トーナメント戦⑩
「この黄英雄を相手にしたことで臆病風に吹かされたのは理解してやるが、もう……いい加減、かくれんぼは終わりにさせてやる」
英雄は立ち止まると、震える拳を握りしめて吐き捨てる。
すると、強力な霊力のうねりが生まれ、英雄を中心に集約されていく。
その霊力はしっかりと澱みなくコントロールされており、これだけでも英雄の類まれなる才能が垣間見える一瞬でもあった。
「フウーー! 来い、ケットシー! 俺の体を貸してやる」
英雄は黄家に伝わる固有伝承能力【憑依される者】を発動させる。
固有伝承能力とは、その家、もしくは血筋によってのみ発動可能な特殊能力である。固有伝承能力を持つ家系は非常に稀であり、世界を見渡しても数えるほどしかない。
その中でも黄家の固有伝承能力【憑依される者】は有名であり、強力な能力として知られている。
この【憑依される者】は、黄家の人間だけが持つ、神霊や聖獣、または英霊等も含めた人外との感応能力を利用したもので、その成り立ち、仕組みは解明されていない。
というのも、召喚とは似て非なるもので、呼び出した神霊等に自らの身体を貸し出すという通常では考えられないほどのリスクを伴う芸当だからだ。
能力者たちの常識で考えれば、そのまま憑りつかれて身体の主導権を失い、食い殺されてしまう。
だが、黄家の人間だけは、そういったことが起きない。
これはあくまでも噂や憶測の域を抜けないが、黄家の初代が人外とのなんらかの特殊な契約術を開発したか、もしくは自らの血筋に特殊かつ強力な加護を施したのではないかと言われている。
英雄は己の身体の中に自分とは違う者が入ってくるのを感じとる。
この感覚は黄家の者にしか分からない感覚といえるだろう。
すると、僅かにではあるが徐々に英雄の身体、骨格、そして容貌が獣のような姿に変化を見せる。
「猫妖精の王よ! ここに隠れた不埒で臆病者を探し出せ!」
英雄が言い放つと、英雄から一陣の風が巻き起こり、第7試合のテリトリー内にその風が
吹き抜けていく。
そして、その風は段々と数百匹の大型の猫たちの姿に変わっていき、英雄の目となり鼻となり、その情報が英雄の身体と感覚を共有するケットシーに帰ってきた。
“おいおい……黄家の坊や”
「何だ、ケットシー」
“まったく……お前の目は節穴かニャ? こんな探索で呼びやがるニャンてな”
「何だと!?」
“ニャア、もう分かるだろう? 相手がどこにいるのか?”
英雄はケットシーの言葉にハッとし、大きく跳び退いた。そして、そのまま振り返りざまにケットシーから借りた二本の霊短剣を、元々自分のいた位置に放つ。
その霊短剣は地にある英雄の影に突き刺さる。
英雄が跳び退いたのにもかかわらず、そこに残っていた英雄の影……。
「おっとっと! 危ないのう……じゃないわい、危ないぜ!」
その影から緊張感のない声が聞こえたと思うと、影がゆらゆらと立ち上がる。
そこには英雄の霊短剣を左右の人差し指と中指で挟みつつ、大あくびをする影が段々とはっきりとした姿かたちに変化していく。
今、英雄はようやくにして対戦者、てんちゃんとエンカウントした。




