覚悟の入学式①
高校受験をクリアし、新しく通う学び舎の校門の前で、入学者の一人である少年は顔を引き締めた。
だが、引き締めた割にはどうも頼りない。身長は同世代でも平均的なところ。
光が当たると青みがかった印象的な髪をしているのだが、この少年のものとなると、どれも普通に見えてしまうのは、内面から来ている雰囲気のせいかもしれない。
周囲では入学式を前に、新入生達が意気揚々とこれからの新しい学校生活に心をときめかせている。一緒に来ている両親と写真を撮っている人達も散見された。
そのような中、一人、この少年は感慨深げに呟く。
「よく、よくも入学できたもんだ! でもこれからだ。三年間か……短いようで長いよな。なんとか踏ん張らないとな」
そう言うと昇降口のある方へ、意を決したように歩き出す。
「やるしかないよな……。頼れるのは自分のみ」
この少年、堂杜祐人は今年からこの私立蓬莱院吉林高校の新一年生になる。
吉林高校は創立九十年を迎える名門で、文武両道を旨とし、個性的な有名人の多数の輩出でも知られている。校風は自由で人気のある高校である。
難しそうな顔をしていた祐人は、一瞬、顔を緩めて辺りを見回した。
校内の敷地は広く、立派な校舎の裏側には、大きな木々が鬱蒼と茂った裏山があり、景観は悪くない。
その裏山の方を祐人はジッと見つめる。
「……ここの学校の敷地。何だか……特にあの裏山の方から感じるな……」
「よー、祐人!」
「痛て!」
突然、後ろから背中を叩かれ、祐人は前につんのめった。
振り向くと、そこには同じ中学で悪友と呼べる間柄だった袴田一悟が立っていた。そして、一悟はいつものように、血色の良い顔で祐人の肩に手を回してくる。
「何だ? 相変わらず冴えない顔をして」
「相変わらずは余計だ! いや冴えないも余計だ! ……って、一悟!!」
祐人はハッと気付いたように目を見開き、ちょっと涙目になる。
「な、何だよ、そんなに痛かったか?」
「いや……いや違うよ! 一悟!」
既に手を回した状態にもかかわらず、祐人は一悟に躙り寄る。
ただならぬ圧迫感を感じ、一悟は鼻を引くつかせて背中を反った。
「じゃあ、何だよ! 怖いよ!」
「君は、君って奴は……。僕のことを結構大事に思っていてくれてたんだね! 嬉しいよ!」
祐人は力いっぱい抱きつく。
「うげ! こ、こら、離れろ!」
この騒がしい二人の周りにいた女子生徒達から、熱い視線が注がれる。
「見て、何あれぇ」とか「まさか恋人とか!」「この学校って個性派が多いじゃない? だから……あるかもよ」等々、数々の噂が産声をあげている。
そういった周りの状況を敏感に感じ、一悟は力いっぱい祐人を押しのけて離れる。
「あ……」
「たく! 何なんだよ! 入学早々にとんでもない誤解を与えてしまっただろうが!」
「あ……ごめん。僕のこと、覚えていてくれているとは思ってなくて……」
「うん?」
「あ、いや! すごく久しぶりだなと思ってね」
「久しぶり? 俺達は同じ中学だから、たかだか、三週間かそこらだぞ?」
「あ、ああ、そうか! そうだね。ほ、ほらいつも会っていたから……つい」
一瞬、一悟は不思議そうな顔をするが、ちょっと笑い、二人はいつも通りの調子になる。
「そうか、一悟も同じ高校だったんだよね」
「ああ、挑戦校だったから、受かるとは思わなかったけどな」
この袴田一悟は一見、顔立ちは整っているのだが、軽そうというか何と言うか、遊び人風の感じが否めない。だが、祐人とは不思議と気が合い、中学時代からよく一緒に遊ぶようになった。
一悟は話がうまく、陽気な性格から、いつもクラスの中心人物になっていた。積極性があり、目立つ一悟に対して、どちらかというと反対側に位置する祐人と仲が良かったのは、祐人自身意外だったが、旧知の悪友と同じ高校にまた通うのも悪くないなと思う。
「それより祐人! ここはすごいぞ!」
一悟はもう一度、手を肩にまわしてくる。
