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呪いの劣等能力者②


「明良さん、すぐに車を……」


「分かった、祐人君。とりあえず君も早急に手当が必要だ。すぐに車を回すから病院まで行ってくれ。志摩さんもこちらにもう着くようだから。しかし……これをどこからなんと説明したら良いものか……」


「いえ、燕止水も一緒に病院へお願いします」


「え!? しかし、もう死鳥は……」


 明良と同様に瑞穂たちも驚く。

 特に志平は祐人に顔を向けて立ちあがった。


「はい……可能性は限りなく低いです。ですが、僕は最後の可能性にかけてみたいんです」


「……それはどういうこと? 祐人」


「先ほど、止まりかかった燕止水の心臓を僕が先に止めた」


「!」


 明良は言っている意味が分からず驚き、志平も祐人の言葉を聞いて目を剥き祐人に迫ってきた。


「祐人! それは本当か!? な、何でそんなことを!」


「それしか……止水を助けられる可能性が浮かばなかった。説明は難しいですが、止水の生命の根源である氣脈を止めています。今のうちにできる限りの治療を施してほしいんです」


「そ、それは祐人君、仮死状態というようなものかい?」


「ちょっと違います。今、燕止水は氣の通っていない無機物のような状態です。ですが、これは非常に危険な術です。一般人に施せば確実に死にますが、燕止水なら……燕止水が自分自身で気脈を動かすことが叶えば……あるいは」


「祐人! じゃあ、止水は……助かるのか?」


 志平は震えるように声を上げるが、祐人は厳しい表情を崩さない。


「志平さん、可能性は……1%未満だと考えてほしい。ただ、あのままにしておけば……燕止水は助からない。あとは……燕止水の志平さんたちと生き続けていくという想いの強さにかけるしか……」


「……」


「でも、もし、奇跡的に目を覚ました時にこの状態では、助かるものも助かりません。出来ることはすべてしておきたいんです!」


「祐人君……」


 自らも全身に重傷を負っている祐人の気迫は志平や瑞穂たちにも響いた。

 ここにいる人間たちには分かる。

 祐人のその縋るような気持ちが偽物ではないと。


「分かった……祐人君。すぐに志摩さんにそう伝えよう。でも祐人君も手当はして貰う。君は放っておくと今にも海を渡ってしまいそうだが、これは私たちも譲れない、分かってもらえるね? 君が死鳥……燕止水にかけている同じ気持ちを、私たちも祐人君に思っていることを」


 明良は瑞穂とマリオンに目を向けると、瑞穂たちは力強く頷いた。


「当然よ、祐人!」


「祐人さん、祐人さんは自分の状況も見ることを忘れないでください!」


 瑞穂とマリオンの真剣でいて厳しい表情に祐人は、何故か心が温まるのを感じる。


「……分かりました。ありがとうございます」


「……祐人」


 志平が祐人の肩に手をかけた。志平のその目には薄く涙が覆っている。


「……ありがとう」


「いや、志平さん、まだそれは……」


「違う! 俺が言っているのはそれじゃない」


「……」


「お前が俺たちに……捨てられ、巻き込まれ、そして失いそうになった俺たちに……ここまで心を砕いてくれたことを言っているんだ。これから起きることは結果だ、それがどのようなものになっても、この気持ちだけは変わらない。だから、ありがとう、祐人。俺はお前に感謝するよ」


「……志平さん」


「ほーほほー、こりゃ、派手にやられたわいの~」


「「「!」」」


 突然、祐人の横から、聞き覚えのない老人の声が上がり、全員が驚愕する。


「いやいや、我が弟子の様子を見に来てみれば……うーん? これを施したのはお前さんか? 若いの」


 突然現れたその怪しい老人は、長い眉毛で隠れた目を祐人に向けた。


(僕が……まったく気づかなかった。この人は……え? 今、弟子って言った? じゃあ、この人は仙人……)


 この突然の闖入者に瑞穂たちは警戒し、咄嗟に構えをとる。


「駄目だ、瑞穂さん! 明良さん! 僕たちが敵うレベルの相手じゃない」


「ふーむ、弟子が最近、顔を見せんからこのおいぼれも困っておったんじゃ、主に食べ物に……。師の面倒も見ずに、あの世にいこうとは……なっとらんの。仙道の追及はあくまで不老不死も含む、と言っておったわいに。ま、無理やり教えたからいかんかったのかのう、ほーほっほー!」


「あ、あなたは燕止水の師匠ですか?」


「うん? こやつ、いつの間に燕などという姓がついたのじゃ? まあ、いいか、そうじゃ、ワシがこやつの師、崑羊じゃ。ところで若いの」


「……はい」


「我が弟子をここまでにしたのは、お前か?」


 崑羊の軽い口調の質問……。

 だが、途端に祐人の全身が粟立ち、死、という数百コマの映像が瞬時に脳裏に浮かぶ。

 祐人の表情は固まり、瑞穂たちもその凄まじい死の氣の余波を受けて、体が勝手に震えだした。


「どうなのじゃ? 若いの……」


「違う!」


 横から志平が怒りの表情で大声を上げた。


「ほ? おぬしは?」


「止水の弟だ! ここにいる祐人はむしろ、止水を助けようとしてくれたんだ! それに何だよ、突然現れて、偉そうに! 師匠だ、弟子だ、って言うんならもっと早く来て助けてくれれば良かったじゃないか!」


