気づき
放課後、一年Ⅾ組の練習を見回っていると静香と合流した。
「水戸さん、そっちはどう? 女子の方は」
「あはは、予想通りだったよ。他チームの先輩たちが来るわ、来るわ。イケメンからイケメン女子までうちの女子にちょっかいをかけてきたわ。私が全部撃退したけどね。でもよっぽど情報が欲しいんだろうね」
「ああ、特にあいつのな」
一悟はそう言うと右手の親指で肩越しに後方にいる祐人を指し示す。
祐人は自分の練習は置いて積極的に皆の練習を手伝っていた。
しかも結構、助言が上手いらしく最近ではこの目立たないクラスメイトの認知度が大幅に上がっていた。
「そうだよねぇ。今まであまり知られていない運動万能の生徒って学内では矛盾している存在だもんね。体育祭の練習が始ったら名前が売りだされ始めたなんて、他チームは気になって仕方ないか」
「まあ、あいつの特殊能力の副作用がここで生きてきたってことだ。今まで迷惑しか受けてないからな。これぐらいは役に立ってもらわねーと」
一悟がしたり顔でそう言うと静香はニヤニヤしながら一悟を見つめている。
「なんだよ」
「ふふーん、袴田君、なんか嬉しそうだなって思っただけ」
「あん? 何が?」
「堂杜君が皆に覚えてもらって、仲良くなっていくのがそんなに嬉しんだなぁって。袴田君って本当に堂杜君のこと思いやっているよねぇ。そのせいで女好きを公言しているのにBLの疑いをかけられているのに。実は本当だったりして」
「ば、馬鹿野郎、そんな訳あるか! 俺はあいつを餌に我がクラスを守っているだけだ。それにしてもその噂、まだ消えないのかよ。とほほ」
「私にとってはありがたいけどね。ライバルが来なくて」
「あん?」
「何でもない。そんなことより体育祭実行委員会はどうだったの?」
「どうもこうもな。とりあえずうちのバーチャルバトルは祐人に決まったよ」
「へぇ、何か意外だね」
「う、うん、というか、ちょっと気になることがあってさ」
一悟が妙に歯切れが悪い。
「どうしたの?」
「あのさ、この学校って変わってるよな」
「まあ、結構適当なところあるなとは思うかな。四天寺さんたちの転校とか。というより転校生がこんなに多い私立校ってあんのかなってレベルだよね」
「あとさ、俺たちから見たら祐人とか四天寺さんたちって変わってると言ってもいいよな」
「う、うん、まあそりゃそうだよね。能力者なんて実際に見ていなければ創作物の世界の人たちでしかないからね。……というか何で堂杜君たちが出てくるの?」
「実はさ、バーチャルバトルだけど一年で選ばれたのがさ」
一悟は全学年の実行委員会で配られたプリントを静香に渡した。
Aクラス 町田先生 四天寺さん
Bクラス 村山先生 シュリアンさん
Cクラス 武蔵野先生 白澤さん
Dクラス 高野先生 堂杜君
Eクラス 小金井先生 内野君
Fクラス 小平先生 黄君
「もう何なの? おお! この超メイン競技の参加者がほぼ私たちの友達たちだ! こんな偶然あるんだ。なんか燃えるね……うん? 偶然?」
静香がゆっくりと一悟に視線を向ける。
「えっと……」
「いや、よく考えるとさ。美麗先生って結構、キテるよな。だってあのもはや闘気と言っても過言ではないオーラ出すし。普通に何回も死を覚悟させられるし」
「う、うん? あらためてそう言われると……キテるね」
「祐人の爺さんもまあ、あっち側の人だろ?」
「まあ……色々と、あっち側だね」
「その爺さんと校長が知り合いとか言ってなかったっけ? 祐人がこの学校を受験する理由を話していたとき」
「あ……」
「そんなことを思い出したり考えたりしたあとに俺は思わず読み返してみたんだよ。このバーチャルバトルの概要を」
『生徒と担任は二人一組でSO・NYエンターテイメントの協力の超最新ゲームで戦います。ゲームの中から好きな戦闘スタイルを選んでバーチャル空間で戦ってもらいます。その戦闘はなんと超高解像度ホログラム映像でまるで本物のように見えます。まるでファンタジーな戦いをみんなでお応援しよう!
戦闘スタイル例……剣士、拳士、魔法使い、などなど、スタイルの種類は無限にあります』
「これさ、うさん臭くない? 本物のように見えます、とか書いちゃうところが」
「う、うん」
「バーチャル空間の必要があるのかな? あのメンバーで」
そう言われると二人の間に〝仙道使い〟やら〝精霊使い〟やら〝エクソシスト〟やら〝最近、開花した能力者〟の雄姿が浮かぶ。
無言で半目になった一悟と静香の間を風が通り過ぎていく。
「いや待って! だとしたら他の学年の人たちは? 先生たちだって私たち美麗先生くらいしか詳しく知らないじゃない。たしかに美麗先生の強者感は普通じゃないけど! 普通じゃないけど……校長も普通じゃないけど、学校も普通じゃないけど? よく考えるとこの体育祭もあり得ないほど普通じゃない……え? ええ——⁉ 嘘でしょ?」
「俺たちは普通じゃない人たちと付き合ってたからこう考えてしまうのか、それとも本当にこの人選がたまたま、なのか」
「と、とりあえず、袴田君!」
静香が大きめな声を上げる。
「お、おう」
「あのさ、〝たまたま〟の方でいかない?」
「そ、そうだな。〝たまたま〟でいこうか。そういえばさ、このF組の黄英雄って聞いたことない? ほら、黄家がなんだとか言ってなかったっけ? 祐人たちが」
「たまたま、だよ! それも、たまたま!」
「そうだった! こんなこともあるんだなぁ」
「「あははは」」
「じゃ、そういうことで。このあと、また実行委員会あるから行ってくるよ」
「うん、分かった! 袴田君……気を付けて行ってきてね」
「あはは、何を気を付けるんだよ、水戸さん」
「あはは、そうだったね」
そう言って別れるまで二人はまばたきをしていなかった。
(俺(私)、この学校にいて卒業まで普通の人でいられるよな(よね))




