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【書籍14巻発売!・コミカライズ全2巻】魔界帰りの劣等能力者  作者: たすろう
魔界帰りの劣等能力者

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白澤 茉莉

 祐人がホテルの自室に戻り、コンビニのおにぎりを頬張る頃、茉莉は母親に調子が悪いと言い、夕食を断って自室のベッドに力無く横たわっていた。


「……私は最低ね」


 今、茉莉は祐人から告白を受けた当日の会話を思い出していた。

 その日、部活を終えて下校しようとしたところ、何故か祐人が校門の近くで立っていた。顔をやたらと緊張させ、固く、祐人に気づいた茉莉も何かあったのか? と心配になってしまったことを覚えている。

 そのあとに、祐人から話があると言われて、部活仲間に先に帰ってもらうように言い、祐人についていった。祐人の背中は後ろから見ていても、ぎこちなさがにじみ出ていて茉莉も首を傾げたが、すぐに茉莉はピンときた。


(まさか……)


 茉莉の鼓動が早くなった。

 祐人が言う、話の内容が何となく分かったのだ。

 今までも、こうやって男の子たちに話があると呼び出されたことがある。だが、その時の茉莉は冷静そのもので、呼び出された場所に行く途中でどういう言い回しで、相手をなるべく傷つけないようにするかを頭の中でまとめていた。

 だが、今は違う。

 茉莉の顔は赤く火照り、茉莉自身、まっすぐ歩くのがこんなに大変だとは思ったことがない。

 夕暮れ時の中学校の校舎……その裏に二人は着いた。

 祐人は用事がなければ、あまり来ることのない場所だが茉莉は何度となく呼び出された覚えがある場所だ。何故か、皆、告白するときにこの場所を選ぶのは、なんなのだろう? と茉莉は緊張しながらも考える。

 茉莉はまだこちらに振り返らない祐人を見た。その姿は明らかにあまりの緊張のためだろう……祐人の体はガクガクと不思議な動きをしていた。

 その様子を見て茉莉の緊張は解け始める。というより、正直、もっと堂々とできないものか、と思ってしまった。


(なんで、そこまで緊張するのよ! もう少し男らしくできないの!? いつもそうだけど!)


 中々、振り向かない祐人に茉莉は段々、イライラしてきて、普段の祐人と茉莉の関係性が色濃くなる。茉莉の心からロマンチックさもサプライズも薄くなくっていった。

 すると、数秒してようやく祐人は振り返った。

 その顔は意を決した表情。

 しかし……その先には不満顔の茉莉がいた。


「……」


 祐人は、茉莉の表情に気圧されるが、ここまで来たのだ、と、なけなしの勇気を振り絞る。


「茉莉ちゃん! 話っていうのは……」


 祐人の告白が始まり、茉莉は祐人の告白の口上を聞いていた。

 茉莉は祐人の顔を見つめる。

 そして、茉莉のイライラが増大する。

 何故なら茉莉の想像する彼氏像は、自信を持ち、ちょっと茉莉と意見が違っても、自分の意見を通し、 茉莉をグイグイ引っ張っていく。そして、自分はそんな彼氏を支えていく、ということを想像していたのだ。

 それを想像するとき、時折、その彼氏の顔が祐人になったことがあったが、それは付き合いが長いせいだと考えたものだった。何故なら、祐人はその茉莉の想像する彼氏のビジョンとは違いすぎたからだ。

 だが、想像上で頻繁にこのような彼氏が祐人になっている場面が浮かびだす。すると、茉莉は無意識にこのことが気になってしまい、祐人に対してそういう男になるように言うようになってしまった。祐人が自分に対して好意を持っていると気づいてからはなおさらだった。

 ところが、祐人は変わる様子がない。

 どうして、自分がここまで祐人に厳しく言うのか、自分自身疑問だったが、身近な同世代の男の子が祐人だけだったからと茉莉は断じていた。

 祐人の告白の内容は今まで受けてきたものとさほど変わりはない。

 それはいい。

 だが、思ってしまうだ。

 どうして祐人はこんなに自信がないのだろう、と。

 今までの自分との関わりと積み重ねがあるのに。

 そして、祐人の長所はたくさんあるのに。

 それを既に自分には色々と見せてくれていて、それを私は誰よりも認めているのに。

 それなのに祐人はいかにも駄目元で振られても仕方がない、といった態度。

 茉莉の眉間が徐々に寄り、祐人を睨みだす。


(なんで、その祐人がそんなに自信がないのよ! 自分と付き合え! って言えば、仕方なく、ちょっと甘くしてあげて、今回だけは特別に考えなくもないのに!)


