魔神と少女④
この瞬間、祐人の背後にいるアシュタロスの魔力がはじける。
「どけぇ! 下郎どもが!」
今しがた祐人に助けられたはずのアシュタロスが不愉快そうに声を上げる。
俊豪は難なく後方へ避けるが祐人は背に衝撃波を受けてしまい前方に吹き飛んだ。
「堂杜! 掴まれ!」
英雄が咄嗟に動き、祐人へク・フォリンの霊槍を伸ばす。
祐人は霊槍の胴体を掴んでその場に着地した。
それを確認するとすぐに英雄は俊豪に詰め寄った。
「俊豪さん、今のはどういうことですか。あれは秋華なんですよ!」
「そうだな、暴走してしまっている秋華だ。今はもう秋華の姿をしている魔神にすぎない」
「なっ⁉ そんなことはないです! 秋華はいるんです。きっとあの魔神と戦っている。それを俺らが外からフォローして呼び覚ませば……」
この時、アシュタロスは続けて攻撃を仕掛けようとしたが、この英雄と俊豪のやり取りを聞いて手を止めた。
そして思案するようにこれを眺めるとニヤリと笑みをこぼした。
さらにはシャフリヤールたちにも手を出すなと制止する。
王俊豪と祐人に警戒されていたというのもあるが、それよりもこの状況の方が自分に有利とアシュタロスは踏んだのだ。
俊豪はその様子を確認しながら英雄に顔を向ける。
「おい、英雄。それはどうやってやるんだ?」
「そ、それはとにかく声をかけて……」
俊豪は嘆息して祐人や楽際へにも視線を移す。
「それをすれば秋華の意識が戻るのか? 秋華が魔神の意識を押し退け主導権を握り魔神を体の外へ追い出す。それは可能なのか? おい、楽際! お前はどう思うんだ?」
「そ、それは……分かりません。このようなことは記録にもありません。ですが、可能性がないわけでは……!」
「もういい。いいか、俺の考えを言うぜ。確かにまだあのアシュタロスは完全に秋華の体を掌握していない。だがな、徐々に力を増してるぜ、あの野郎は」
英雄や祐人たちは目を見開く。
「今、ああやって俺たちにこんな話をする時間を与えているのはな、この間にも秋華の体を確実に乗っ取っていってるんだ。分かるか? あいつはな、こうしている間にもこの現世に完全に根をおろそうとしている」
アシュタロスは何も言わずに腕を組み不敵な笑みを浮かべている。
「それで秋華の才能、魔神すら受け止めることができる黄家最高の才能を自分の触媒として喰おうとしてるんだ。もしこのままあの魔神が完全な力を持ってここにいたとしよう。その時はな、この俺でさえ苦労する」
「だから……今のうちに秋華さんごと倒してしまおうって言うんですか」
祐人が口を挟むと俊豪はニッと笑い頷いた。
「まあ、そういうこった」
祐人と英雄は口を噤む。
「そ、そんな……」
琴音はやるせない気持ちでつぶやく。
「いいかお前ら、俺を非情な人間と言うなよ。これは魔神を知るものなら誰でもこう判断するだろうことを言っているんだ」
「だ、だけど! 秋華は……」
「落ち着け、英雄。何もお前の気持ちが分からない訳じゃない。俺だってこんな胸糞悪いことをしたい訳がねーだろ。秋華のお願いがなけりゃ、こんなところにも来ちゃいねーよ」
「え? 秋華……のお願い?」
「ああ……まあ依頼を受けた。思い出せばな、やっぱり秋華は天才だわ。こんなことまで想定していたかは分からないが、自分の暴走の可能性は常に頭に入れていた。だから秋華はな、保険をかけていたんだ」
俊豪は珍しく困った態度を見せ、そしてぶっきら棒に言い放った。
「もし自分が暴走したら殺せ、っておれに依頼してきたんだ、あいつはな」




