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【書籍14巻発売!・コミカライズ全2巻】魔界帰りの劣等能力者  作者: たすろう
魔神の花嫁と劣等能力者

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魔神と少女⑥


 アシュタロスはリアル世界で俊豪や祐人たちと事を構えながら同時に秋華の精神領域内では秋華と争いを繰り広げていた。


(ククク、もうすぐだ)


 今、精神世界でアシュタロスは本来の姿に戻り秋華を追い詰めていた。


「何なのよ! あいつは」


 秋華は何もない空間を走り続けていた。時折、後ろへ振り返りアシュタロスの姿を確認する。

 そして数度目の確認をするとついにその姿はなかった。

 どうやら何とか撒いたようだったが問題は解決していない。


「どうせすぐに来るわ。一体、どうすればいいのよ!」


 秋華は頭を抱える。

 正直、何をどうすれば良いのかまったく思いつかない。

 何をするにも自分の力が弱すぎて策を巡らすレベルにすら達していないのだ。


「何も通じない! それどころか……」


 涙が浮かぶ。

 実は何度も秋華はアシュタロスに立ち向かっていた。

 だがその度に撃退され、それだけではなく首や腕、そして脚の骨を折られた。

 直前の戦いではアシュタロスの拳が腹部を貫き内臓をえぐられた。

 秋華は鼻や口から血を垂れ流しながらなんとか逃亡を図る、その繰り返しだ。

 それはいきなり現れて心と体をよこせと要求され、それに抗えば戦闘とも呼べない一方的なダメージを与えられるだけ。


「何なのよ、何なのよ。何で私がこんな目に合うのよ。天才? 才能? そんなのどうでもいいわよ。そんなの別に欲しがったことなんてないわ!」


 現実の視界が時折、脳裏に入ってくる。

 アシュタロスの支配の揺らぎがあるのか、たまに一瞬の場面が見えたりした。

 自分に対して英雄や祐人が何かしら叫んでいるのも見えた。

 何を言っているかは分からなかったが、きっと自分のために戦っているのだろう。

 そういう人たちだ。間違いない。

 だから勇気が湧きアシュタロスに抗ったのだ。


(でももう、どうしたら。修行して強くなったはずなのにまったく意味がない。何にも届かない)


 秋華はついに走るのを止めて歩き出した。

 精神世界のせいか骨が折れたままでも腹部に穴が開いたままでも動いていられる。

 秋華は歩く振動でプラプラと揺れる右腕と見つめ折れた脚を庇いながらとにかく前に進む。

 すると何もない空間が突如、砂漠へ変わり熱気と砂埃が喉を焼いた。

 実は何度もこういった環境変化が起きる。自分の精神状態なのか侵食してきたアシュタロスの影響なのか分からない。

 だが今はどうでもいいことだ。

 今まで感じなかったがとても息苦しい。

 絶望感が全身を覆いだす。

 秋華の目が段々と虚ろなものに変わっていったその時、突然世界が揺れた。

 大地震が砂漠を襲ったかのようで秋華は立っていられずにその場に手をついた。


「今度は何よ……もう」


 何もかもが嫌になる。

 これだけの状況に陥っても一息つく暇もない

 気のせいか両頬が妙に熱くヒリヒリしてくる。


(何? 地震に加えて熱風で頬が焼かれているのかしら……うん?)


「違う! 痛い! 本当に痛いわ! 何よ、これ!」


 秋華は飛び起きて自分の頬を両手で覆う。


(すごい痛い! でも何だろう? 今までの痛みとは違う。何というか懐かしいというか……リアリティがるというか)


 すると遥か遠くから人の声のようなものが聞こえてくる。

 何かを叫んでいるようだ。

 しばらくすると段々と聞き覚えのある声と分かる。


「この声は……お兄さん!」


 そう分かった途端に秋華は自身の肉体の視界を取り戻した。

 目の前で祐人が自分の頬を張り大きな声を上げる。


「秋華さん! いい加減、起きろ! 思い出せ!」

「黙れ! お前には用はない。秋華さん! 君はすべてを失う覚悟をしただろう! それですべてを拾おうともした! 挙句に自分は何を望んでいいか悩んだのだろう! じゃあ、師匠として僕が答えを押し付ける」

「すべてを拾え! 失ったものがあっても変えてしまったものがあっても日和るな! 君は君のものだ! 昔も今もこれからも! それを誰かのものにするんじゃない!」


(お兄さん!)