祐人は、周りからの更なる誤解を恐れながらも、いつになく興奮気味に話す悪友に対して、警戒心を持つ。
こういう時の一悟は、大体ろくなことを考えていない。
「な、何が?」
「周りをよく見てみろよ。いやー、やっぱり全国区の有名私立だけあって、お嬢様風の可愛い女の子がいっぱいいるのよ。こりゃあ、初日から忙しくなりそうだ」
祐人は大きく溜息をついた。
(こっちはそれどこじゃ無いってのに……。まさか、こいつはそのために勉強していたんじゃないだろうな……)
しかし、今日は入学式で、普通は気分も高揚するものかもしれない。
「はは……。まあ、頑張ってよ」
その祐人の態度に、一悟は何を言っているの? と言わんがばかりの顔になる。
「……お前も手伝うんだよ」
「えー! 何で僕が! 一悟が一人でしなよ! そういうの得意でしょ?」
一悟は横を向き、手を眉間近く置きつつ、軽く鼻から息をはいた。
(あ、何だろう、ムカつく……こいつ)
一悟は祐人に向き直る。その仕草もなにか演技が入っている。
「お前……彼女はいるか?」
「いない……けど、一悟もいないだろうが!」
その発言には意に介さず、最後の方の言葉に、覆いかぶさるように悪友は話を続ける。
「俺達は晴れて高校生になったわけだが、祐人君は彼女が欲しいか?」
やたら「祐人君」の部分の声が大きい。
「今、誤魔化された?」
「彼女がほ・し・い・か?」
「う……そりゃ、できることなら、欲しいけど」
「そうだろう。それはしごく当然なことだ。じゃあ、お前が手伝うのは決まりだ。決定だ」
一悟はゆっくりとした動きで、祐人の肩に右手を置き、息子を見るような表情で見つめる。
「いいかな? 祐人君。得意、不得意ではない! お前は彼女が欲しいと思っている。だが彼女はいない。何故か?」
そう言うと、一悟は空を見つめて目を閉じ、拳を胸に置く。
「だから、一悟もいないだろうが……」
「祐人君。それは……行動だよ」
「ねえ、聞いてる? 一悟君。僕の話聞いてる?」
「歴史上、物事の発案者より実行者の方が尊敬を集めるのは、周知の事実だ。ちなみに君が何を言いたいか分からないが、俺は彼女がいないのでは無い……」
「ぬぬぬ……た、確かに」
思い起こさずとも、一悟は中学時代からモテていた。話もうまく外見も悪くない。それは人気があった。その証拠に女友達がやたら多い。外見とは裏腹に、どうやら頭も悪くなかったようだ。
そういう所にも魅力があったのかもしれない。異性に印象の薄かった自分とは大違いだ。
「だから、行動が必要なんだよ。俺は待ってなんかいないし、隠居した爺さんのように日々を過ごす気も無い。彼女が欲しい、強くなりたい、頭が良くなりたい、何でも同じさ。どんな欲求も叶えるための第一歩目は、まず、行動からなんだからな」
一悟は左手も祐人の肩に置き、その両肩を力強く掴む。
「それにお前はそこまで素材は悪く無い! お前は原石だ。俺を信じて任せてみろ。お前を必ず、あのブロードウェイに連れて行ってやる!」
「な、何なんだ? この説得力は……」
彼女と聞いて祐人の脳裏に……この入学前に出会い、そして、共に過ごした自分と同じ藍色の髪をした少女の顔が、ほんの一瞬よぎった。
(そう……彼女ならきっと……)
「どうした? 突然、えらく深刻な顔になって」
一悟は、祐人の顔を覗き込むように見ると……祐人が突然、大きな声をだす。
「分かったよ! 一悟。僕も頑張る。まず、何をすればいいのか、教えてくれ!」
「うわ! そうか! 分かってくれたか! これでお前も可能性の実現への第一歩を、踏み出すわけだな。まずいいか? 向こうから勝手に美少女が来ると思うな。こちらから歩み出すんだ」
「ああ、歩み出すよ! 歩み出しまくってやるよ! 例え、どんなにビハインドがあろうと……いや! 貧乏にも強く、優しい子を!」
「その意気だ祐人! 向こうから来ないのを大前提に努力するんだ」
