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【書籍14巻発売!・コミカライズ全2巻】魔界帰りの劣等能力者  作者: たすろう
劣等能力者の受難

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次戦対策


「「「……」」」


「ちょっと、さっきから何なのよ!」


 瑞穂は茉莉、マリオン、ニイナのおかしな態度に、ついにしびれを切らした。


「なんでもないわ」


「いえ……」


「別に……」


「なんでもないわけないでしょう! さっきからおかしいわよ! ちょっと静香さん、なんなのこれは」


「あはは……」


 瑞穂は三人の態度の理由が分からずやきもきする。

 この大祭のトーナメント初戦が終わり、トーナメントに進出してきた参加者すべての戦いを確認したことから、それぞれの参加者の特徴を分析しようとみんなで事前に話し合っていたのだ。

 それで自分たちなりの分析を祐人に伝え、祐人の今後の対戦に少しでも有利な情報や対策が立てられればというものである。

 そういう話だったので、瑞穂も当然、自分なりの分析をして仲間の部屋にお忍びで来たのにもかかわらず、茉莉、マリオン、ニイナの様子がおかしいのだ。

 するとその三人が小さな円陣を組み互いの頭をくっつけながらコソコソと話し合いを始めた。


“どうします? 瑞穂さんは朱音さんに取り込まれている可能性はないんですか?”


“ニイナさん、その可能性は低いと思うわ。瑞穂さんのまっすぐな性格を最も知っているのはむしろ朱音さんよ”


“はい、私もそう思います。瑞穂さんはだまし討ちができる性格ではありません。もし、朱音さんに何か吹き込まれていたとしても、嘘のつけない瑞穂さんはすぐに顔にでますし”


「「「……」」」


「な、何よ」


 突然、顔を上げた三人にジッと見つめられて、若干、引いてしまう瑞穂。

 その様子を見て三人の表情が和らいだ。


「いえ、すみません、では早速、対戦相手の分析をしましょう! 祐人さんには勝ち上がってもらって、最後に瑞穂さんに負けてもらうために!」


 ニイナが何事もなかったように仕切りだす。


「ちょっと、その前にさっきのは何だった……」


「そうね、始めるわよ、最後に瑞穂さんが祐人に勝つ作戦のために!」


「はい! 祐人さんが瑞穂さんに負ける作戦のために!」


「だから……そのために集まったんじゃない。一体、何なのよ……」


 顔を引き攣らせる瑞穂に静香が瑞穂の肩に手をかける


「ははは、実はねぇ、朱音さんは……」


「「「ダメ―――――!!」」」


 三人は猫のような瞬発力で静香に飛びついて、その口を押える。


“ちょっと、静香! 瑞穂さんが変に意識しだしたらどうすんのよ!”


“そうです! 気が変わったら厄介です”


“照れだすと、瑞穂さんはすごく可愛くなるんです! やめてください!”

 三人の少女に襲われて「ムー! ムー!」とジタバタしている静香。

 そこに部屋の襖が開き、一悟が携帯を片手に部屋に入ってくると、わけの分からない状況を目の当たりにして呆れた表情を見せた。


「何をやってんだ? こりゃ」


「……私が知りたいわよ」


 瑞穂が力なく答えた。




 茉莉や一悟たちは畳の上に座りながら、ニイナの作った資料に目を通した。

 そこにはトーナメント初戦の勝者の名前とその勝ち上がり方が記載されている。この短い時間でよくここまでのものを用意したと全員が感心する。


「ここに記載されているのは素人の私の視点で書かれているので、能力者の考察や考えを乗せて欲しいんです。あ、もちろん、一悟さんや静香さんも積極的に意見を出してくださいね。そういった切り口も重要な気づきにつながることもあると思うので。やはりまず、話し合うべきは祐人さんの次戦の“てんちゃん”という人物についてですね。能力者としてどう見ます? マリオンさん、瑞穂さん」


 ニイナに問われたマリオンと瑞穂は互いの目を合わせると、マリオンが頷いて前を向いた。


「事前情報でもお話したのですが……このてんちゃんという人の対戦相手だった英雄さんという方は私たちもよく知っている人物なんです。機関でいう私たちの同期に当たる人で、その実力は私たちと同じランクAを受けた人なんです」


「ああ、そういえば言ってたね。性格はアレだけど、実力は間違いないとかなんとか」


「おお、思い出した。祐人もかなり苦手そうにしてた奴か。たしか、強いんだよな? でも、負けちまったんだよなぁ」


「はい、正直言いますと、このてんちゃんという方が勝ち上がってくるとは私も予想外でした。英雄さんは能力者たちの間でも有名な家系で、特にその黄家に伝わる固有伝承能力はとても恐れられたものでもあったからです」


