想いと叫び③
斉天大聖が顔を見開く。
体の主導権が奪われかかっていることに気づき焦りの表情を見せた。
「ええい! 放せ! 貴様らもいつまで俺様にくっついてやがる!」
斉天大聖から莫大な霊力が弾けるとそれは衝撃波となり祐人、英雄、琴音は全身で受ける。
英雄と琴音は斉天大聖の肩を必死に掴み体を宙に浮かばせながらもしがみつく。
三人の顔や腕が切れ、身体中の各所の骨にひびが入り深刻な打撲が広がる。
(こいつら、今ので肉体が千切れないだと⁉ ハッ、これは……俺の霊力が弱い? ぬう、こいつか! こいつ、俺の得物を掴みながら封印術式を展開してやがるのか! 何という精神力、なんという抜け目の無さ! なんという霊剣師! その両手からは全身が砕けるような激痛が走っているはずだろうに!)
斉天大聖は驚愕と憎々しい目で祐人を睨む。
祐人の両手から肉の焼ける匂いが漂い、掌が焼きただれていくだけでなく腕の血管から血が所々で噴き出す。
「ぬううあああ!」
だが放さない。
決して手の力を緩めない。
今、これを離してしまえばあの根の優しい悪戯な好きな少女が兄や家族、そして親友と再び顔を合わすことが叶わなくなる。互いに互いを大事に思っている人たちがもう言葉を交わすことも同じ時を過ごすこともなくなる。
それはとても悲しく寂しいことだ。
祐人はその痛みを知っている。
一瞬、英雄と琴音が祐人へ視線を移す。
「こちらを気にしている場合か! 早く秋華さんを呼ぶんだ! 今はそれだけに集中しろ!」
二人はこちらを叱咤してきたこの少年を知らない。
だがこの少年の言うとおりだ。
今、望むこと、成すべきことは一つ。
英雄と琴音は再び叫ぶ。
「秋華! この馬鹿! 家族に心配をかけるな」
「秋華ちゃん! 早く、早く戻ってきて!」
この時、明らかに斉天大聖の力がさらに弱まった。
すると斉天大聖が歯を食いしばり唸る。
「ムウウ! これは」
英雄にも分かる
「こ、これは……自在海! 秋華の自在海だ!」
黄家の領域『自在海』は自身と契約していない人外の力を弱体化させ契約している人外には感応力と支配力を強める特徴を持つ。
斉天大聖の顔の半分がまるで映像が切り換わったかのようにアーモンドの形をした目を持つ少女の顔になる。
「お兄ちゃん、琴音ちゃん!」
「おい、チビ、出てくるな! 俺はもっとこいつと楽しみてーんだ!」
「黙りなさい! 人の体を勝手に使うんじゃないわよ!」
同一の体ではあるが秋華は斉天大聖がこいつ、と言った見知らぬ少年を見る。
全身各所から流血させそれでも如意棒を掴み、彼は兄と親友を守っていることが分かる。
誰だかは分からないが秋華は胸が熱くなり必ずこの恩は返さなければならない、と思う。
すると全身から驚くほどの力が湧いてくる。
「みんな、危ないから離れて! このぉぉぉぉ!」
秋華はそう叫ぶと自在海を全力解放させる。
すると斉天大聖の体が光を帯び、英雄と琴音は後方へ飛び退く。
「ええい! させるものか!」
斉天大聖が抗う。
がしかし、この僅かな隙を見て祐人は如意棒を奪い後方へ放り投げた。そして続けざまに印を結んで強力な封印結界を展開させる。
「堂杜霊剣術、三十二式封神結界!」
斉天大聖の体から自在海、その足元からは結界が出現し相乗作用が生まれ斉天大聖の莫大かつ濃密な霊力を抑え込んでいく。
「ぬううう、この程度でぇぇ」
それでも斉天大聖は踏みとどまり、祐人の眉間に力が入る。
英雄と琴音は息を飲んで見つめている。
その時だった。
突然、祐人に脳裏に声が聞こえてきた。
〝御屋形様、そちらに参ります。〟
(え? この声は傲光⁉)
すると祐人の背後の空間が歪み、その場に長髪で秀麗な顔をした傲光が現れた。
傲光が呼びもしないのに現れるのは珍しい。
「御屋形様、大体のことは想像がついております。ここは私にもお力添えさせてください」




