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すれ違い⑫


「これで全部だね~」


 白は鼻歌交じりに百眼を縛り上げた。

 百眼は唇を噛み、悔し気に顔を地面につけた。


「ぬう! おのれ……おのれぇ!」


 広場での戦闘は白、スーザン、玄の参戦で一気に戦況は瑞穂たちに傾き、闇夜之豹の能力者たちを全員捕縛するという結果で終息していた。

 まず指揮官である百眼を玄が地中に引き込み、無力化したのが何よりも大きく、そのあとは一人ずつ白とスーザンが撃破し捕縛していったのだった。


「白さんたちは本当に弱っていたのですか? あの動きと能力……とんでもないですね」


 明良が玄たちを惚けるように見つめる。


「これくらいなら軽いでやす」


「へへん、これでまた祐人に褒められるね」


「……頭を撫でてもらう」


「でも、流石にこれ以上はきついでやすな、白、スーザン、我々はここで退散しましょう。親分にも必要以上に頑張るなって言われてやすし」


「えー、祐人に会ってからにしようよ~」


「……(コクコク)」


「まあまあ、実際、これ以上消耗すると実体化が解けて霊体になりやすぜ? そうしたら学校での成り代わりも無理でやす。全部、嬌子たちに持ってかれやすよ?」


「ええ!? それは嫌だ! また一悟とも遊びたいし!」


「一悟……あいつ、面白い……」


「じゃあ、行きやしょう。じゃあ、明良さん、あっしらは先に帰りますわ」


「あ、はい。皆さん、ご助力、感謝します」


「またねー、祐人に早く帰るように伝えてね!」


「……伝えて」


「はい、分かりました」


 そう言い残すと、玄たちはスーと姿を消した。

 ちなみに玄たちはずっと、捕らえた闇夜之豹たちを踏みつけながら平然と話していたので、明良は捕縛し集められた闇夜之豹たちを若干、気の毒そうな顔で見つめる。


「そんなことを言っている場合じゃないわよ、明良。祐人の方がどうなっているか……。マリオン、祐人の状況が気になるわ……マリオン? どうしたの?」


 マリオンの顔色の変化に気づき瑞穂が怪訝そうな表情を見せる。


「いえ……先ほどから、視線のようなものを感じるんです。何と言いますか、とても薄暗く、闇の力を孕んだようなものに……」


「それは……マリオン、まさか敵の呪詛!?」


「いえ、その可能性はありますが、これでも私は神の加護を得たエクソシストです。呪詛の類には強い耐性を持っていますので大丈夫です」


「もしかしたら、まだ敵の能力者がいるのかもしれません。この敵の標的はマリオンさんです。念のためマリオンさんは私たちの後ろにいてください」


「はい……明良さん、ありがとうございます。でも、大丈夫です。それに祐人さんがまだ戦っているはずですので、私も……あれは!? 瑞穂さん!」


「え!? あ!」


 マリオンが指をさし、その方向に振り返ると上空から急降下してくる人間が目に入り瑞穂も明良も驚く。


「あれは死鳥! 祐人君は!?」


 止水は広場中央にいる瑞穂たちから見て広場の北側の端に着地し、誰かを待ち受けるように林に向けて構えを見せた。

 だがその姿は全身に手傷を負い、左腕を垂らすという満身創痍のものだった。


「なんと! あの死鳥が相当なダメージを負っている。祐人君がやったのか。瑞穂様!」


「ええ! 今のあいつなら私たちも援護が可能だわ……」


 チャンスと見た明良と瑞穂は精霊をその手に集め始め、こちらに背を向けている止水に攻撃のタイミングを測りだすと……、


「止水!」


 その背後から大声が発せられ驚き振り返る。


「志平さん!? まだ危ないですよ! 中に戻ってください! おい、志平さんを中に……」


「待ってくれ! 止水と話を! 俺は止水の本心を聞かなきゃならないんだ! 止水!」


 志平のその叫びが止水に届くか届かないかという時、祐人が木々の間から飛び込んでくる。


「祐人!」


「祐人さん!」


 止水と祐人が激突した。凄まじい衝撃風が吹き荒れ、遮蔽物のない広場の中央にいる瑞穂たちのもとにまで届き、思わず全員、体を庇った。