「うわあ、そうだったのかぁ。でもたしか、勝負は一瞬でついてたよな。速すぎて俺にはよく分からんかったけど。うん、待てよ、ということは……このてんちゃんっていう変なマスクしていた奴は」


「はい、恐ろしく強いと思います」


「マジか……。そうなのか? 四天寺さん。相性が良かったとかもあるんじゃねーの?」


「そうね……それも能力者同士の戦いにおいてはよくあることだわ。でも、ランクAの能力者に勝つというのは、相性が良いというだけでは無理よ。本人もそれに近い実力がない限り」


「むむう」


 そこに静香は資料に添付されている大型モニターに映るてんちゃんの写真をこれでもかと睨んでいる。


「どうした? 水戸さん」


「この資料に書いてある通りこのてんちゃんっていう人、こんなに強いのに無名なんだよね? マリオンさん」


「そうですね、機関にも所属していないみたいですし、私も聞いたことがありません」


「はっはーん……怪しいねぇ」


「何が? なにか引っかかるのか?」


「この人がマスクしているところがよ。こんなところに参戦してきて、マスクをしてくるなんておかしい。謎のキャラでそれでいて強い……ふむふむ、そういう時は大体、実は敵に寝返った身内か、過去に倒された仲間だったりするのが定番……」


「それアニメとか、プロレスとかの知識だろうが!」


 全員、ガクッと力が抜ける。


「まあ、何はともあれ、すげー強いってのは確かか。それで大事なのはこいつが祐人より強そうか? というところか。正直、俺には分からんなぁ。どうなの四天寺さん」


「正直に言うと私にも分からない……いえ、本当に分からないの。というのも、この人の勝ち方だけど……まったくどうやって勝ったのかが分からないのよ」


「実は私もです。最後の接触のとき、スキルの発動も見えませんでした。他の試合の人たちも驚くほど強い方たちがいましたが、能力の発動の形跡は見てとれたのにこの人はそれもなしで……しかも、あの映像からは英雄さんの動きが捉えられないほどのスピードだったのに、無傷のようにでした。それはつまり、この人は躱したんです。それで最後は手刀で軽く英雄さんの後頭部を叩いたと思ったら、試合は終わってました」


「……おいおい、ということは、相当ヤベー奴じゃないのか? しかも対策も何も立てられんレベルの相手ってことかよ! どうすんだよ、これ? 結局、祐人任せになっちまうぞ」


「たしかに困りましたね……。頼みのマリオンさんと瑞穂さんがここまで分からないとなると……茉莉さん?」


 ニイナもこれ以上、どう話を進めたものかと困り果てたところで、茉莉が真剣な表情で顎に手を当て、写真を見つめているのが目に入った。


「茉莉さん、何か考えがあるの?」


「あ……いえ、そういうわけではないのだけど。この人、何といえばいいのか……どこかで会ったことがあるような……」


「えーー!? それって水戸さんの考えが当たってるってことか?」


 この茉莉の発言に皆、目を広げる。


「……この目。この目を見ていると、経験があるような悪寒を感じるのよね。この感覚……どこかしら? どこでこれと同じ感覚を……最近じゃないのよね……」


 そこに一悟の携帯に着信が入った。


「あ、祐人だ! ちょっと待ってくれ」


 祐人と聞いて全員、一悟に視線を集中させる。


「もしもし、祐人、ちょうど良かった、今な……え? 頼み? うんうん……うんうん……え? 今から? 何でだよ、わけが分かんねーぞ! ……え? みんないるよ。うん……あーー、分かった、分かった」


 一悟は、全員の顔を見渡すと、謝るように顔の前で片手で拝むように手のひらを立てると、立ち上がり襖の外に出て行った。

 互いに目を合わせる茉莉たちは首を傾げるが、襖の外から一悟の声が断片的に聞こえてくるためその内容が気になって仕方がない。


「うんうん…………は? あーーん!?!?」


 一悟の大声に全員、驚く。


「マジか!? ア、アホすぎる……。いや、お前、これはみんなで対処した方がいいぞ。あん? 馬鹿野郎、身内の恥とか言っている場合か! 泣いても駄目だ! それよりこっちに来れねーのか? その話を直接、みんなに……え? 見張ってないといけない? 何でだよ…………あー、分かった。また連絡する」


