第7話 通話
家に帰って続きを読み始めた。
読み終わらないと彼と電話で話すことができないからである。
夕食の時間と入浴時間を勿体ないと思ったのは初めてのことだ。
その小説の最後の展開は凄まじく一気に読み進めることが出来たのが救いだった。そのこともあって彼はこの小説について話したかったのだろうと思った。
そして気付けば読み終わっていた。
彼に初めてメッセージを送るのだと思うと少し緊張してしまう。
――読み終わったよ!
送信後、既読マークが付くまでの間がとても長く感じてしまった。もしかするともう寝てしまっているのではないかな、などの不安が湧き上がってきたからである。
その不安を打ち消すかのように既読マークが付き、彼からの返信があった。
――電話かけるよー。
そして彼からの着信があった。
まず何から話せば良いのだろう。
いざとなって緊張してしまうのが悪いところだと思う。
とりあえずは挨拶だろう。挨拶は大切だからだ。
「こんばんは!」
緊張からか声がうわずってしまった。変だと思われていないだろうか。
「こんばんはー。電車以外で話すのは初めてだね」
「電車以外で話せて嬉しいよ!」
なんだかテンションもおかしくなってしまっている気がする。
さらに変な人だと思われてないだろうか。
とても心配になってしまう……。
そもそも友達と電話で話すこと自体が初めてな事に気付いてしまった。
高校に入学する頃には思いもしなかった出来事である。
次は何を言えばいいのだろう。
そうだ肝心のことを忘れていた。
「最後の展開すごかったね! これは話題になっているのもわかるよ」
「だよね! そう思ったよね! いやーあれは予想外だったよ」
「続編あると思う?」
「確かにありそうな気がするよね。終わり方から考えて続きありそうなのと、これだけ話題になっているのだから続編があってもおかしくないと思う」
「すぐにはでないと思うけど楽しみだね!」
「それはもう本当に出るなら楽しみだね!」
それからその小説の細かく気になった所について彼と話した。彼は気付いていなかった所にまで気付いていて、とても凄いと素直に思ってしまった。彼を尊敬できる所で増える嬉しさも同時に感じている。
ふと、時計を見るともう日が変わる所まで来ている所に気付いた。
彼との楽しい時間が一瞬で過ぎ去ってしまった事に悲しくなってしまった。どうして楽しい時間はすぐ過ぎてしまうのだろう。この時間が永遠に続いてほしいと願っている時に限って時間は凄まじい速度で過ぎ去ってしまうのだ。
それは残酷なことだと思う。
(続く)