「ふむ……弟か? 色々と状況が分からんが、なるほど……嘘をついている風でもないの。……分かった、ではこやつはワシが連れて行くぞ、よいな?」


「え!?」


「大丈夫じゃ、わしの大事な弟子じゃからな悪いようにはせん。ま、死んだら……その時は誰かに責任をとってもらうわい」


 崑羊はそう言い、杖で止水の体をチョンと突くと、止水の体が宙に浮くように杖の先端に乗った。


「じゃあ、の!」


「あ! 止水! このジジイ! 止水を返せ!」


「死ななければ、わしの身の回りの世話をさせてすぐに開放するわい、ほーほっほー!」


 全員、呆然とし取り残されるが、祐人は全身の汗を拭い大きく息を吐いた。


「志平さん、ありがとう。志平さんがいなかったら、僕たち全員が殺されていたかもしれない」


「さっきのは……すごい、プレッシャーだったわ。経験した中でも次元が違う」


「はい……。祐人さん、あの人はまさか……」


「うん、仙道の到達点を垣間見た人たち……仙人だよ」


「あ、あれが……ですか。まさか、この目で仙人を見るなんて……」


「え!? あのジジイが!? 僕にはまったく強いようには……止水の師って言っているのに仙氣も感じなかったし……。いや! それより止水が!?」


「いや……あの人の方が燕止水を助けられる可能性は高いかもしれない」


「本当か!? 祐人!」


「僕なんかよりも次元が違うほど気脈の扱いに長けている人たちだ。それでも必ず助かるとは言えないけど……。あとは待とう。燕止水の意思の力を信じて。あの言いようだと、もし燕止水に何かあったらまた顔をみせるだろうしね」


「……止水。分かった……俺は信じる。止水が必ず帰ってくることを」


「……」


 そこに祐人たちがいる広場の奥から車のクラクションが鳴り響いてくる。


「お、車の準備と……志摩さんも到着したようだ。では、今はあれこれ考えても仕方がない。皆さん、行きますよ。まずは病院です。そして、そのあとは……まあ、想像がつきますが……」


 明良は祐人に顔を向ける。


「はい……僕は中華共産人民国に行くつもりです」


「……祐人、言っておくけど、私たちも……」


「分かってるよ……行こう、瑞穂さん、マリオンさん」


 瑞穂とマリオンは力強く頷いた。

 瑞穂たちもここまでの出来事に何も感じなかったわけではない。

 いや、むしろ怒りに身を焦がしている。

 そしてそれは瑞穂だけではない、今回の当事者でもあるマリオンも心の奥底から湧く嫌悪感に憤りを隠していなかった。


「瑞穂さん、マリオンさん……以前に話していた作戦はなしね」


「……? 祐人、それは?」


「前回の作戦は、祐人さんが侵入して、私たちが陽動をするっていうやつですよね?」


「うん、それは全部なしでいく」


「じゃあ、どうするのよ? 新しい作戦をたてるの?」


「いや……作戦は決まってるよ」


「……それは? 祐人さん」


 祐人は眉間にしわを寄せて、目に力を籠める。


「……暴れる」


「「は?」」


「全力で、みんなで暴れるよ! それじゃなきゃ気が済まない! 瑞穂さん、マリオンさん、大技をたくさんぶちかまして! 僕も闇夜之豹をすべて! 跡形もなく叩き潰すから」


「「……」」


 祐人の言いように、段々瑞穂は嬉しそうに相貌を崩していく。


「……いいわね、それ」


「はい……私もさすがに今回はストレスがたまりましたから……」


 祐人は瑞穂とマリオンを見つめると、


「徹底的にやるよ! 徹底的にね! 邪魔をする奴らはすべて!」


 そう言い放った。


「それで、必ず伯爵とかいう奴も、さっきの女呪術師も……すべて倒す!」


(燕止水、必ず生還してくれ! お前を待っている人がいるんだ。僕はそれまでに必ず、悪しき連中からの呪いがあんたたちに二度と来ないように、その悪縁を断ち切っておく!)




「しかし……ここまでやられるとはのぉ。もっと早く来れば良かったわいの~。しかし、この処置をしたのはあの若いのか……。あの小僧の仙氣の流れ……あれはあの腐れジジイどもの流れをくんでおるわいの」


 空中を移動する崑羊は苦々しい顔を見せる。


(しかし……このままでは確かにまずいの。ワシとて弟子がこうあっさりと死なれてもかなわんしの。この才能も惜しい)


「本当は嫌じゃが……仕方あるまいの。ちょいと、あの羊羹好きに頼むかの……」


 崑羊は大きく息を吸うと、


「嫌じゃのぉぉぉ」


 と独白し、肩を落とした。




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