 ほとんど丸聞こえだったが、一悟が部屋に戻ってきた。

 一悟は無言で座り、全員を見渡す。

 皆、何のか、さっぱり分からず、少々苛立ちの見える一悟を凝視した。


「祐人からの電話の内容を説明するわ」


 ゴクっと息を飲む、ニイナたち。


「まず……祐人が言うに、このてんちゃんと正面から戦えば、まず勝てない、だと」


「「「「……!?」」」」


 その思いがけない内容にそこにいる女性陣に戦慄が走った。

 特に瑞穂やマリオンは愕然としてしまう。何故なら、二人ほど祐人の実力を知っている者はいない。

 そして、数々の未曽有の困難を祐人が打ち砕いてきたのをその目で見てきたのだ。

 その祐人が戦う前から、勝てない、と言う。

 それは、とてもではないがすぐには信じることなど出来ない内容だったのだ。


「それで、俺たちに頼みがあるとのことだ」


 深刻な表情をしている全員を前に、すでに面倒くさそうに話す一悟。


「あーー、とりあえず、白澤さん」


「え!? 私?」


「ああ、白澤さんは今から俺と出かける」


「えーー!? どこに!? 今から!?」


「……祐人の実家の道場に」


「「「「えーーーー!?」」」」


「そ、それは一悟さん!?」


「あーー、待て待て、今から順に説明するから」


 すると、一悟から語られる内容にまずは跳びあがるほど驚き、その後、全員がワナワナとすると、脱力し……それぞれがそれぞれの方向を向き、頭を抑える。


「それでぇ~、祐人からみんなへの頼みだけど……」


 一悟は大きくため息をする。


「お願いだから、内緒にしてください! だとさ」


「「「「「……」」」」


 なんだか、すべてがどうでもよくなってきたかのような雰囲気が部屋に充満している。

「祐人さんの身内……ですか」

「仙道使いって……本当に」

「仙道使いの家系ってあるんですか?」

「すごいお爺ちゃんだね……お盛んな」


 ここでハッとするように茉莉は漏らす。


「お、思い出した……この悪寒のするいやらしい目、師範だったのね。高校に入学するくらいから感じだしたやつだわ。でも、祐人の話から考えれば……師範も能力者だったのは当り前よね。気にもとめてなかったわ」


 祐人の新しい情報が入ってきたことを、嬉しいと思う部分もあるのだが、その数百倍知りたくもなかったと思う、瑞穂、マリオン、ニイナ、茉莉。


「あはは、面白いなあ堂杜家って。それで袴田君、堂杜君は、何でここに来れないって?」


「それ……聞きたいか? 水戸さん」


「……?」


「なんでも、参加者のお付きにいる女性の風呂を覗く可能性があるから、祐人が見張ってるんだと……さ」


「……」




 その頃……、

 祐人は参加者にあてがわれた屋敷の外で周囲に目を配っている。


「あああ、恥ずかしい! 恥ずかしいよ! みんなどう思ってるんだろう……。それにしても、孫にこんな思いをさせるなんて……あんのジジイィィィィ!」


「お兄さーん、どうかしたぁ? 大きな声が聞こえたけどぉ」


 祐人の背後にある湯気で曇った小さな窓から秋華の声が聞こえてくる。


「あ! ごめん! 何でもないよ!」


 すると、その小窓が開くと湯煙の中から上気した秋華が肩から上まで見えるように顔をだした。


「いいーー! ちょっと! 秋華さん!」


「ふふふ、ごめんねー、お兄さん、見張りなんてお願いして」


「うん! これぐらい、いいから! 窓を閉めなって!」


 あたふたする祐人の姿に吹き出してしまう秋華。


「ははは、お兄さん可愛いねぇ。ほら、琴音ちゃんも見てごらん、このお兄さんの慌てよう!」


「ちょっと、秋華さん、やめてください!」


「いいじゃない、お兄さんが見張ってくれてるんだから、ほら」


 すると、軽い悲鳴をあげた琴音が顔を少しだけ見せる。


「あ、あの……ありがとうございます。堂杜さん」


「あ! いいから、ほら、はやく閉めて! 風邪ひいちゃうよ」


「ね、面白いでしょう? 夏なのに風なんてひかないよねぇ、ね、琴音ちゃん」


 琴音は秋華に誘われて、一緒に入浴することになったのだそうだ。

 秋華から覗かれないために、いい案があると言われて半ば強引に連れてこられたのではあったが。

 窓が閉められてホッとするように胸を撫でおろす祐人。

 まさか、犯人が身内だとは口が裂けても言えない。

 見張りを秋華に頼まれた時も、秋華が怯えるように体を震わせて「怖くてお風呂に入れないの……」とお願いされ、深い罪悪感を感じた祐人はこれを引き受けることになったのだ。

 祐人は周囲を飛ぶ蚊を煩わしそうに追い払う。


「ジジイ……!! 堂杜の恥さらしめぇ」


 そう言うと、祐人は蚊を一匹、叩き落とした。




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