしている。
電車で会うときも前より気軽に話をできていると感じるのである。家に帰ってからも彼と通話することが多くなった。
彼と話す内容も小説の内容だけではなくなっていた。
そういう話ができる関係の人がこれまで居なかったこともあり、近頃は充実した日々を送ることができていると感じ始めてもいる。
高校生になったことで変わり始めたのだろうか。
いや、違うと思う。
彼との出会いは電車であったのだから、電車通学をきっかけに変わり始めたに違いない。
間違いなく、歩いて通える高校に行っていたならば今の充実感は得られなかったのではないだろうか。最初は思っていたよりも大変だと感じていた長い電車通学に後悔していたが今では正しい選択だと思っている。
その日の夜も彼と通話をしていた。
「今度の休み、どっか二人で遊びに行かない?」
その言葉に驚きを感じた。
そういう発想がなかったからである。
友達と遊びに行くという行為は無縁なことだと思っていたからだ。
彼から誘ってくれたことは素直に嬉しいと思う。
だけども、不安にも思っている。
これまでの人生で友達とどこかに遊びに行ったことなどないからだ。
これをきっかけに嫌われるかもしれない。
またもや不安が襲いかかってきている。
きっと、この不安はこれまでの経験からやってきている。これまでの経験から来た不安はこれからの出来事に当てはまるのだろうか。
同じことをしていたらその不安は当てはまると思う。
だけども、少しだけ変わり始めていることに勇気をもらえている。
ここは勇気を出して踏み出してみるべきだと思った。
「いいね。どこに行く?」
その言葉が出てきたことに驚きを感じた。
前までなら、そんな言葉を口から出すことはできなかったに違いない。
「そうだなあ――とりあえず映画でも見に行く?」
映画館なら一人で行き慣れている。変なところを見せる心配もしなくていいかもしれない――。
「いいね! 映画見に行こうよ」
「何の映画にする?」
「最近話題の蜘蛛の映画があった気がするのだけど、それはどう?」
「小説が原作なやつだよね。小説のほうはもう読んだ?」
「まだ読んでないのだけど、映画見てから小説読もうかと思ってる」
「なるほどーそれもいいかもね」
「もう読んだの?」
「もう読んだのだけど、映画と小説は違うからね。大丈夫だよ。あとから小説読むと違った感想になるかもしれないから、それも楽しみだから聞かせてね」
「もちろん!」
前よりスムーズに会話をできていることに驚きを感じると同時に彼と映画に行くことが楽しみで待ちきれないと思った。
(続く)