対魔神戦②
秋華の姿を奪っている何かがニヤリと笑う。
「なんだぁ? お前ら俺とやんのか?」
睨みをきかせると霊力が吹き荒れ王俊豪はじめ皆が吹き飛ばされぬように霊力で体を覆う。
「チイ、またとんでもねー奴に……はん? 霊力? 何故、霊力だ」
「はい! これはアシュタロスではありません。アシュタロスなら魔力のはずです」
祐人がおかしい、と言ったのはこれだ。
「じゃあ、何だ! 何が起きていやがるんだ」
「まさか堂杜、あれは」
「ああ、英雄君」
「おいおい、何を言ってるんだ、お前ら。元々、こいつは俺がもらう予定だった体だ。それを横から変な奴をよこしやがって。しかも他次元から呼び込むたぁ、いい度胸だ。この世界で神格を持つ俺たちがな、最も嫌う行為だと知らねえのか!」
「クッ」
「フウ!」
秋華からさらに増した霊圧で俊豪たちは重力が数倍に増したような感覚にとらわれる。
「あれはさっきのマトヴェイとかいう奴の話を信じれば……斉天大聖だ」
「斉天大聖だと⁉ 何だよ、それは⁉」
驚く俊豪に英雄がマトヴェイから聞いた顛末を簡単に説明した。
「そんな馬鹿なことが……あるんだろうな。あれを見りゃな。秋華、いくら黄家に縁深い神霊とはいえお前なんて奇跡を起こしてるんだよ。世界をひっくり返す気か。こりゃ依頼を安く値切られたもんだぜ」
◆
黄家の屋敷を覆う結界が揺れて弛む。
「あ、雨花様! 一体……」
結界を張る黄家の責任者から悲鳴が上がった。
今、黄家の庭に集まる黄家に仕える幹部とニイナ、アローカウネ、楽際、そして、俊豪と共に来た亮がいる。
亮は地下からくる霊圧に深刻な表情になりながらタブレッドを手早く操る。
「す、すごい……次元震は出現の仕方が特殊だからさほど出なかったですが、その後の各力場の係数がドルトムント魔神の時を上回るレベルだよ」
亮の分析に雨花は眉間に力を込めて周囲を一括する。
「堪えなさい! このような霊力圧を放つ存在が外に出ればドルトムントの再来となるわ!」
ドルトムントで起きた魔神顕現の際はルール地方の産業、街が大きなダメージを受けた。
それをこの上海でも起きる可能性があるのだ。
「は、はい! で、ですが機関への応援は頼めないでしょうか」
「それはできないわ。発端が黄家の秘儀【憑依される者】と知られれば我が家の責任問題になる。それだけじゃなくこのようなリスクのある術はどういうことか、とその神髄の開示を迫るお馬鹿な自称名門家系も出てくるでしょう」
正直に言えば応援を頼みたいところではある。大威、英雄、秋華の無事を誰よりも祈っているのは雨花なのだ。
だがこのような状況でも雨花は行動の一つ一つの後の影響を考えてしまう。
もし自分の命令でこの事態の後、黄家が黄家でいられなくなることはどうしても避けたい。
(雨花さんの言うことは正論だ。機関の中にも勢力争いは存在する。でも、この事態はそのようなレベルを超えている。俊豪がいるから何とかしてくれると思いたいけど、もし手に余ったら黄家がどうとか言っている場合じゃない。それならせめて王家に……)
亮がそのように考えていると凛とした声が上がった。
「雨花さん、よろしいでしょうか」
「どうしましたか、ニイナさん」
「はい、提案なのですが四天寺家に応援を頼むのはいかがでしょうか。四天寺家ならチャーター機を用意して六時間以内に上海まで来てくれると思います。四天寺であればこの事件の後の余計な勘繰りはしないと思います」
「それは……」
雨花はニイナの突然の提案にいくつもの疑問とメリット、デメリットが浮かび即答ができなかった。
「大丈夫です。私が祐人の名前を使って応援を頼めば必ず四天寺は動きます」
まるでニイナは雨花の考えを読んでいるかのように先回りに説明をしていく。
「四天寺家は先の四天寺が襲われた時の件で祐人に大きな借りがあります。また四天寺の本音は祐人にむしろ貸しを作っておきたいと考えているのです。理由は言わずもがなですよね」
それは分かる。これだけ才気があふれ、信用のおける人間性を持った少年だ。
彼の本来の実力と人となりを知ればどの家だって良い関係を持っておきたい。実際、黄家としても同じだ。
しかし……、
「心配いりません、私は祐人のマネージャー兼秘書という立場で来ています。それに四天寺のことですから私と祐人が上海に来ていることぐらい把握しているでしょう。ですから私の言葉でも必ず来ます。もちろん、その後に黄家に恩を売りつけようとするかもしれないですが、それもひっくるめて祐人に貸しを作ったという方向性にまとめたがるはずです。それぐらい朱音さんは祐人にご執心です。ですが今回はそれを使いましょう」
「なるほど……」
「ですが念のために王家にも応援を頼むのが良いです。一つの家に頼むのではなく二つの家に頼めば恩や貸しは分散しますし、何よりも王家は黄家よりにものを考えてくれるはず。後々の何らかの交渉の際に負い目を見る可能性を減らせます」
亮はニイナの案に驚いた。
(この人は一般人のはずだよね。いや、それよりもとても良い案だよ。こんな危険な場所でこんなに冷静に意見が言えるなんて、すごい有能な人だ)
雨花は目を見開き、すぐに落ち着いた眼でニイナを見つめる。
そしてフッと笑った。
「やっぱりニイナさん、英雄の嫁に……」
「それはお断りします」
笑顔だが食い気味でニイナが断る。
「あら、残念。亮さん、王家に連絡を頼むわ。そしてニイナさんも四天寺への橋渡しをお願いできるかしら」
「承知いたしました」
「一旦、結界の外に出ないと連絡は取れません。案内をつけますので早急にお願いします」
そう言うと亮とニイナ、アローカウネは屋敷の外側に向かった。
「何ていう子かしら。将来の女傑確定のような子だわ。本音は祐人君の心配と支援。でも出てくる言葉は提案と交渉。それも有益なカードを切ってくる。素晴らしい子ね」
ニイナの堂々とした後ろ姿に雨花は緊張感の中で感嘆していた。




