対魔神戦④
案内人の特別な秘術で結界の外へ出たニイナと亮はすぐに四天寺家と王家に連絡を取る。
連絡を終え再び結界内に戻ろうとすると案内人が顔を横に振った。
「お二人はこのまま結界の外でお待ちください」
「……⁉ 私は戻ります」
「申し訳ございません。これは雨花様の指示でもあります」
「待ってください! 私は……!」
「強力なこの結界は外側と内側が完全に隔絶されている状態です。中に戻ってはせっかく到着された両家の応援はどうするのですか? 私も応援が合流次第、中に一緒に戻るように言われておりますのでご容赦ください」
やられた、とニイナは瞬時に悟った。もちろんこれは悪意のあるものではと分かっている。
雨花が二人の安全を保つために言っているのだ。
その時だった。
外側でも分かるくらい黄家の秘術で張った結界が大きく波打ち、大きく歪む。
何かは分からない大きな力で大きなダメージを負っているようだった。
案内人が「これは⁉」と驚愕する。
ニイナの胸がざわめく。
どこかで経験したことのある恐ろしい感覚を覚えたのだ。
「祐人!」
何故だかは分からない。
だが思わず祐人の名前を叫ぶ。
(これを私は知っている! これはミレマーで感じたもの)
ニイナはその場に跪き両手を握った。
そして直感的に祐人の身に何かが起こっていることを確信する。
その祐人がどんどん遠い存在かのような、まるで他人にもどるような、まるで出会ってもいないかのような、ニイナにとって決して受け入れられない感覚が支配していく。
(祐人があの時のように私の中から消えてしまう……いえ、駄目よ! それは認めない。絶対に受け入れられない)
ニイナの脳裏に祐人の横を走り去った自分が思い出された。
これを思い出すと、祐人のその時の気持ちを考えると、罪悪感と悲しみと寂しさが全身を包む。
(祐人、好きよ。だからあなたは私から消えない。消えるわけがないの。だって私はもう思い出したから。そして今度は絶対あなたを迎えに行くわ。二度とあなたの横を通り過ぎることはないの!)
ニイナはその場で爪が食い込むほどの力を込めて両手を握り祐人の姿を想い続けた。
◆
そこにいるすべての人間が祐人に見入ってしまった。
祐人の体の中心軸から仙氣が吹き上がり左半身から霊力、右半身から魔力があふれ出る。
そしてその体中に唐草文様のような黒い影がザワザワと右半身から現れ、眼球すらも侵食していく。
「お、お前。それは何だ」
機関の定める最高ランク、SSランクを得た王俊豪が初めて驚愕の目を祐人に向ける。
もちろん、英雄と琴音も同様だ。
「祐人さん」
(精霊が騒ぎすぎて、たくさんの精霊が同時に声を上げていて何を言っているのか分からない)
だが祐人は何も答えずに指示を出す。
「あいつを僕にくぎ付けにします。みんなはさっきの話通りに動いてください!」
斉天大聖は祐人の姿に目を見開く。
「こいつは何だ……。この斉天大聖の境地に迫るだと」
この時、斉天大聖から黒い煙のようなものが背後に抜けていく。
「てめえ、しぶとい野郎だ」
斉天大聖が如意棒で振り払うがその黒煙はそれを避けて距離をとる。
〝ええい、忌々しい、猿が! 貴様のせいでこの我が顕現に失敗しただと〟
「あ、あれはまさか⁉」
英雄がおぞましい魔力の塊のような黒い煙に叫ぶ。
それは間違いなくアシュタロスの本体であった。
〝大事な依り代が……このような獣に! うん?〟
アシュタロスは動かないでいる【ペルシアの悪魔】を見つける。
〝仕方ない、今は何としてもこの世界で橋頭保を築かなくてはな〟
すると魔力の塊にシャフリヤールの体と首を失ったマトヴェイ、そしてかつて蛇と言われた能力者たちの体が引き寄せられていった。