 茉莉は今までどの告白者にも感じたことのないイライラが頂点に達する。

 そして、これも他の人には決して出てこない意地悪な気持ちが湧き上がってきた。

 茉莉はまだ、引き気味に言葉を探しながら話している祐人に、口を開く。


「祐人、実はね……」


 茉莉に告白を遮られ、祐人は茉莉の言うことを黙って聞いていると、目を大きくした。


「え!? 茉莉ちゃん、誰それ?」


「祐人の知らない人よ! 名前は……そ、そう、片山君よ」


「じゃあ、茉莉ちゃんはその人と……」


「ま、まだ決めたわけじゃないわ。ただ、可能性がないわけじゃないってだけよ」


「でも……僕には可能性すら……」


 祐人はうつむき加減に、呟いた。

 その祐人の様子に茉莉は心が痛み、咄嗟に大きな声を出してしまう。


「そんなことはないわ!」


「え? それは……」


「あ、いや! まだ正式に付き合うとは決まってないってことよ。ただ、なんというか……それは、それは可能性の高さを言っているだけで、まだ分からないところも無きにしも非ず、と言ったところよ」


「……?」


 茉莉の必死な言いように祐人はポカンとするが、段々、祐人は理解したという顔になる。

 茉莉はその祐人の表情の変化を見て、不安が漂った。


「あはは、分かったよ。茉莉ちゃん」


「え? 何が?」


「いや……今日はごめん、付き合わせて。僕も色々と思うところがあるし……帰るよ」


(な、なに? どういう理解をしたの?)


「ありがとう、茉莉ちゃん。茉莉ちゃんは優しいね」


「え? え? ちょっと……ひろ」


「うん、じゃあ、またね。茉莉ちゃん」


 そう言って祐人は茉莉よりも先に帰っていった。

 茉莉はそれを乗り遅れたバスを見送るように、呆然と祐人の帰っていく姿を見つめてしまう。

 茉莉はつく必要のない嘘をつき、結果、ひどい振り方をしてしまった祐人に声が掛けづらかったのだ。

 その後、茉莉は強い後悔から、重い足取りで一人帰途についた。

 そして何よりも、勢いで片山なる架空の人物を作り上げて、祐人を振ったとき……祐人の見せた顔が思いだされると、その度に何度も自分の馬鹿さ加減に嫌気がさしたのだった。




 茉莉は何も予定のないゴールデンウィークに一人考えにふけり、二階の自室に向かい、何度も祐人が告白してきたときのことを思い出していた。

 茉莉が無気力に自室に入ろうとするとすぐに静香から電話がくる。


「もしもし、茉莉? 堂杜君と連絡とれた?」


「それが……」


 茉莉は静香からの電話をとると、今の自分の沈んだ心のまま話した。


 それをずっと無言で聞いていた静香。

 そして、静香が優しい口調で話し始める。


“茉莉。私はいつだって茉莉の味方だけど、その件のことに関しては堂杜君に同情するよ。あ、振ったことじゃないよ? なんというか振り方が茉莉らしくなかったっていうこと”


「うん……分かってる」


“じゃあ、今回の件はこれでお終い! こうなった茉莉は当分は引きずるかもしれないけど、もう気にしなくていいよ。ただ、前にも言ったけど茉莉の長所の話。私は心配してるんだよ、堂杜君の告白のこともそうだけど、その時、堂杜君も傷ついて、茉莉も傷ついたでしょ? だから、もっと自分に素直にね”


「でも、自分に素直って何なのか……私は自分に嘘をついているつもりなんて」


“そうだね……。嘘はついてないよ。茉莉の考え通りだもんね。でも、私の言っていることはそこじゃないの”


「じゃあ……それは……?」


“それは、茉莉が自分で気付かなくちゃだめ。でも、脅すわけじゃないけど~、気づくのが遅れて、ひっどい後悔だけはしないでよ~?”


「もう、何なのよ、それって……」


 正直、茉莉は今のところピンと来ていない。だが、落ち込んでいるからなのか、または何か他の理由からなのかは自分自身でも分からなかったが、静香の言うことを聞いておこうと思う。


「……でも、心には留めておくわ」


“うん、素直でよろしい。じゃあ、ヒントをあげる。今、茉莉のことだから、この電話を切った後も相当落ち込むと思うのよね。その時になって一番話したい人、一番会いたい人を想像してごらん? そして頭に浮かんだら、何がなんでも連絡をとるの。それで大分、楽になるからね”


「うん……分かった」


“じゃあ、また部活でね。バイバイ”


 茉莉は電話を切り、自室にしばらく一人でいると静香の言った通りにすぐに陰鬱な気分になってしまう。それは自分の行動がその時の祐人を無駄に傷つけてきたことに実感が湧き、ベッドの上で枕を抱きしめる。考えは堂々巡りで、頭と心の中はすっきりしないままであった。


(これは私の……そう、私のせいなんだ……)


 そう考えているうちに、茉莉は祐人に告白された当日の状況をもう一度、克明に思い出してしまう。


(あの時……祐人がもっとしっかりしてくれていたら、こんなことには……)


 イラッ。


 何か茉莉は腹が立ってきた。

 茉莉の脳裏に、祐人が告白してきた時のあの自信の無い姿が映し出される。


 そして、本格的に腹が立ってきた。

 告白の時の態度も、あれはないのではないか、と祐人に文句の一つも言いたくなってくる。

 祐人にとってはある意味、酷い言いがかりであるが、今の茉莉の頭の中は祐人でいっぱいだった。


(そうだ! 祐人と話そう。できれば会って直接説教してやりたい。そうよ、話したいというより、あんな告白じゃ女の子は絶対オーケーしないもの。今後の祐人のためにも!)


 茉莉は静香に言われたことを思い出す。


(今、一番話したい人……ってこういうことだったのね!)


 茉莉は勢い良くベッドから立ち上がった。

 静香が今この茉莉の辿った思考を知れば、茉莉が静香のアドバイスの意味を知るには、まだまだ時間がかかりそうだと頭を抱えることであっただろう。





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