息のあった二人は、向かい合い、お互いの肘を絡める。これは中学時代からの同意の合図だ。
校門から入ってすぐの所で、ワイワイやっているそんな二人は、一人の少女が近づいてきているのに気が付かない。
その少女は何人もの、特に男子生徒の視線を引き連れている。
そして、その少女は興奮している二人の後ろに立ち止まった。
「おはよう、二人とも。こんなところで何をやってるの? 入学式始まっちゃうわよ?」
祐人と一悟が振り向くと、そこにはお淑やかな声に相応しい容貌をした少女が、立っていた。
「あれ? 向こうから勝手に来た……?」
虚をつかれたように、一悟は間の抜けた声で応じる。
学生鞄を両手で持ったその少女は、肩まで伸びた艶やかな栗色の髪をし、ただ、歩いているだけなのに周囲の耳目を引いてしまう。
「じゃなかった! おはよう、白澤さん。いや、ちょっとね。祐人と同じクラスなれたらいいね、と話していたんだよ」
すぐに落ち着いた感じで、一悟は少女に笑いかけた。話していた内容は違うが、この辺の、異性に対して自分の印象を悪化させない機転はさすがだな、と祐人は感心してしまう。
少女は同じ中学出身の白澤茉莉だった。真新しい制服を着こなし、腰の位置が高いせいか、スカートも短めに見える。
祐人も、馴染み深いこの少女にすぐに笑顔で応じた。
「お、おはよう、茉莉ちゃん。そ、そう! 同じクラスになれればって話をしてたんだよ」
茉莉は屈託の無い笑顔でニッコリ。
「そう。二人とも仲が良いのね」
(そういえば、茉莉ちゃんも僕のこと忘れてないんだね……)
祐人は、茉莉の笑顔を眩しそうに見ながら、何か感慨深く考えてしまう。
「普通、クラス分けは事前に通知される所も多いようだけど、ここのクラス発表は入学式当日に全員に紙で渡されるんだって聞いているわ。この学校のクラスの分け方は簡単でシンプルだから、時間をかけて考える必要がないのよ」
祐人は別段気にしてはいなかったが、そうなんだ、と思う。
「それとねぇ、知ってたかな? この学校はちょっと変わっていて、募集人数は決まっているけど、男女比は決めてないのよ」
「へ? それは……」
一悟も祐人もどういう意味? という顔になる。
「つまりね、完全に試験結果で上位から合格者を出すの。それで今年はね……試験の結果が女の子の方が良かったみたいで、6対4で女の子が多いとのことよ」
それを聞いた途端、一悟の表情が崩れそうになる……。
「だから良かったわね。お嬢様風の可愛い女の子が多くて。初日から飛ばさないようにね。同じ中学出身として、そういう目立ち方は、あまり感心しないと思うから」
顔はモナリザのように微笑んでいる。
でも、何故だろう? 二人の少年は、背中から冷たい汗が流れるのを感じる。
何か威圧感が……特に祐人に向けられているように。
先程のテンションは遠くの彼方へ消え、狼狽気味に祐人は応じる。
「そ、そうだね。は、はしゃぎすぎは良くないね、うん。まったく! ここは神聖な学び舎だぞ。そういう不埒な奴は僕もゆる……せない……。えっと、何で僕ばっかり睨むのかな?」
祐人が話している間に、一悟は涼しい顔をして「全部、聞こえてたんだ。参ったね……」という態度。
「さ、行きましょう。体育館は校舎の裏側よ。ほら、祐人も急いで。ボーとしない!」
そう言うと、茉莉は軽い足取りで歩き出し始める。誰に対しても言葉使いは丁寧な彼女だが、祐人に対しては長い付き合いということもあり、少々厳しい。
だが今はそれだけではなく、しっかり者のこの少女からも、心なしかうきうきした気分が窺えた。
入学式ということもあり、彼女も普段通りにしているつもりが、やはり気分が高揚しているのだろう。
すると、そうだ! という感じで茉莉は振り返る。
「そう言えば、祐人。春休みはどこに行ってたの? 私、何回か道場の方に顔を出したのよ」
「え! そうなの?」
祐人は驚き、目を合わさずに言う。
「あー、ちょっと、出かけていてね……」
