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【書籍14巻発売!・コミカライズ全2巻】魔界帰りの劣等能力者  作者: たすろう
魔神の花嫁と劣等能力者

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魔神と少女⑪

 俊豪と祐人が秋華の周囲を駆け抜けていく。

 常人の目には追えぬスピードで刀と偃月刀が火花を散らし外からは移動していった軌道上にその火花だけが残こされていく。

 俊豪は今、手を抜いていない。

 そう、俊豪は全力で戦っている。

 だが機関の定める最高ランクに位置するSSの【天衣無縫】がランクDの少年を押し切れないでいる。

 本来これは異常事態である。ランクSSの意味を知る者たちにとってこの状況を信じられる者はいないだろう。


「ぬう! 吠えろ、青龍刀!」


「仙闘術 流水舞脚!」


 ところが当の本人である俊豪は特に驚きも狼狽えもしていない。

 目の前に現れた強者を今まさに戦っているにもかかわらず、その実力を疑うなど俊豪にとって愚かなことでしかないのだ。

 天衣無縫にとって重要なのは己の全力を受け止めている能力者がここにいるという事実のみ。

 何故ならば自分がそうだった。

 現在【天衣無縫】とまで言われた自分がかつてその実力を示した時、誰もが最初、自分の実力を疑ったのだ。このような若輩がそのような力があるわけがないと。

 俊豪はそれを言う者たちを鼻で笑ったものだった。

 なんと愚かな連中だと。

 こういった連中は仮に自分と対峙したとき、実力を認めないままただ死んでいくつもりなのかと蔑んだ。


(平和な時代に生まれた能力者たちの現実なのかもしれないがな)


 俊豪が青龍刀を繰り出す。祐人は倚白で軌道を逸らし俊豪の懐へ踏み込んだ。


(だがこいつは違う。他の高ランクの能力者とまるで別物だ!)


 一撃は俊豪の方が上回るが祐人は力を分散させるように最小限の動きでいなす。懐に入った祐人は神速の蹴りで俊豪の胸元を狙った。それを俊豪は偃月刀の柄で弾き、わずかに移動速度を緩める。それは祐人の追撃を予測して青龍偃月刀が威力を発揮する間合いに誘ったのだ。

 しかし祐人はそれに乗らずに動きを一瞬止めて倚白を両手で構えた。


(ハハッ! こいつはまさに生と死の境界を読んでやがる! どれだけの場数を踏んでやがるんだ。威力は俺に分があるが武技は俺を凌ぐか!)


 そして凄まじい攻防が再開した。

この時、俊豪は祐人の実力は疑わないがその出自には疑問がわく。


「おい、ガキ」


 俊豪は青龍偃月刀を祐人へ向ける。


「お前は何者だ」


 祐人は質問には答えず倚白を正眼に構える。


「答える気がないのか答えられねーのか。まあいい。この世界じゃ能力を隠している奴らはいくらでもいる。たしか亮から聞いた話じゃお前は天然能力者という話だったな。真剣に聞いてなかったからうろ覚えだが」


「だから何です。何が言いたいんですか」


 俊豪はまなじりを吊り上げる。


「ふん、天然能力者なわけがないだろう、ってことだ」


 この時シャフリヤールたちと黄親子が凄まじい攻防を繰り広げ祐人たちの間に烈風が駆け抜けていく。


「お前が仙道使いなのはもう分かっている。だがそれだけでも全然別の疑問がわくんだわ。まずお前は仙道使いらしくない。仙道使いはほぼ周囲に興味を持たねえ変わり者ばかりだ。だがお前はこんなことに首を突っ込むわ、真剣に他人の心配をするわ、どうにもおかしい」


 仙道使いと見ぬかれたことを祐人は別に驚かない。仙道使いの発祥は中国だ。そう考えれば中国出身の能力者たちが他の国の能力者に比べて仙道使いが身近であってもおかしくはない。

 実際、秋華や英雄でさえそうだった。


「仙道使いは色々ですよ。別に僕みたいのがいても不思議じゃないでしょう」


「違うな。お前の武技の神髄は中国古来の剣技ではねぇ。いや、随所にそれを感じるし数々の武功の奥義を会得しているのは間違いない。それも天才と言われる人間が至る境地くらいでは決して身につけられない隔絶した内功と心法を操っているだろうことも分かっている。だがそれでもなお、お前の中心をなす、土台となる剣技は別物だ」


「一体、何を言って……」


「つまりだ。お前は能力者家系であり、しかも途方もないほどの力と術を伝えている超越者たちと予想する。そんな家に生まれているにもかかわらずどういう経緯で仙道に入門できたのかは想像もつかんし、そもそもそんな伝手がどうしてあるのかさっぱり分からんが俺はそうとしか思いつかなかった」


 俊豪が青龍刀の構えを解き肩に担ぐ。


「だから俺はお前の出自、お前の家に興味がある」


「全部、想像でしょうに」


「そうだな。今のところはな。しかしな、少しだけ心当たりがあるんだわ、俺にはな。確かめる方法も二つほど思いつく」


 確かめる方法があると聞き祐人は聞き返す。


「……それはなんですか」


 変に興味があるように思わせるのは悪手かとも考えるが万が一、堂杜家のことを言っているのであれば聞いておく必要がある。


(まさかとは思うけどね)


(ほう……今、僅かに殺気が出やがったか? まだ俺の心当たりが正解かは分からんがな)


 能力者の家系には秘匿事項などごまんとある。こんな言い方をされれば何かしらの秘密に触れることぐらいはあるだろう。

 だから俊豪は特に気にしはしなかった。

 しかし、もしビンゴなら、


(我が王家の持つ伝承にも関わる。そうなると母ちゃんがなぁ……ああ、面倒くせぇ)


「お前の質問は心当たりの方か? 確かめる方法か?」


「両方ですかね」


「そうだな、一つはお前がここで素直に答えること。もう一つはとことん戦うことだ」


 祐人は拍子抜けした。それで何が確かめられるというのか。


「そんな顔するなよ。一つ目はあれだが、二つ目はそうでもないんだぜ。お前を戦いの中で追い込めば追い込むほど能力者は自分の家系独自の術の色が濃くなる。たとえばお前の場合、先程の仮定が正しければ仙道とは違う術や剣技が顔をだす。それは隠しようもないもんだ。もしお前の本当の能力が霊剣師であれば王家はひっくり返るわ」


「……⁉」


 祐人の顔色が変わった。


「キャー‼」


 同時に琴音の悲鳴が響き渡る。

 祐人は即座に秋華の方向に顔を向ける。

 俊豪も異変に気付き、今まで固まっていたはずの秋華へ視線を移した。

 秋華から凄まじい霊力が解き放たれ周囲に息をするのも辛くなるような霊圧を受ける。


「チッ、秋華が体の取り合いに負けたのか⁉」


「秋華さん⁉ まずい! 琴音ちゃん、離れるんだ!」


 いつの間にか秋華に抱き着いている琴音が霊圧で吹き飛ばされそうになっている。

 しかし、琴音は必死に秋華の肩にしがみつき離れようとしない。

 するとついに秋華の目が開いた。

 その眼は決して常人のものではない。


「フッ、ようやく自由を得たな」


 祐人と俊豪は秋華から放たれるプレッシャーに戦慄が走る。

 祐人と俊豪は同時に理解した。



 今まさに……魔神が顕現した。



 だがこの時、俊豪はもう一つ気になることがあった。


(さっき……このガキの顔色が変わった時、秋華の異変のせいなのか? 俺が霊剣師と言った途端に顔色が変わったのではなかったか?)




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