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帰還①

 グルワ山の中腹にある洞窟の入口の前でガストンは、祐人の帰りを退屈そうに待っていた。

 するとガストンは倒された大木の幹に座り、珍しく大きなため息を吐く。


「祐人の旦那……結局、使ったんですね~、あの力を……。しかも、私の時より強い力でした」


 ガストンは以前、祐人の記憶から直接知った、祐人に施されている封印について思い出していた。


「確か……封印は7つ。両手両足、頭部、腹部、そして、胸部に……封印が施されてるんですよね~。私の時は両手の封印解除だけでしたが……今回はそれ以上の封印を解いたんですね」


 ガストンは考え込むように頑丈そうな顎に手を添える。


「まったく……こんな危ない封印を旦那がいつでも好きに解除できるようにしてるって……何を考えてるのか私にも分かりませんよ、あの変態仙人たちは」




 実は以前、ガストンは纏蔵、孫韋と会ったことがある。

 というよりも、祐人に会いに行こうと歩いていたら、突然、背後からこのひどく酔っぱらった二人に捕まり、祐人の実家である道場まで強引に連れて行かれたのだ。

 伝説の不死者であり、身長190を超えるガストンが、このニヤニヤ笑っている二人の不良老人に捕まり、ガストンも必死に抵抗したのだが、老人たちはビクともせず、どうすることもできない。

 ガストンは、結局そのまま強制的に道場の縁側に座らされ、纏蔵と孫韋に囲まれた時の映像が浮かぶ。

 何をされるのか、と、1500年で初めて顔を緊張で強張らせたガストンの前に、既に泥酔状態に見える纏蔵と孫韋は、にへら~、と笑った。


「ウヒャヒャ! 吸血鬼、発見じゃ! これはいいのを見つけた! 付き合え、付き合え! 我が孫を頼むぞ!」


「そうだの、そうだの、珍しいのがいたの! 飲め、飲め! おぬし、我が弟子の契約魔だの? では、楽しめ! ほっほっほー」


「え? え? ちょっ! あわわ……あなたたちは旦那の……んぐ!」


 ハイテンションに笑いながら、大量の日本酒と焼酎、そして、老酒を持って来てガストンの前に並べた老人二人は、強引にガストンの口に酒を流し込む。

 ガストンは別に酒が嫌いでも、弱いわけでもない。いや、というよりも酒は強いのだ。ほとんど酔った記憶すらない。

 そのガストンに、酔っ払い老人たちが酒をこれでもかと薦めてくる。もちろん、纏蔵たちも飲みっぱなしだ。

 ガストンは意味も分からず、突然現れた老人たちに永遠とも思える酒宴に付き合わされ、その後……生まれて初めて記憶をなくすまで酒を飲み尽くす。そして、酩酊したガストンは意識を失い、気付くと二人の仙人と吸血鬼という組み合わせの三人で道場の縁側で朝を迎えたのだった……。




「うぷ……」


 その時の記憶の断片が思い出されて、思わずガストンは気持ち悪くなった。

 ガストンはこの1500年の経験で、初対面にも関わらず『二度と会いたくないランキング1位』に位置付けた不良老人たちの顔を頭に浮かべるとすぐに、抹消する。


(あれは……歓迎だったのか、嫌がらせだったのか、今でも分からないですね~。取りあえず、仙人という人たちには、もう会いたくはないですが……)


 ガストンは、悪夢を振り払うように激しく頭は振ると、再び祐人の封印について意識を戻した。


「でも、この力は……旦那と契約してよく分かってきましたよ。これは……あんまり使わせちゃダメな力ですね。これからは私もしっかりしないと。危なく契約が引き剥がされそうになりました……うん? おお! 旦那!」


 ガストンは洞窟から出てきた祐人を見つけて手を上げた。


「ガストン! あ……お前……覚えてくれてるんだ」


「何を言ってるんですか! 旦那は私のやっとできた二人目の友人なんですよ? そんな簡単には友人を止められませんよ、まったく……。あ、話は後です、旦那。変な奴らがここに来ましたんで、すぐにここを離れましょう。そろそろ戻ってくるとおもいますから、今のうちにここを離れましょう!」


「う、うん、分かった」


 祐人とガストンはミンラで拝借した軍用ジープまで走り、乗り込むとすぐにガストンがエンジンをかけて走り出す。


「ガストン、変な奴らって?」


「恐らくですが、あれは機関の連中ですね。ここを調査しに来たんでしょう。もしくは偵察かもしれません。見たところまあまあの手練れがいました。スルトの剣の討伐部隊の可能性が高いですね。ですが、あれじゃ、返り討ちでしたでしょうから、本隊ではないんだと思いますよ。まあ、ちょっと交じって適当に迷子にさせておきましたが」


「え!? お前、それ大丈夫なの?」


「大丈夫ですよ、私のことも分かりはしません。それより、旦那、その傷は大丈夫なんですか?」


「ああ、これくらい大したことないよ。でも、機関の討伐部隊か……じゃあ、交代する能力者が、もう来てたのか」


「多分、そうでしょう。どんな連中かまでは分からないですが、旦那のことを知ったら、面倒なことになりそうと思ったんで、色々とやっときましたよ? もちろん、だ・ん・な、のために」


 ガストンの言いように祐人は苦笑い。


「それとも、旦那がスルトの剣を倒したことが知れた方が良かったですか?」


「いや……いい。これは任務とは違うし、僕が勝手にしたことだしね……」


「……」


「……ガストン」


「何です?」


「ありがとう……」


 ガストンは祐人の感謝の言葉に笑みを浮かべる。


「ふふん、旦那もこれで私にうるさく言うのは、無くして欲しいもんですね~」


「ぐ! うう……分かったよ、もう。……それとガストンさ、ちょっと提案があるんだけど?」


「何です?」


「ガストンもさ、僕の家に来ない? ほら、お前、一応、お尋ね者だし……まあ、強制はしないけど」


「え!? だ、旦那……」


「今回の報酬って、思ったよりもすごく良かったからさ、家も大部分を修復できると思うし……そうすれば、あの無駄にでかい家も使えるようになるからね。ガストンだってちゃんとした家があった方が良いでしょ?」


「だ、旦那……そんなことを考えてくれて……」


「うん……どうかな?」


 祐人の思わぬ申し出に……ガストンは肩を震わせる。そして、ガストンは片手で口を押さえ、ちょっと潤んだ目をギュッと閉じた。


「……ガストン? うん? あれ? お前、感動するのはいいけど……前を見てる? うおい! ちょっと!? 目を開けてくれ!」


「旦那ぁぁーー!! うわーん!」


「ぬわ! ガストン! こ、こら! だから運転中でしょうが! 抱きつくな! ガストン! って……? あああ!! ガストーン、前、見て! 前ぇぇぇーー!!」


 感極まったガストンは祐人に抱き着いたまま離れない。顔を青くした祐人はガストンを引き離そうとするが、前方に下り山道の急カーブが祐人の視界に入る。


「旦那ぁぁぁーー!!」


 ガストンと祐人を乗せた車は、猛スピードで山林に突っ込み、ガストンと祐人は軍用ジープから派手に放り出されたのだった……。


「のわーー!! ブベベ! この馬鹿ガストン! この馬鹿吸血鬼ぃぃぃ!!」





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