「ふーん。春休み全部? 師範に聞いたら、すぐに帰ってくるようなことを言っていたけど」
「爺ちゃんが? ……あ、いや、思っていたより、長くなっちゃってね」
茉莉はちょっと目が細くなり、へぇ~と聞いている。
祐人は、更なる説明を求められる空気を感じて少し身構えた。
「白澤さん。まだ祐人のところの剣術道場に通っているの?」
さりげなく話題を変えることになった悪友の発言に、祐人は内心偉い! と賛辞を送る。
「ん? ええ、高校からも剣道は続けるつもりだったから、感覚を鈍らせたくないなと思って」
「へ~、白澤さんはまじめだなぁ。やっぱり全国大会まで出場した人は違うね」
「そんなことないわよ。精神修養でやっているようなものだから」
謙遜しているが、この白澤茉莉という少女は剣道で有名な才女で、中学時代には全国大会で準優勝をした経験がある。精神修養という割には、多大な実績が伴っていた。
そこにポローン! と妙な電子音が鳴った。何だ? と祐人が首を傾げると、茉莉は気付いたように胸ポケットからピンクのスマートフォンを取り出した。
「ああ、御免なさい。私、友達が待っているから、先に行くわね」
「茉莉ちゃん! 携帯買ったの!?」
「ええ。うちはこういうの厳しかったけど……。入学祝でお父さんに買って貰ったの~」
嬉しそうに答える茉莉に、心底羨ましそうな顔を祐人がすると、横から不敵な笑みをした一悟が割り込んでくる。
「ふふふ、実は、俺も買って貰ったんだ」
「え!」
祐人は一悟が取り出した青い光沢のある携帯を見つめる。
「白澤さん。今度、電話番号教えてよ」
「うん、いいわよ」
そんなやり取りを、時代に完全に取り残された原住民のように呆然とする祐人。
「じゃあ、後でね」
そう言うと茉莉は、体育館の方に小走りで行ってしまう。
祐人も手を振りながら、遠ざかる茉莉の後姿を数年ぶりの邂逅のように、懐かしそうに……見つめた。
祐人と白澤茉莉が出会ったのは、小学校4年の時だった。
祐人の家は、小さい古流剣術の道場を祖父が開いていた。
開いてはいたのだが、その時は門下生はいなかった。その意味でいうと、開いているのか祐人には疑問だったが、そこに祐人の祖父である纏蔵と茉莉の父、正隆が既知の仲ということで、初めての門下生である茉莉が入門してきたのだった。
祐人と茉莉は、通う小学校は違ったが、同い年ということもあって、すぐに仲良くなり、互いに剣の指導を受けた。
この時、祐人はこの可愛く、しっかり者の入門生が来てくれた事を心から喜んだ。つまらない稽古も茉莉と受けると楽しく感じられたものだった。
茉莉の稽古は週三回であったが、茉莉は外見からは想像も出来ない程、気が強く、負けず嫌いの性格で、入門してすぐにめきめきと剣の腕を上達させていった。
その後、祐人と茉莉の通う小学校は別々だったが、その二つの小学校は卒業後、一つの中学校に集約されるという地域だったことから、二人は中学から同じ学校の同級生にもなった。
そういう縁で、祐人と茉莉は気兼ねしない関係で今に至る。
「相変わらず隙がないねぇ、白澤さんは。可愛くて成績優秀、剣道の腕前も全国級。しかも性格も良くて、家も結構、お金持ちって話じゃないか」
言いつつチラッと祐人を一悟が見た。祐人はその視線に気付き、
「な、何?」
「釣り合わんよなぁ、そら振られるわな……」
「ぐ! 昔の話を蒸し返すな。その時は、一悟も応援してくれていたでしょうが!」
「……絶対うまくいく、と思っていたからな」
「え?」
「いや、何でもない……。女の子はややこしいっていうことだな。で、白澤さんは、あの時に言ってた、何だっけ? どっか遠くにいるっていう彼とはうまくやってんのか?」
「……詳しくは知らないけど、うまくやっているでしょ。それから聞いたこともないけど」
「お前……まだ白澤さんに振られたことを引きずっている?」
「ははは、それは、もうないよ。本当に」
