対魔神戦③
(祐人……相手は魔神クラス。この状況はミレマーの時と近いです)
この時のニイナは堂々した振る舞いとは逆にその内心は不安と焦燥に満たされていた。
ニイナは前を向き表情を変えないままに胸の中心を右手でギュッと握りしたのだった。
◆
限界を超えて力を放った大威は体がいうことをきかずその場で秋華を見ていることしかできない。
「ク……こんな時に何もできんとは」
〝やめておけ、大威。不完全な状態で我の力を引き出したのだ。無理をすれば死ぬぞ。今はあの者たちに任せるしかない〟
「し、しかし」
秋華の姿をした斉天大聖が右拳を握り「この姿はやりづらいな」と言うと秋華の体が一瞬光に包まれる。英雄が驚き目を細める。
「なんだ⁉」
光がおさまると秋華の姿は消え、長身で鎧を纏い右手には伝説の道具、如意金箍棒を持つ斉天大聖が現れた。
「チッ、秋華の奴、装備品まで完全に降ろすとはな。どれだけの才能を持っていたんだ」
俊豪が不敵に笑うもその額には汗がにじんでいる。
英雄と琴音は体が勝手に緊張し、硬直し思考も止まる。
何故ならば眼前に魔神クラスの力を持つ神霊の完全体がいるのだ。
それの意味するものは一都市の危機。
どのような高位能力者でも、いや高位能力者であればこそ、その恐ろしさを肌で魂で感じ取ってしまう。
(あ、秋華、おまえは本当にそこにいるのか? 秋華の存在がまったく感じ取れない)
魔神を前にして恐怖で英雄と琴音は体の震えを止めることができない。
だが……、
祐人だけは違った。
祐人はいまだに両手両足に魔法陣を発現させながら静かに斉天大聖を睨みつけている。
皆の前方に立ち完全体の斉天大聖の存在圧にも微動だにしていない。
(このガキは本当に何者なんだ。まるで魔神との戦いは初めてではないようだぜ。だがそれは後だ。それよりもだ。今は……心強いぜ!)
俊豪は祐人の後ろ姿を見て「ハンッ」と笑う。
「おい、ガキ! 俺が前に出る。お前、奥の手があるんだろう? それをかますまで時間を稼ぐ」
俊豪は祐人の魔法陣を何かしらの超スキル発動の前段階ととらえたようだった。
「いえ、大丈夫です」
「はん?」
「あいつは僕が抑えます。それよりも俊豪さんは大威さん、英雄君、琴音ちゃんを守ってください」
「なんだと? お前、正気か?」
「正気ですよ」
抑揚はないが祐人の声色はどこか寂し気なものがあり俊豪は眉をひそめる。
「ただ、みんなには逃げてもらったり、楽をしてもらうつもりはありません。みんなは秋華さんを呼び戻してもらいたいんです」
「馬鹿な! お前は正気じゃねーようだ。この期に及んでそんな夢物語を……」
「俊豪さんはあいつのそばに英雄君や琴音さんが近づいた時に二人の安全を確保してください」
「だから……ぬ⁉」
祐人から凄まじい仙氣が吹き上がる。思わず俊豪も見入るほどの仙氣だ。
そして祐人は濃密な仙氣に包まれた体で振り返った。
「英雄君、琴音ちゃん、恐れるな! 僕が秋華さんを元に戻すチャンスを何度でも作る! 二人は秋華さんを信じろ! できるか? じゃない。やるんだ!」
そう言い祐人は最後にニッと笑った。
この祐人の言葉に英雄と琴音がハッとする。
自分たちのするべきことを、ここにいる自分たちの理由をまだ祐人は見失っていない。
それどころかこれからが本番だと言っている。
そしてその眼はできもしないことを妄想で話している人間のものではない。
いや、これまでの祐人との関りで適当なことをこのようなときに言う人間だはないことを知っているのだ。
すると二人の体から震えが消える。
琴音は最後まで秋華を救うことを諦めない祐人の姿勢に心が湧きたつ。
英雄は今までにないほどの集中力が増していく。
「分かりました!」
「分かった、堂杜。だが一つだけ言わせろ」
「何?」
「これが終わったらお礼をさせろ。断るなよ。遠慮もするな! そんなのは気分が悪いだけだ!」
英雄の思わぬ申し出に祐人は目を大きく広げた後、笑った。
「分かった。必ずお礼をしてくれよ、英雄君」
英雄は「ふん」と横を向きながら頷く。
この時、この二人の少年のやりとりに琴音も笑みを零した。
だが何故か……祐人の笑顔だけがあまりに印象的で引きこまれてしまう。
(何故、祐人さんはそんなに寂しそうに笑うのかしら。そんなのまるでもう二度と……)
「馬鹿野郎! 酔ってるんじゃねー! しっかりしろ! お前らは魔神ってやつを知らねーんだ!」
俊豪が憤った声を張り上げた。
「おい堂杜、こいつらを巻き込むなんてどういうつもりだ! ここは俺とお前であいつを倒すんだ! あいつはもう秋華じゃねー!」
「俊豪さん、あなたがいなければこんなことを考えません。みんなをお願いします」
そう言い祐人は斉天大聖に体を向けて両手に握る二振りの刀を構える。
「ほう、来るか。こちらも準備はいいぜ」
「おい、待て!」
「行きます」
言うや祐人の両手両足の魔法陣が弾けた。