 この衝撃風で縄でがんじがらめにされている闇夜之豹がゴロゴロと転がっていき、それぞれにうめき声を漏らす。


「な……祐人さん!?」


 何とか目を開けたマリオンは祐人の手傷の深さに気づき手を口で覆ってしまう

 互いに重傷を負ったとは思えない動きで広場を駆け巡りぶつかり合う祐人と止水。

 明良と瑞穂も援護しようと集めていた風精霊を放つタイミングが取れないほどの動き。


「止水ぃぃ! もう止めてくれよ! 止めてくれ!」


 志平の悲鳴を受けても止まらない、止まれない二人の仙道使いは広場を縦横無尽に暴れまわる。


「ぬうう!」


「はああ!」


 止水と祐人の右手に握られる棍と倚白が高速で何度も至近でぶつかり合う。

 止水の右耳が裂けると祐人の左目の上部が裂けた。


「燕止水! もう止めろ! 闇夜之豹は敗北した。もうこれ以上は無駄な争いだろ!」


「俺を燕と呼ぶな! まだ終わっていない! この死鳥がいる。俺を止めねば、あそこにいる連中も叩きのめすだけだ! 堂杜祐人!」


 止水は崑で後ろに反転すると、仙氣を込めた棍を瑞穂たちに向かい薙いだ。

 祐人の顔色が変わる。


「ハッ! 瑞穂さん! マリオンさん!」


 止水の棍から放たれる豪風が大地を巻き込みながら瑞穂たちに迫る。


「クッ! 明良、全力で!」


「はい!」


 だが、辛くも瑞穂と明良の形成した風の二重の防壁でこれを防いだ。

 先程、攻撃のために掌握していた風精霊たちのおかげで、防御のための術の発動に余裕が持てたことが功を奏したのだ。

 瑞穂はこのレベルの敵を相対した時は、どのような戦況でも常に精霊の掌握が必要であることをこの一撃で理解する。

 その瑞穂たちの無事を見て、祐人は心底安堵すると……体を震わせ倚白を強く握りしめた。


「て、てめえ……」


 祐人の唇から犬歯が殺気と共に露わになる。


「貴様の世迷い事に付き合う気などない。この死鳥を殺せぬなら……どうなるかを知れ!」


 止水が壮絶な笑みを見せた。


「……」


「……」


 祐人と止水が睨み合い、互いの仙氣が噴き出す刹那、志平が咄嗟に大地を蹴り、止水と祐人に向かい走り出した。


「もう止めろぉぉ! 止水ぃぃぃ!」




 この広場での死闘を上空からロレンツァは暗黒の目で見下ろし、嘲笑うように扇子で口元を隠す。


「百眼たちは敗北したようね……使えぬ男。ククク、では役に立ってもらおうかしら? そこの馬鹿どもが戦っているうちに!」


 突然にマリオンの背筋に冷感が走り、先ほど衝撃風で飛ばされた百眼たちに振り返った。

 すると、百眼は突如、苦悶の表情で涎を垂らし、腹の底から不気味な嗚咽を漏らし始める。


「はぁあ! ぬぅわぁぁ……ロレンツァ様ぁぁぁ!」


 他の闇夜之豹の能力者も同様に気でも触れたように呻きだした。

 この異変に気付いた瑞穂たちもこの闇夜之豹たちを見て愕然とする。


「こ、これは何!? この邪気は……妖魔?」


 瑞穂たちの目の前で百眼たちの体が徐々に膨張していき、縄がメキメキと体に食い込んでいく。そして、その食い込んだ縄の周りからどす黒い体液が流れ出した。


「こ、こいつらは人間ではなかったのか!? 全員、こいつらを攻撃しろ!」


 明良が四天寺家の従者たちに命令を下す。

 その間にも膨張の止まらない百眼たちを縛る縄が弾けるように千切れると、肩が異様に盛り上がり、顔すらもゴキゴキと音を鳴らしながら変形していった。




「ハーハッハ! ああ、可笑しい。中々、美しくなったわね。さあ、オルレアンの小娘を! 息さえしてればいいわ! 行きなさい、可愛い化け物たち! そのあとは仙道使いどもも精霊使いどもも、あのガキどもも! みーんな、まとめて喰らってしまっていいのよ?」


 ロレンツァのその手には闇夜之豹たちの体内に埋め込まれた認識票と同じものを持っている。その認識票の一枚には百眼と刻まれたものがあった。

 そして今、その認識票は端から徐々に黒く色を変えていき……完全に黒く染まる。

 目を垂らし、それを見届けたロレンツァは口の隙間から赤く長い舌を出し、胸を突き出すように天に向けて高笑いをした。





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