「まあ、振られ方としては最大級だったからなぁ、男として。でも、もう一年も前の話じゃねーか。もう、新しい恋をしなさい。俺もいい子見つけたら、紹介してあげるから」
「だーかーらー、本当に引きずってないって! たださ……」
「ただ? (へー、どうやら本当に吹っ切っているみたいだな……)」
「ほら、茉莉ちゃんって、すごく面倒見がいいでしょう? だから……」
一悟は祐人が何を言いたいのか分かった。
「ああ……一年前の。中三にあがる春休み明けから、三ヵ月ぐらいだったっけ? お前が長期に学校を休んだ後のことか?」
「……うん」
「そうだな、自分そっちのけで、お前の後れた勉強の面倒をよく見ていたもんな。確かに……それはちょっと複雑かな、振られた女に世話されるっていうのは。まあ、女って生きもんは、その辺の男心が分からんのさ」
実は、祐人は茉莉に中二の三学期末に告白をした。
そして、見事に振られている。
それは、祐人も覚悟をしていたのだが、その内容がまた酷かった。
まったくの偶然らしいのだが、祐人が茉莉に告白した前日に、茉莉が小さい頃から友達だったという一つ年上らしい少年が茉莉に告白してきたということを茉莉に言われた。
その時、祐人も誰なのか? と聞いたところ、
「祐人の知らないひとよ! 名前は……そ、そう、片山君よ」
祐人は茉莉と小学校4年からの付き合いだが、その人物のことはまったく知らなかったのだが、つまり、状況としては二日連続で二人の男が茉莉に告白したことになる。
だが、珍しいことでは無かったのかもしれない。茉莉は毎年、何人もの告白を受けているのだ。
しかし、それらは茉莉のお目に適わなかったのか、または興味が無いのか、そのすべてを断ってきていた。
ところが、なのだ。
今回は、なんとその小学校の時、一緒だったという男と保留付きで付き合うことを了承したというのだ。保留付きというのは、正式ではなく友達から、ということだった。
だがこれは、これまで全ての告白を断ってきた茉莉のパターンでは、考えられない出来事だったのだ。
当然、このことは、あっという間に学校中で噂になった。その謎の男は一体、誰なのかと大いに盛り上がった。
因みに祐人の方は完全に断られており、予想通り過ぎて、噂にすらならなかったのだが……。
奥手の、しかも、一度も女の子からモテた事の無い祐人は、なけなしの勇気を振り絞り、玉砕覚悟の告白ではあった。
そうではあったが、さすがにこの状況は想定していなかった。
結果、当然というか……
祐人はどん底に落ち込んだ。
覚悟はしていたのだったが……。
また、茉莉は毎週日曜の午後には、祐人の家の道場に来るのである。
振られた直後の祐人は言うまでもなくかなり緊張した。
ところが……茉莉は普段とまったく変わらない態度。これには祐人の方が動揺した。
加えて、道場での練習の後、その片山という一つ上の先輩が茉莉を迎えに来ているらしく、祐人は何度も茉莉に「片山君と用事があるから!」と言われている。
そして、保留付きとはいえ、付き合っているとのことだから当然なのだが……仲が、そう、仲が良さそうなのである。
というのも、ことあるごとに茉莉から片山君について色々と聞かされた。
やれ自信に満ち溢れている、とか、やれ引っ張っていくタイプだとか、と言い、このまま行けば正式に付き合うこともあるかもしれない、と。
祐人は茉莉にその様子を何度も聞かされ、ただでさえどん底だった祐人の心を更に奈落の底まで叩き落したのだった。
その一部始終を知っているのは、本人達と一部の僅かな友人だけである。
その僅かな友人の一人である一悟は祐人に顔を向けた。
(お前の前になると、やたら説明しだしていたな……。ていうか、片山っていう先輩って……まあ、振られたことには変わりないか)
「……俺達も行こう、祐人。そうだな、マジで同じクラスだといいな」
一悟がそう言うと、祐人も頷いた。
「うん? ああ、そうだね」