 秋華はこの一瞬で外の状態を把握した。

 俊豪が自分の依頼に忠実に殺しに来ていること。

 それを阻止しながらアシュタロスに主導権を奪い取られた自分とも戦っているのだ。

 しかも兄の英雄と共闘しているのも分かる。


(お兄ちゃんと仲良かったわけじゃなかったよね?)


 そう考えるがこれは秋華に勇気と余裕が生まれたことの証左でもある。

 だがこの時、祐人や英雄、琴音などの外の状況は再び完全に見えなくなった。

 同時に辺りを薄暗い霧が漂い視界が悪くなっていく。


「もう諦めるがよい。もう貴様に何かをするという選択肢すらないのが分からないのか」


 秋華の正面から山羊のような角を生やし切れ長の目をしたアシュタロスが現れた。

 秋華は眉間に皺を寄せる。


「貴様は何か勘違いをしているのだ。何も貴様がすべて消えてしまうわけではないのだ。互いに存在を分け合うに過ぎない。我が貴様に貴様が我になるということだ」


アシュタロスの口調は思いの外、優しさがある。


「だからこちらへ来い。貴様も気になるだろう? 私の力が貴様自身のものになるという意味でもあるのだ。使いたいだろう? 我の力があればおよそほぼすべての事柄が些細なものになる。それは苦しみからの解放でもあるのだからな」


 秋華は目を途中から何も言わずに瞑り聞いている。

 それを観念したと受け取ったアシュタロスは片側の口角を上げる。

 アシュタロスが秋華に近づこうとすると秋華が目を開いた。


「お断りよ。悪魔」


「何?」


「お断りと言ったのよ。はん、分かりやすいわね。高圧的に出ていたくせに今度は優し気に話す。典型的な悪魔……いえ、何処にでもいる普通の悪魔よね、あんたも」


 アシュタロスは足を止めて腕を組んだ。


「ははーん、そんな平凡な悪魔みたいなことをしてくるということは……あんた、意外と焦っているでしょう。上手くいってなくて、ちょっと不安にもなったということかしら?」


 秋華は挑発するように見下した笑みを見せる。こういった笑みを作るのがとても得意な少女である。


「そりゃそうよね、ランクSS王俊豪に襲われて、それに何といっても堂杜のお兄さんにも挑まれたらねぇ。さすがの魔神も逃げ出したいというところかしら?」


「ふむ……安い挑発はいい。もういいだろう、我は貴様とのくだらない会話で時間をかけるつもりはない」


 アシュタロスが右手を上げるとその足元から数十のいばらが伸びて秋華を襲う。


「その体で喧嘩を売る元気があったのは認めてやろう。だがここまでだ……む?」


 足に腕に首の骨まで折れていたはずの秋華が素早くその場を蹴って後方に飛んだ。


「き、貴様……それは」


「ふふん、そんな簡単に降参するわけないでしょう。それに挑発してすぐに捕まるとか、そんなへまもしないわよ」


 見れば秋華の体はいつの間にか修復されてすべてダメージを負う前の状態に戻っている。


(まさか、こやつ主導権を取り戻し始めたとでもいうのか)


「ちょっとお兄さんがあそこまですごい人だということは読めなかった。そのせいでお兄さんと【天衣無縫】が喧嘩になっちゃった。私が早く行って止めないといけないの」


 それと、と秋華は付け加える。


「お兄さん、私の透き通るような頬を張ったのよ! 超痛いじゃない! 絶対に責任をとらせるわ!」




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