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【書籍14巻発売!・コミカライズ全2巻】魔界帰りの劣等能力者  作者: たすろう
魔神の花嫁と劣等能力者

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魔神と少女⑨

 英雄の戦い方が変わる。

 今まではその場に踏みとどまりシャフリヤールの連撃をはじき返すことに専念していた。だが今は踏み込む。それだけでなく追撃も視野に入れた動きを見せた。

 またそれだけではない。

英雄の決死の覚悟は今までにないほどの集中力を生んだ。

すると英雄の霊力がそれに答え始める。もともと持つ英雄の高い感応力は秋華の例外を除けば黄家史上でもトップクラスのものだ。

それがこの時に開花し始めた。

上級神霊ク・フォリンとのリンクで授かっていた鎧や槍がさらに輝きが増し、鎧の各所に細やかな紋様が出現し、槍も形状がより美しいものに変わっていく。

よりク・フォリンが再現されていったのだった。


「はん! 生意気な!」


 だがそれでもシャフリヤールの攻撃圧は衰えない。こうなって初めて英雄は今、対峙している能力者はとんでもない相手なのだと頭ではなく肌で理解した。


「ク・フォリン! 装備や力だけじゃ足りない。お前の槍術をもっと俺に降ろしてくれ!」


〝ほう、そんなことを言うようになるとはな。だがお前の体がついてこられるかは知らぬぞ。無理をすればお前の体は……〟


「構わない! 早くしろ!」


〝フッ、よかろう〟


直後、英雄の動きが達人の武芸者かのように変容していく。神話上の英雄であり上級神霊であるク・フォリンの動きをトレースし始めた。


 一方、俊豪の偃月刀と祐人の倚白が打ち合うこと十数合に達する。

 その度に発生する衝撃波は先ほどの比ではない。そのため、その衝撃波で秋華の頬に傷が入り髪が散った。

 祐人が一瞬、それに気を取られる。

だが同時に距離のある所から少女の凛とした声が上がる。


「風よ、守って!」


 琴音が風精霊術で秋華の周囲に防壁を築いたのだ。


「琴音ちゃん、ナイスだ」


 思わず祐人は琴音の機転に賛辞を贈る。

 だが彼女はそれだけではない影響力を発揮し始めた。

 英雄たちや祐人と俊豪の戦いに介入する余地も能力もないと理解するとそれ以外の補助に徹底し始めたのだ。

 これが結果的に祐人たちが戦闘にだけ集中できる場を作っていく。

この時、大威はまったく動かなかった体がようやく自由を取り戻し始めたところだった。

 しかし、まだ戦列に加わるには時間がかかる。


(ぬう、英雄、堂杜君、今少し持ちこたえてくれ)


「黄家の小僧が!」


 シャフリヤールの双曲剣が舞う。

 いや、双曲剣ではなくなったというべきだろう。

何故なら両手に曲剣を持ちつつ両肩の上に曲剣がさらに二刀出現したのだ。

そして両肩の上に浮かぶ曲剣はまるでそれぞれが意志を持っているかのように英雄の背後に回り込む。


「諦めがわりーぞ! 魔神の顕現は避けられねぇんだ。とっとと死ね」


 これに霊力循環を完成させつつある大威が唖然とする。


(霊力で自在に操る曲剣⁉ あれはカーレーン士族の戦闘術! しかしカーレーン士族は今、機関に属しているはず。ではあの者は⁉ いや……)


四天寺を襲った者たちに連なっていることに考えが及ぶと大威の脳裏に能力者大戦時、カーレーン士族から生まれた裏切り者の名が浮かぶ。


(やれやれ。ようやく本気ですか。キレやすい割にスロースターターなんですよね、この方は)


 マトヴェイは笑みを零す。

 かつての能力者大戦時、地中海周辺で数々の能力者たちを屠ってきた男だ。本来は暗殺術を得意とした一族の出身だがシャフリヤールのそれは暗殺術とはかけ離れ周囲を巻き込む破壊力と派手さがあり、何よりも彼の標的になった者たちの亡骸は総じて四肢が切り刻まれたように分解されていた。

そうした残虐な殺し方からついた二つ名は、


【ペルシアの悪魔】


 この名は当時の能力者たちを震え上がらせ、対策は「標的にならないことを祈る以外なし」とされ対人戦闘最強クラスと言わしめた。


「小僧、消えろ。お前は俺と対峙するには小物すぎる」


「英雄、気をつけろ! 曲剣は目に見えるものだけじゃない!」


 大威が思わず声を張り上げた。




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